フレデリック・ショパン⑤〈エチュード:練習曲 PART4〉6選

クラシック
クラシックショパンピアノ

〈連想第80回〉

前回は、ショパンの2つ目の練習曲である「作品25」のうち、1~6を取り上げました。

ショパンの作品は、大雑把に前期・中期・後期に分けられますが、明確な線引きはありません。

この作品は、パリに来て5年くらい経った1935年から1937年にかけてわりと間もない頃に作られた、「中期の初期」とも言える時期に作られたもので、音楽的な円熟味がどんどん増してきている時期と重なり、名曲揃いとなっています。

今回は、そんな「練習曲」の「作品25」から、7~12を取り上げます。

1 エチュード25番7 嬰ハ短調「恋の二重唱」

左手の旋律と右手の伴奏と第2旋律を弾き分けるという、左手と右手の掛け合いのような練習曲。

練習曲というより、ノクターン:夜想曲的な曲で、その掛け合いの形式的な面から「恋の二重唱」と副題がついてはいるものの、曲調には全く恋感がないという曲でもあります。

なお、ショパン自身が副題をつけたものは1つもなく、副題は全て別の人によってつけられたものです。

演奏は、ウクライナ生まれで、巨匠トスカニーニを義父に持つ、20世紀を代表するレジェンド「ウラジミール・ホロヴィッツ」です。

2 エチュード25番8 変ニ長調

両手の6度和音の練習曲で、かなり難易度の高い曲となっています。

とても短い曲ながら、「ワルツ」や「マズルカ」の響きを思い起こさせるような華やかさがある曲です。

演奏は、正確無比ながら情緒深い演奏に定評のある旧ソ連(現ロシア)出身の「ニコライ・ルガンスキー」です。

3 エチュード25番9 変ト長調「蝶々」

右手の高速で正確なレガート、スタッカートを求められる曲です。

明るく快活で屈託のない曲調ながら、中間部ではショパンらしく魂に揺さぶりをかけるフレーズが盛り込まれています。

演奏は、第6回:1960年ショパンコンクールで、巨匠ルービンシュタインに絶賛され、審査員全員一致で1位だったイタリアの「マウリツィオ・ポリーニ」です。

4 エチュード25番10 ロ短調

オクターブ奏法の練習です。

激しい序盤と終盤は、ショパンというよりリストっぽい技法と曲調だと言われたりもしています。

しかし、中間部は一転、穏やかで優しい「ノクターン」や「マズルカ」を思い起こさせる曲調となりますが、ここでもオクターブ奏法は継続します。

演奏は、1966年:第3回チャイコフスキー国際コンクールで、16歳にして審査員全員一致で1位になった旧ソ連(現ロシア)の「グリゴリー・ソコロフ」です。

5 エチュード25番11 イ短調「木枯らし」

「練習曲」の頂点的作品と言ってよいのではないでしょうか。

まず聴いていていかにも「難しそうだなー」と感じる超絶技巧感。

そして実際も全練習曲中最高難易度の1つ。

それでいて、この感情を大きく揺さぶられるような、狂おしく激しい中に、この世のものを超えた感情というか、喜びや悲しみや苦しみなどの感情が一体となり、それらの感情の一線を超えて迫りくるとてつもない曲です。

至高の芸術作品として、最早練習曲の域を超えています。

演奏は、第11回:1985年ショパンコンクール5位だった「ジャン=マルク・ルイサダ」などに師事した、東大大学院卒の人気ユーチューバーピアニストでありながら、2021年のショパンコンクールにはご自身が参加し素晴らしい演奏を聴かせてくれて、年末には紅白歌合戦にも出場するなど、最近活躍目覚ましい「かてぃん」こと「角野隼人」さんです。

6 エチュード25番12 ハ短調「大洋」

左右両手のアルペジオが延々と続く中から旋律が浮かび上がってくるという、ショパンの天才的な創意工夫、アイデア、そしてそのひらめきを緻密に譜面に落とし込むというプロフェッショナルさなど、ショパンの偉大さを感じざるを得ない曲。

本当に超ハイレベルな真の芸術作品と言えると思います。

曲の終わりも含めて、24の練習曲の最後にふさわしい、素晴らしい曲です。

演奏は、1990年チャイコフスキー国際コンクールで優勝した旧ソ連(現ロシア)出身の「ボリス・ベレゾフスキー」です。

念の為ですが、オリガルヒの一翼だったボリス・ベレゾフスキーとは同姓同名ですが全く無関係です。

前回から2回に渡り「練習曲」の「作品25」12曲全曲を取り上げました。

これで4回に渡り練習曲24曲全てを取り上げました(残りの3曲は趣向がちょっと違うので今回は取り上げません)が、「練習曲」でありながら素晴らしすぎる芸術作品となっており、間違いなくショパンの代表作の1つと言えるでしょう。

ここで、24曲の練習曲の中から、難易度、芸術性において突出している「25-11:木枯らし」について、色々なピアニストの演奏を取り上げてみたいと思います。

この、聴くものの魂を揺さぶる超絶技巧練習曲を弾きこなせば、インパクトはとても強く、感動を与えること間違いなしなので、様々なピアニストがこの曲に挑戦し、名演を残しています。

次回は、様々なピアニストによる「木枯らし」を聴き比べのようなかたちで取り上げようと思います。