DJプレミア④〈ノリノリで勢いがありテンションが上がる〉5選

ヒップホップ
引用元:"File:D+d-01.jpg" by mika vaisanen"
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〈連想第100回〉

前回まで3回にわたりDJプレミアの様々なタイプの曲を取り上げてきましたが、今回はテンションの上がるノリノリな曲を取り上げます。

プレミアのスタイルは、90年代後半以降、それまでの渋いイメージからノリノリで外向きなイメージに変わっていきます。

しかし、そのトラックは超高度なチョップ&フリップなどによって組み立てられているものが多く、逆に聴いていてチョップだと気づかないタイプのものも多いです。

技を極めると超絶技巧も簡単に見えてしまう現象と同じです。

そんな超絶チョップで勢いのあるノリノリな曲を5選します。

1 J-Live – The Best Part(2001)

90年代半ばにフリースタイルの名手として名を馳せた元教師「ジェイ・ライブ」が、レーベル側のイザコザなどを経て、2001年に満を持してリリースされたアルバム「the best part」に収録されている同名曲。

プレミアが自身のミックステープの中で、「ジェイ・ライブ」の12インチシングル「braggin’ writes」をガシガシ2枚使いして話題になり名を上げたという縁もありました。

このアルバムは、レーベル側のゴタゴタで中々発売までこぎつけられず結局自主レーベルからの発売になったという経緯があったため、プロダクションは96年から99年までに作られたもので、この曲も99年の作とされています。

プレミアのほか、「ピート・ロック」「DJスピナ」「プリンス・ポール」「グラップ・ルーバ」などそうそうたるメンバーがプロデュースしている、名曲ぞろいの隠れた名盤です。(ジャケもいい感じ)

そんな中、プレミア印全開のこの曲は、勢い、疾走感があり、ノリノリでテンションが上がります。

最初の小節のループの元ネタは「デニス・ウィリアムス」「I Believe In Miracles」の0:20ですが、原曲のスローでアーバンな雰囲気が、こんなにも猛々しく迫力・勢いのある感じになるのが何百回聴いても謎のままです笑。

そして後ろの小節のループは、元ネタ不明ですが、「パンフルート」か「サンポーニャ」のようななんともワビサビのある鳴りの素晴らしいアクセントの効いた音で、この前後の音の対比が最高です。

そして16小節に一度出てくるアクセント的な音は、映画「アルタード・ステイツ」から、クラシックの系譜の現代音楽作曲家「ジョン・コリリアーノ」「First Transformation」の冒頭です。

曲の構成やチョップしたネタの使い方はプレミアのテンプレートのような定番スタイルながら、非常に高度なチョップやフックの声ネタも作り込まれていて、そして何よりジェイ・ライブのラップがキレキレでめちゃめちゃかっこいいです。

ラップの冒頭のフレーズは「EPMD」「it’s my thing」の冒頭のフレーズを模倣し、中盤ハンドクラップのみでラップするところは「ビッグ・ダディ・ケイン」「on the bugged tip」を模倣するなど、偉大なレジェンド達へのリスペクトに溢れています。

完成度やインパクトがとても高い、プレミアの隠れ名曲ではないでしょうか。

ドラムは、プレミアが最も多用しているプレミア印のプレミアドラムです。

フックの声ネタは、上述の「ジュース・クルー」の「ビッグ・ダディ・ケイン」「on the bugged tip」の2:35、「ジェイ・ライブ」自身の「them that’s not」1:17、「モブ・ディープ」「quiet storm」1:57です。

2 Afu-Ra – Defeat(1999)

「ギャングスターファウンデーション」の構成員にして、「ジェルー・ザ・ダマジャ」の盟友的存在「アフ・ラ」です。

2000年に発売されたデビューアルバム「body of the life force」に収録されているシングル曲です。

プレミアとも数多くタッグを組んでいますが、その中でもこの曲は、はねるビートで疾走感がありノリノリです。

「アフ・ラ」はジャケやPVなどにいつもカンフースタイルで登場することが印象的ですが、実際にカンフーをやっていて造詣が深いようです。

ヒップホップアーティストはとにかくカンフー好きが多いですが、その中でもこの「アフ・ラ」はその本格的な徹底ぶりが際立っています。

抑揚のない淡々としたラップスタイルがクセになります。

それにしてもこの時期のプレミアは本当に脂が乗りきっていて、そのキャリアの中でも頂点と言っても良いくらい多産でいずれも高クオリティのものばかりです。

一見(聴)シンプルに聴こえるこの曲も、かなり高度なチョップにより組み立てられているのが、元ネタを聴くとわかります。

元ネタは、「ジェーン・ナイト」「why i kee living hese memories」の1:10と、↑1と同じ「ジョン・コリリアーノ」「First Transformation」の冒頭かと思われます。

フックの声ネタは、「ジェド・ダスト」「stricktly kings & better」の0:34、「ブラック・ムーン」「two turntables & the mic」の3:53、「スウェイ・アンド・キング・テック」「the anthem」の2:09です。

3 Nas – Come Get Me(1999)

言わずとしれたNY・クイーンズブリッジのスーパースター「ナズ」の4thアルバム「nastradamus」に収録されている一曲。

プレミアとは1stクラシックアルバム「illmatic」時代からの盟友的存在で、最強タッグとして数々の名曲を遺しています。

そんな中でもこの曲のトラックは一際アッパーでノリノリなのですが、↑の1と2同様、超絶的なチョップにより作り込まれた、職人技の極地とも言えるものとなっています。

そんなチョップの元ネタは、「ザ・パースエイダーズ」「we’re just trying to make it」の冒頭と0:37です。

声ネタは、クイーンズブリッジの盟友(ビーフもありましたが)「モブ・ディープ Ft ナズ」「it’s mine」の自身のパート2:45、3:05です。

4 Jaz-O & The Immobilarie – 718(2002)

かの「ジェイ・ズィー」の元師匠・元盟友だった「ジャズ・オー」と、その弟分のクルー「インモビリアーレ」とのコラボレーションアルバム「kingz kounty」収録曲。

「ジャズ」→「ビッグ・ジャズ」→「ジャズ・オー」と名前を変えてきた1980年代から活動してきたベテランMCですが、そのスキルは元弟子の「ジェイZ」をしのぎ、「ナズ」にも匹敵するほどのキレキレでスキルフルなもので、めちゃめちゃかっこいいです。

↑1の「Jライブ」もそうですが、スキルが高く物凄く上手くてかっこよくても、それだけではビジネス的な大成功は得られない、という好例(?)のようなラッパーです。

大大大成功した「ジェイZ」とは後に袂を分かちビーフに発展しました(近年和解)。

実力に差があるわけでもない元弟子とのあまりの境遇の違いに、忸怩たる思いがあったのでしょうか。

この曲は勢いがありノリノリで、プレミアには珍しくグルーヴィーなうねりのある曲となっています。

5 Screwball – F.A.Y.B.A.N(2000)

「ブラック・ポエット」「ソロ」「ケーエル」「ホスタイル」の4人からなるNY・クイーンズのグループ「スクリューボール」の、2000年の1stアルバム「Y2K」からのシングル曲です。

このシングルはAB両面プレミアプロデュースで、アルバムにも「ピート・ロック」「マーリー・マール」など豪華なプロデュース陣がそろっています。

その他にも、「モブ・ディープ」「カポネ・ン・ノリエガ」「MCシャン」などクイーンズをフックアップするメンツがフューチャーされているほか、ブルックリンの「ゴッドファーザー・ドン」が参加するなど、かなり力の入った本格的な充実したアルバムになっています。

メンバーの「ソロ」と「ケーエル」は、「カマカズィー(英語で「神風」の意味)」というグループでも活動していましたが、「ケーエル」は2008年に病没しました。

強力メンツでデビューした「スクリューボール」でしたが、既に時代が求めていた(メインストリームで当時売れていた)類の音ではなかったためブレイクせず、「ブラック・ポエット」がソロ活動を行うなどしましたが、その後目立った活動なく終わってしまいました。

しかし、その音楽は混じりっけなしのストレートなNYの本格アンダーグラウンドヒップホップで、今に遺るかっこいい曲が揃っています。

この曲は、プレミアの極限チョップで隙間空きまくりのトラックが、物凄い縦ノリ感を出していて、つんのめり具合ではプレミアの中でもトップです。

こういう「間」に強烈な黒さを感じて心がしびれます。

「Fuck All Ya Bitch Ass Nigga!(F.A.Y.B.A.N)」のフックが印象に残るめちゃめちゃかっこいいプレミアの隠れ代表曲の1つです。

冒頭の声ネタは「ママ・ミスティーク Ft キューボール&カート・カザール」「tremendous」の0:20です。

今回は、DJプレミアプロデュースの曲の中から、チョップ冴え渡るノリノリで勢いのある曲を5選しました。

次回は、プレミアが多くサンプリングする「ピアノ」が元ネタになっている曲から5選します。