DJプレミア⑤〈メロディアスでグッとくるピアノネタ〉5選

ヒップホップ
ソウルピアノヒップホップ

〈連想第101回〉

ヒップホップ史におけるレジェンドプロデューサーの一人「DJプレミア」について連続して取り上げてきましたが、今回はパート5です。

様々な曲調のレパートリーがあるプレミアですが、ピアノネタを使ったとてもメロディアスで、きれいで、そしてディープなタイプの曲も数多くあります。

それは、一聴してプレミア印の「チョップ&フリップだな」とは感じるものの、どこがどう組み立てられているかは見当もつかず、実際に元ネタを聴いてみると「え?ここ??」みたいな感じで、その凄さに圧倒されるばかりです。

あれだけ切り刻んで(チョップ)、それを組み立て直して(フリップ)、それでいて原曲の持つ雰囲気やエッセンスを失うことなく、むしろそれをより際立たせた上でこんなにメロディアスでグッとくる音に生まれ変わらせることができるプレミアはやはり不世出の天才としか言いようがありません。

今回はそんなプレミアプロデュースの、メロディアスでグッとくるピアノネタの曲を5選します。

1 Nas – N.Y. State Of Mine Part2(1999)

何度も取り上げているNY・クイーンズのスター「ナズ」とプレミアとのゴールデンコンビによる一曲。

クラシックアルバム「illmatic」から5年を経てリリースされた、ツタンカーメンのジャケットが印象深い3rdアルバム「i am..」に収録されています。

「illmatic」ではアルバム冒頭のイントロに続き、2曲目がプレミアとの「NY State Of Mine」でしたが、「i am…」も全く同じ展開で、イントロに続き2曲目がプレミアとのこの曲なのですが、曲のイントロがPART1と同じく「ドナルド・バード」の「Flight Time」ネタがかかるという、当時リアルタイムで聴いたときはテンション上がりまくりで、アルバムに対するワクワク感がすごかったのを覚えています。

切なく響くきれいなピアノの音色が、アンダーグラウンド感、クイーンズ感を醸し出していてめちゃめちゃかっこいいです。

声ネタは、「エリックB & ラキム」「mahogany」の3:13です。

〈サンプリング曲〉

2 Jeru The Damaja – Me Or The Papes(1996)

「アーマッド・ジャマル〈the Awakening〉をサンプリングしたヒップホップ〈前編〉」でも取り上げた、「ギャングスターファウンデーション」の構成員の一人、「ジェルー・ザ・ダマジャ」の2ndアルバムからのシングル曲です。

チョップ&フリップの極致とも言える一曲の一つで、元ネタ「アーマッド・ジャマル」「i love music」の5:49を細かく切り取り組み替えることで、何とも音程が不安定な、それが逆に印象的でくせになる美しいループとなりました。

フックに入るレジ音の元ネタは、「ピンク・フロイド」「money」の冒頭です。

声ネタは、ビッグLをマイルドにしたような声とスキルの技巧派フリースタイリスト「マッド・スキルズ」「move ya body」の0:49と、ブルックリンの「ブートキャンプクリック」一派の「ヘルター・スケルター」と「オリジヌー・ガン・クラッパーズ」の連合グループ「ファブ・ファイブ」「lefrah lefrah eshkoshka」の0:43です。

〈サンプリング曲〉

3 Gang Starr – What I’m Here 4(1998)

自身のグループ「ギャングスター」の名曲揃いの名盤5thアルバム「moment of truth」に収録されている隠れ名曲。

後に「スウェイ&キング・テック」が、自身のアルバム「back to basics」に収録されている「ロイズ・ダ・59」「コモン」「チノ・エクセル」をフューチャーした「enough beef」という曲で、このトラックを使っていて、にわかスポットが当たりました。

プレミアの中でも随一と言って良い程の美しくジャジーな曲で、何百回聴いても色褪せることなく、その度に感動します。

元ネタは「ナット・アダレイ・シクステッド」「R.S.V.P」の0:29と0:40です。

〈サンプリング曲〉

4 Buckshot Lefonque – Music Evolution(1997)

ジャズ界の大御所「ブランフォード・マルサリス」率いる「バックショット・ルフォンク」による1997年リリースのジャズヒップホップアルバム「music evolution」から同名シングル曲のリミックスです。

このジャズヒップホップのプロダクションには、1994年の1stアルバムからプレミアが深く関わっていて、一連の作品群の最終地点的な曲がこの曲になります。

このトラックは、5小節ループという、ヒップホップにはまずない珍しいパターンのループです。

さらにこのネタ使いも、プレミアの作品中でも1、2を争う超絶的なチョップ&フリップで、ネタも1つではなく2つのピアノネタをチョップして組み合わせているというとても手のこんだものとなっていて「すごい…」としか言いようがありません。

しかし一聴すると非常にスムースに自然に耳に入ってきて心地良く、そのような超絶プロダクションである感じはしません。(チョップ作品の代表格「you know my steez」とかだと、いかにも「すごいチョップしてる!」ってわかるんですが…)

そんな異色のプロダクションによるこの曲もまた、プレミアの代表的名曲の1つとして途切れることなく受け継がれています。

元ネタは、ジャズレジェンド「セロニアス・モンク」「locomotive」の冒頭の数カ所と、「リッチ・ウェイクマン」「theme from the burning」の0:11です。

時折入る「ジェームス・ブラウン」「get on the good foot」の冒頭のかけ声「hit me!」がまたとても映えます。

〈サンプリング曲〉

5 Gang Starr ft. J-Cole – Family And Royalty(2019)

プレミアが一世を風靡した1990年代中後半からのあとも、そのスタイルはブレずに変わることなく、そして途切れることなく名曲を生み出し続け、2010年には相方グールーを癌で失いながら活動を続け、およそ20数年の歳月が流れました。

そして2019年、なんと「ギャングスター」としてのニューアルバム「one of the best yet」がリリースされました。

グールーの未発表の収録済みのラップを、プレミアがレーベルから高額で買い取り、そこにプレミアの完全オリジナルトラックを載せ、旧知の仲間たちをフューチャーした、という往年のファンにとっては感動的なアルバムでした。

そしてこの曲は相方のグールーを偲ぶ曲で、MVにはグールーの息子が出演しています。

旧知の盟友「ビッグ・シュグ」もいます。

声ネタを使った「ブラック・シープ」の「ドレス」が、サブリミナルのように一瞬、白髪混じりで登場するのもグッときます。

そして、この曲のプレミアのトラックは………変わらぬスタイル、変わらぬクオリティ、変わらぬ声ネタのハメスクラッチ、そして美しくメランコリックでノスタルジックな優しいピアノの音色とメロディー………

過ぎ去った長い年月が思い起こされ、心の底から深く感動します。

若い頃に胸踊らせ夢中になった「ヒップホップ」という音楽に深く触れてから30年以上の年月が過ぎた…様変わりしたシーンの中でそれでも変わらぬスタイルで活動している。

本当に心からの感謝、尊敬、そして永遠の憧れの存在だとあらためて思います。

美しく響くループは、相変わらず一筋縄ではいかないチョップ&フリップで組み立てられていて、「相変わらず、やっぱりすごいなー」と唸らされます。

現代のメインストリームに生きるインテリジェンスラッパー「ジェイ・コール」のラップも相性バッチリで、非の打ち所がありません。

元ネタは、「ラーネル・ハリス」「he looked beyond faults 」3:07~の数カ所です。

声ネタは、「MCライト」「stop look listen」の1:21、前述した「ブラック・シープ」の大定番曲「the choice is yours」の2:02、ダブの名盤から「マイキー・ドレッド」「comic strip」の0:08です。

〈サンプリング曲〉

今回は、DJプレミアの、グッとくるピアノネタの曲を5選しました。

どの曲も美しくメロディアスな洗練されたトラックながら、実は超絶チョップ&フリップによって組み立てられていて、プレミアは本当に真のアーティスト、真の芸術家だな、と心の底から唸らされます。

次回は、そんなプレミアの、今度はストリングスネタを5選したいと思います。