DJプレミア⑥〈キャッチーでテンションが上がるストリングスネタ〉5選

ヒップホップ
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〈連想第102回〉

ヒップホップのレジェンドプロデューサー「DJプレミア」を連続して取り上げていますが、今回はパート6「キャッチーなストリングスネタ」です。

ストリングスネタは、メロディアスでキャッチー、そして心が高揚してテンションが上がるタイプの曲が多いです。

そういった曲調の特色のため、一般的にも知名度が高くヒットしたものや代表作的なものも多いです。

しかしこれらの曲もまた、そのキャッチーさとは裏腹に、高度なチョップ&フリップによって組み立てられているものばかりです。

ただし、プレミアの全ての曲に言えることですが、その高度なトラックメイクテクニックは、あくまでも心を震わせるかっこいい曲を作るための手段として用いているものであって、テクニックのみに走っていないという点が重要なポイントです。

これはプレミアのスクラッチなどのDJとしてのテクニックにも同じことが言えます。

プレミアのDJとしてのテクニックは超絶技巧という類のものではありませんが、はっきりと自分の特色があり、聴くものを引きつけるものがあります。

これはヒップホップ以外の全ての音楽に共通することだと思いますが、テクニックはあくまで表現の手段だということです。

テクニックはとても大事です。しかしそれに偏りすぎてしまうと、「すごい」とは思っても、それだけになってしまう場合もあります。

ショパンが初期のリストに対して「技術偏向だ」と呆れたのもその一例です。

プレミアの職人技のトラックは超絶チョップ&フリップよって成り立っていながら、素直に耳に入ってくるかっこよさ、そんな特色を持っています。

今回は、その特色が顕著な「ストリングスネタ」のものを5選します。

1 Nas – Nas Is Like(1999)

毎度のように登場しているNY・クイーンズ代表でいまだ現役の「ナズ」とプレミアとのコラボ曲で、その中でも代表曲中の代表曲です。

プレミアにとっては一般的にはこの曲が代名詞的な曲なのではないでしょうか。

このトラックは、神チョップの代表的な存在でもあり、「このトラックを再現して作ってみよう!」というようなユーチューブ動画も多数上がっています。

キャッチーで大ヒットしたこの曲もまた、チョップ&フリップの職人技が炸裂していますが、元ネタはプレミアが捨てようとしたレコードだったものを、「捨てる前に一度聴け」と誰かから言われて笑、聴いた結果拾われたのがこの元ネタ「ジョン・ヴィクター・ライドグレン&ボブ・ロバート・ウェイ」の「what child is this」でした。

このネタの冒頭を3分割して、巧妙に組み立て直した結果、ヒップホップ史に残るキャッチーな曲となりました。

冒頭の鳥のさえずりの元ネタは「ドン・ロバートソン」「why?」の冒頭です。

クイーンズブリッジのプロフェットで撮影されたMVも熱く、声ネタも、ナズ自身の「it ain’t hard to tell」0:43、2:41と「street dreams」3:16、そしてクイーンズの先輩、全員レジェンドの「ジュース・クルー」の「ビズ・マーキー」のクラシック「nobody beats the biz」の2:06です。

2 Royce Da 5’9 – Boom(2002)

こちらもプレミアのキャッチーな曲の代表格、デトロイト出身の実力派ラッパー「ロイス・ダ・ファイブ・ナイン」の代表曲「ブーン」です。

2002年のデビューアルバム「rock city」に収録されているシングル曲です。

プレミアとはこの時期以降の盟友で、2014年には「プライム」というデュオを結成し活動しています。

また、ロイスは元々、同じデトロイトの「エミネム」と「バッド・ミーツ・イヴィル」というデュオをエミネムブレイク前から結成していて、今でも活動を共にしています。

そんなロイスとのこのトラックは、プレミア自身もお気に入りらしく、ロイスのラップとの相性も抜群です。

ストリングスネタは「マーク・ハンニバル」「forever is a long,long,time」の始まってすぐと、時計の音とも時限爆弾の音ともつかぬカチャカチャした音は「ザ・ケイ・ジーズ」「anthology」の始まってすぐです。

「ブーン」という声ネタは、ウェッサイのフィーメルラッパー「レディ・オブ・レイジ」「afro puffs」の2:46と、「ギャングスター」「you know my steez」の3:48です。

3 Big L – The Big Picture(2000)

「D.I.T.C.」の「ビッグ・エル」が銃弾に倒れた後に発表されたセカンドアルバム「the big picture」のイントロとして収録されているタイトル曲です。

アルバムの冒頭からいきなりこの曲だったので、アルバムへの期待感が膨らみテンションが上がってワクワクしたのを覚えています。

「ビッグ・エル」は4年程度というとても短い活動期間であったにも関わらず、たくさんの名曲をリリースし、強烈なインパクトを遺しましたが、プレミアとのこの曲も隠れ名曲と言っても良い、ストリングスの超絶チョップがかっこよくて、気持ちが高ぶらずにはいられない一曲です。

元ネタは「ジェリー・バトラー」「whatever goes around」の0:51です。

声ネタは、「ビッグ・エル」自身の「flamboyant」の冒頭のパートと、途中一瞬、スター揃いの「ジュース・クルー」の中のスター「ビッグ・ダディ・ケイン」の代表曲「ain’t no half steppin’」の冒頭が使われています。

4 Gang Starr Ft. M.O.P. – 1/2 & 1/2(1998)

プレミアとは旧知の盟友、ブルックリンの「M.O.P.」をフューチャーした「ギャングスター」の曲で、映画「ブレイド」のサウンドトラックからのシングル曲です。

「ギャングスター」のベストアルバム「full clip:decade of gang starr」に収録されています。

プレミアには珍しく、隙間のほとんどないうねるヘビーなベースが、上ネタとの相乗効果でテンションが上がります。

元ネタは、コメディ映画「the naked ape」のサントラから「ジミー・ウェブ」「gymnast’s bullet」の1:51~です。

声ネタは、「モブ・ディープ」「survival of the fittest」で「プロディジー」のラップの冒頭0:23と、アンダーグラウンドクラシック「ブラザー・アーサー」「what u gonna do」の0:51、そして「ジェド・ダスト」「stricktly kings&better」の1:39です。

5 Pitch Black – It’s All Real(2004)

1990年代前半から活動していたNY・ブルックリンのアンダーグラウンドの実力派苦労人「ピッチ・ブラック」の、2004年にようやく出たデビューアルバム「pitch black law」からのシングル曲です。

アンダーグラウンド感とキャッチーさが絶妙に融合した、ストリングスのカッコよさが際立つ一曲です。

堂に入ったプレミアの王道チョップトラックが流石な一曲で、プレミアの代表曲の1つとして耳に入ることが多い印象です。

元ネタは、イントロが「カルデラ」「ancient source」の0:48と、本編が「ザ・モーメンツ」「when the morning comes」の2:08です。

声ネタは、「ピッチ・ブラック」自身の「show&prove」から0:11、0:27、0:39、2:01、クイーンズのレジェンド「ジュース・クルー」から「マーリー・マール ft.クレイグ・ジー」のクラシック「droppin’ science」の冒頭、同じく「ジュース・クルー」から「ビッグ・ダディ・ケイン」「2 da good tymz」の0:42、KRSワンの秘蔵っ子「チャンネル・ライブ」「mad izm 95 remix」の1:46、そして「アンジー・マルティネス」「ライブ・フロム・ザ・ストリート」の2:16です。

今回は、キャッチーでテンションの上がるストリングスネタ、を5選しました。

どれも真似できないプレミア印のチョップ&フリップによるトラックですが、同時にとてもキャッチーで耳に残るポップな要素もある定番曲でした。

さて次回は、同じストリングスネタでも、今度はキャッチーなものではなくハーコーで男気溢れるストリングスネタを取り上げます。

やはりストリングスには心を高揚させるものがあり、それがハーコー路線となった時、アドレナリンが出まくる、ヘッドバンギンせざるを得なくなる男気全開の曲となります。

というわけで次回は、「ハードコアで男気全開のストリングスネタ」を5選します。