DJプレミア⑪〈スタイルを確立させた代表曲・定番曲〉5選

ヒップホップ
引用元:"DJ_Premier-06-mika.jpg" by Mika Väisänen"
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〈連想第107回〉

ヒップホップのレジェンドプロデューサー「DJプレミア」のプロデュース曲を、毎回テーマを定めて連続して取り上げています。

今回は、プレミアの代表曲・定番曲を取り上げます。

「プレミアと言えば」「定番すぎて何度聴いたかわからない」という観点から取り上げようと思いますが、これは世代によってだいぶ変わってくるところだと思います。

1990年代世代、2000年代世代、2010年世代、それぞれの定番曲があるかと思います。

DJプレミアパート6〈キャッチーでタンションが上がるストリングスネタ〉」で取り上げた「ナズ」の「nas is like」などはある意味最も知られる定番曲と言えるかもしれませんし、今回取り上げる曲以外にも定番的な曲はたくさんあります。

そんな中今回は、プレミアが名を上げ、その存在を知らしめ確立する段階にあって、そのスタイルの代表的なものとして当時から現在に至るまで不動の地位を得ている、いわゆる「クラシック」な曲を取り上げます。

1 Jeru The Damaja – Come Clean(1994)

「プレミアはすごいプロデューサーだ」と誰もが言うようになったのは「ナズ」の「illmatic」への参加が契機となったように思われますが、同じ年、この全曲プレミアプロデュースの「ジェルー・ザ・ダマジャ」の1stアルバム「the sun rises in the east」のリリースによって大きなうねりとなりました。

上記2枚のアルバムでのワークを経て、それまでの渋く職人的な玄人好みだったスタイルが、よりラウドでストレートな縦ノリ必須のかっこいい「ザ・ストリート・ヒップホップ」とも言うべき曲調へと変化を遂げていきました。

その分岐点のど真ん中に位置するこのクラシックアルバムに収録されているシングル曲「come clean」は、まさにその代名詞的な曲で、プレミアが名を上げ騒がれた最たるものと言えるでしょう。

「シェリーマン」の「infinity」の冒頭を元ネタに使ったことも話題となり、それまでのブレイクビーツ主体のグルーヴィーでうねりのあるループから、上ネタ主体のシンプルで隙間の多いスカスカのループへと時代の音は変わっていきました。

しかしながら、前回「DJプレミアパート10〈ドープでディープな鳴りの良い曲〉」で「パブリック・エナミー」から訴えられたことを述べましたが、なんとこの曲でも「シェリーマン」から訴えられてしまいました。

プレミア本人も「まさか気づくと思わなかった」と言っていましたが、タレコミがあったんじゃないか、とうわさされているようです。

当時はこの手の訴訟が多く、一定数のジャズやソウルのアーティストは、ヒップホップにサンプリングされることを「著作権侵害」として嫌う傾向にありました。

かの「サンプリングされ王」の「ボブ・ジェームス」もしばらくの間、自身の曲をサンプリングされることを嫌い、認めていなかったようです。

しかしその後時は流れ、ヒップホップにおけるサンプリングというのがクリエイティブなアートフォームであるということが広く認知され、ひいては「忘れ去られた名曲」や「知られざる名曲」を掘り起こすきっかけともなることにも繋がることから、ボブ・ジェームスをはじめ、サンプリングに理解・推奨する向きも強まってきています。

サンプリングする時、そこにリスペクトやクリエイティビティがあるかどうかが重要なのだと思います。

この曲は、プレミアのこの頃までの「ミニマムループ」スタイルから、「チョップ&フリップ」スタイルへと変わっていくきっかけともなった曲で、その後のヒップホップの歴史における分岐点となった曲の1つとして定番曲と言えるのではないでしょうか。

声ネタは最近新曲も発表した「オニクス」「through ya gunz 」の1:05です。

ドラムは、定番ブレイクビーツ「ファンク・インク」「kool is back」の1:46です。

2 Group Home – Super Star(1995)

↑1より1年後発でリリースされた、これまた一曲を除いて全てプレミアプロデュースによる「グループ・ホーム」の1stアルバム「livin’ proof」に収録されているシングル曲で、グループ・ホームの代表曲です。

この曲も↑1と同様、プレミアの名を知らしめた一曲として必ず出てくる曲で、当時日本のヒップホップ好きの中でも知らないものはいないほどの定番曲でした。

この曲もチョップ&フリップを駆使したトラックで、こういうストイックでテクニカルなタイプの曲は日本人が好むところなのか、当時この「スーパースター」の12インチの売上の8割は日本だったという噂もあったほどでした。

NYのストリート感、地下感が感じられる、ヒップホップのアンダーグラウンド時代の絶頂を象徴するような洗練された曲です。

元ネタは、「キャメオ」「hungin’ downtown」の冒頭、イントロは「アイザック・ヘイズ」「one woman」の0:42、0:52です。

声ネタは、アイドルMC「スペシャル・エド」のクラシック「i got it made」の1:35、「ギャングスター」にフューチャーされたグループホームの「メラチ・ザ・ナットクラッカー」による「words from the nutcracker」の0:32と0:45、同じく「ギャングスター」の「i’m the man」にフューチャーされたグループホームの今度は「リル・ダップ」のパート1:56です。

ドラムはこちらも定番ブレイクビーツ「ジェームス・ブラウン」「funky president」の冒頭です。

3 The Notorious B.I.G. – Unbilievable(1994)

次は「ビギー」こと「ノトーリアス・ビー・アイ・ジー」の、ナズのイルマティックにひけをとらないほどの大名盤1stアルバム「ready to die」に収録されているシングル曲です。

シングルとしてリリースされた12インチは、A面が「ピート・ロック」プロデュースの定番曲「juicy」、B面がプレミアプロデュースのこの曲という豪華・盤石なものでした。(当時はこの組み合わせがたくさんありました)

それにしてもこの1994年というのは、繰り返しになりますがヒップホップがガラッと変わった、変えたアルバムが目白押しです。

「ナズ」「ジェルー」「ビギー」のいずれもデビューアルバムがこの年にリリースされ、それまでのノリノリでグルーヴィーでダンサブルな曲調だったものが、一気にBPMの遅いロービートでダークなアンダーグラウンドな曲調へと転換した年でした。

この転換に至る契機となったものとして、前年1993年リリースの「ウータン・クラン」や「ブラック・ムーン」のデビューアルバムなどの存在、ダークでアンダーグラウンドでハードコアなアルバムがリリースされ、それが1994年の急激な転換へと繋がったのではないかと思います。

そんな時代を象徴するビギーの1stアルバムは、言わずと知れた「ショーン・パフィ・コムズ(当時。何度も名前を変えているので)」のレーベル「バッド・ボーイズ」からリリースされたバランスのとれたアルバムで、メジャー・マイナー双方のリスナーを取り込みました。

このスタイル・路線は大物になるには必須なもので、「ナズ」や「ジェイ・ズィー」など今なお活躍するレジェンドは皆このメジャーとマイナーのバランスをとってきました。

その中にあって、アンダーグラウンド、ハードコア路線を担ったのがプレミアでした。

この曲はチョップ&フリップのかなり実験的なトラックで、元ネタ(不明)を細かく刻み、サンプラー兼ドラムマシーンであるアカイの「MPC60」のパッドに割り当て音程を16段階に振り分けて再演奏する、という手法をとっています。

これはまさにチョップ&フリップの先駆的な手法ですが、ここまで細かく刻み再演奏してしまうと、元ネタの素材を活かすという点ではちょっと趣向が異なってくる、要は音色として音を取り込んで演奏するシンセサイザーのような趣となり、(今で言うブーン・バップとしての)切り取りの美学・面白さとは若干色合いが違ってきます。

現にこのような「サンプリングした音で再演奏する」タイプの曲はその後のプレミアには見られず、あくまで「元ネタの一部を切り取ってループする」というスタイルを貫いてきました。

また、ドラムは超ド定番のブレイクビーツ「ザ・ハニー・ドリッパーズ」の「impeach the president」を細かく刻み打ち込み直し、サビの声ネタは、通常はヒップホップのフレーズを持ってくることがほとんどだったところに、R&Bのスーパースターで当時の時の人「アール・ケリー」の超メロウでスロウな「your bady’s callin」を使ったというのも印象的でした。

しかもこれらのアイデアは何とビギーから出されたものだったようです。

この曲は、ビギーとプレミアの共同によって生み出された実験的なトラックでしたが、完成した曲は、超アンダーグラウンドで怪しさ漂いながらも、キャッチーさもありビギーとの相性もバッチリなかっこよすぎる名曲となりました。

そんなビギーの名盤「ready to die」に泊を付けたこの曲もまたプレミアの定番曲と言えるのではないでしょうか。

声ネタは、前述した「アール・ケリー」「君の体が呼んでいる」の0:58と、「ウータン・クラン」の「メソッド・マン」をフューチャーしたビギー自身の先行シングル曲「the what」の0:23です。

4 Gang Starr – Full Clip(1999)

自身のグループ「ギャング・スター」の数ある定番曲の中でも、また、プレミアプロデュースの曲としても、到達点に位置する、定番中の定番曲と言えるのではないでしょうか。

この曲の収録直前に「D.I.T.C.」の「ビッグ・エル」が銃弾に倒れたため、冒頭プレミア自身よる「Big L R.I.P.」のフレーズから始まることでもお馴染みの、ベストアルバム「full clip:a decade of gangstarr」に収録されているタイトル曲です。

カル・ジェイダーをサンプリングしたヒップホップ」でも取り上げたこの曲もまた、プレミアの芸術的なチョップ&フリップにより、穏やかでメロディアスな原曲の「カル・ジェイダー」「walk on by」の0:26をサンプリングして、かっこよく男気と勢いのある曲に生まれ変わらせた驚愕のトラックの1つです。

グールーのテンション高いMVも見ていて面白く、ギャングスターにとってもプレミア自身にとってもキャリアのピークを象徴するような一曲と言えるのではないかと思います。

声ネタは、ギャングスターの1つ前のシングルでこれもまた定番「you know my steez」から1:55と3:02と3:25、同曲のリミックスから0:42、同じくギャングスターの名曲だらけの「millitia」シリーズからWCとラキムをフューチャーしたパート2の0:22、元ギャングスターファウンデーションの「クラム・スナッチャ」「gettin’ closer to god」の2:19です。

5 Gang Starr – DJ Premir In Deep Concentration(1989)

最後はギャングスターの1stアルバムから、↑の1~4とはちょっと趣が違いますが、DJプレミアの曲のミックスなどの最初や最後によく収録される、お馴染みの曲として取り上げます。

この曲はラップなしのインストの曲で、全編にわたってプレミアが声ネタなどのスクラッチで紡いでいくという、その後のスタイルの原型のようなものになっています。

ここ日本でも、90年代にDJを始めた人の中にはこの曲のスクラッチの完コピを目指して技を磨いた方もたくさんいたのではないでしょうか。

後年バトルDJ達がアルバムを出すようになった時にこのスタイルは模倣されました。

元ネタの「クール・アンド・ザ・ギャング」「summer madness」も定番化し、ギャングスターの定番曲でありながら、ヒップホップクラシックとも呼べる定番曲です。

今回はDJプレミアの代表曲・定番曲を取り上げました。

今回取り上げたもの以外でも定番と呼べる曲はたくさんあり、クラシックと呼べる曲がこれほど多いアーティストも中々いないなとあらためてその凄さを感じます。

さて次回は、プレミア自身のグループ、ギャングスターの作品で、これまで取り上げなかったものの中から順に取り上げて行こうと思います。

まずは、1stアルバムと2ndアルバムから5選します。