〈連想第109回〉
ヒップホップのレジェンドプロデューサーのDJプレミアをシリーズで取り上げていますが、今回は前回に引き続き自身のグループ「ギャングスター」のアルバムを取り上げます。
前回は、知名度やインパクト、オリジナリティという点でまだまだ大ヒットや評価を得てはいなかったものの、その後のスタイルの礎となる非常にクオリティの高い作品だった1st・2ndアルバムを取り上げましたが、今回は「ギャングスター」の知名度を一気に押し上げ、その後に続くプレミア独自の「ミニマムワンループ」スタイルを確立させた1992年の名盤3rdアルバム「デイリー・オペレーション」を取り上げます。
このアルバムはとにかく渋くストイックな作品で、評価はうなぎのぼりだったものの通好みな印象で、当時最も勢いがあったニュースクール系やジーファンク系の流れとは違う、その後まもなく隆盛するシンプルでストイックなイーストコーストアンダーグラウンド系の先駆けとも言えるような内容のものでした。
このアルバムはとにかくプレミアの特徴である「チョップアンドフリップ」スタイルの一つ前のスタイルである「ミニマムループ」が全面に意図的に押し出された内容で、「人とは違うことをやってやる」という実験的でチャレンジングなプレミアの気概が感じられます。
そんな名盤3rdアルバムから、このブログのプレミアシリーズでこれまで既に取り上げた「Soliloquy Of Caos」(第103回:DJプレミア⑦ハードコアで男気全開のストリングスネタ)と「No Shame In My Game」(第99回:DJプレミア③静かで訥々としたアンダーグラウンド)の2曲を除いた他の曲から5選します。
1 Take It Personal
このアルバムを代表する一曲であるだけなく、プレミアの全ワークの中でも外せない代表曲です。
曲調はとにかく渋く男らしくディープでアドレナリン出る系のかっこいい名曲です。
印象的なのは超定番ブレイクビーツ「スカル・スナップス」の「it’s a new day」の冒頭を組み換えたドラムで、組み替えただけでなく音質もザラザラとしたノイジーで骨太な感じになっていて、このビート自体がその後サンプリングされることも多々あるなど、ブレイクビーツのアイコン的な存在にもなっています。
残念ながら元ネタは不明ですが、「テキパスノ」というスクラッチがとても印象的でかっこいい声ネタは「ブランド・ヌビアン」「step to the rear」の0:24です。
2 I’m The Man
3人のラッパーがマイクリレーし、その度にトラックも変わるという変則的な曲で、この構成は次の4thアルバムに収録されている「speak ya clout」に続編的な感じで受け継がれます。
3人のラッパーは、最初にグールー、そしてそのグールーが紹介するかたちで「グループホーム」の「リル・ダップ」、そして「ジェルー・ザ・ダマジャ」へと続きます。
リル・ダップもジェルーも共にこの曲がデビュー曲で初々しさがありますが、次なるラッパーを紹介していく展開がすごくかっこいいです。
元ネタは最初のグールーの渋すぎるネタは「ジェームス・ブラウン」「white lightning 」の冒頭で、ドラムは定番ブレイクビーツでプレミア自身もよく使う「キッド・ダイナマイト」「uphill peace of mind」の2:59、次のリルダップへの繋ぎ部分が「ジ・オージェイズ」「when the would at peace」の冒頭と、ミゼル・ブラザーズによる「ジョニー・ハモンド」「gambler’s life」の4:47、そしてリルダップのパートの渋すぎるベースネタが「キャノンボール・アダレイ」「leo:rosebud」0:08とドラムが1985年のヒップホップクラシックで定番ドラムの「スクーリー・ディー」「p.s.k.what does it mean」、最後のジェルーへの繋ぎが「timecord audio sample」(これはこの後ジェルーのテーマse的によく使われることになります)、ジェルーのパートが「チャールズ・ミンガス」「ii b.s.」の0:33です。
3 Frip The Script(Remix)
最高にかっこいいアルバム未収録のリミックスバージョンです。
アルバムバージョンと同じネタのループですが、そこに更にネタがプラスされています。
むさ苦しくプリミティブな感じがプレミアには珍しく、熱狂とクールが同居したようなメチャメチャクセになってハマる異色曲です。
ちょっとトランス的になるほど心が静かに熱くなり、テンションが上がる隠れ名曲です。
元ネタは「グローバー・ワシントン・ジュニア」「lock it in the pocket」の4:55です。
声ネタは、「エル・エル・クール・ジェイ」「el shabazz」の0:40です。
4 B.Y.S.
ミニマムループを極めたこのアルバムの中でも最もミニマムな半小節ループの曲です。
ミニマムループの大体が1小節(4拍)のループなのですがこの曲は2拍のループとなっていて、2小節目の終わりにアクセント的にベースが入ります。
初期プレミアはファンキーなネタ使いをよくしていましたが、この曲もファンキーで男らしくごきげんなテイストで縦ノリ必至です。
「ex girl to the next girl」のB面として12インチでもリリースされたほか、後年ベストアルバムにも収録されました。
元ネタは「シュガー・ビリー・ガーナー」「i got some」の0:22、声ネタはジュース・クルーから「マーリー・マール ft.トラジェディ・カダフィ」「the rebel」の0:21と、1985年の超特大クラシック「ダグ・イー・フレッシュ&スリック・リック」「la di da di」の冒頭です。この曲のスリック・リックの声が一瞬聴こえるだけで強烈に「うわーこれがヒップホップだー、これがNYだー」と唸ってしまう空気感、雰囲気、情景を感じます。
5 The Illest Brother
アルバム中最もノリノリで勢いがある曲。
ニュースクールテイストを感じる曲ですが、そこにクールながら荒々しく硬派な黒々しさが漂いかっこいいです。
元ネタは、定番ブレイクビーツとしてお馴染みの「ビル・コスビー」「get out of my life woman」のブレイクビーツではない箇所2:29、サビのネタはこちらもサンプリングの大定番「アーマッド・ジャマル」「ghetto child」の3:01と、1回目のサビにのみ使われているのがこれまたド定番ブレイクビーツ「ジェームス・ブラウン」「funky drummer」の5:22です。
声ネタは、こちらもクラシック「エリック・ビー・アンド・ラキム」「eric b is president」の1:07です。
6 Take Two And Pass
気怠くメロディアスなベースラインがスムージーで黒々しく最高にかっこよくハマります。
サビの変則的なベースラインがまた最高に黒々しくかっこよすぎてしびれます。
シングルカットもされずベストアルバムなどにも収録されていない渋すぎる一曲ですが、このアルバムを象徴するような埋もれた名曲です。
元ネタは「エディー・ハゼル」「frantic moment」で、サビ以外が1:58、サビが1:47です。
声ネタはクイーンズのレジェンド集団「ジュース・クルー・オールスターズ」「juice crew allstars」から、クルーのドン的存在MCシャンのパート4:13です。
今回は、ギャングスターの名を高めただけでなく、その後のNYスタイルの礎ともなった名盤3rdアルバム「デイリー・オペレーション」から5選しました。
ミニマムループの渋い名曲揃いですが、次回はそれを更に推し進め完成の息に達した大名盤クラシック4thアルバム「ハード・トゥ・アーン」から6選します。