DJプレミア⑯〈ギャングスター ベストアルバム〉6選

ヒップホップ
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〈連想第112回〉

ヒップホップの一時代を築き、今なお現役のレジェンド「DJプレミア」を連続して取り上げています。

自身のグループ「ギャングスター」の作品をアルバムごとに取り上げてきましたが、今回は1stアルバムリリースから10年の節目である1999年にリリースされたベストアルバム「Full Clop:A Decade Of Gang Starr」を取り上げます。

このアルバムは、これまでのシングル曲を中心に、シングル未リリース曲やアルバム未収録曲などが多く収録されているほか、新曲も多数収録されている2枚組CD(LPだと5枚組)とボリューム満点の、これまでのギャングスターの集大成的なものとなっています。

1994年にリリースされたレジェンドアルバム「ナズ」の「illmatic」で中心的役割を担ったのを契機に、トッププロデューサーの筆頭の一人として時代を切り開いてきたプレミアでしたが、そんな時代も移ろおうとしていました。

1994年から続いていた、プレミアらが主導したBPMの遅いダークでアンダーグラウンドなヒップホップシーンは、1999年にはポップでノリノリなパーティチューン中心のヒップホップシーンに変わっていました。

「パフ・ダディ」「スウィズ・ビーツ」「ファレル・ウィリアムス」「ジャスト・ブレイズ」「(ネオ)ドクター・ドレイ」などの次世代プロデューサーが台頭し、それまでアンダーグラウンド路線だったアーティスト達も時代の変遷とともにアゲアゲスタイルに変化していった(変化しなかったアーティスト達の多くは消えていった)まさに世代交代とも言える時期でした。

このギャングスターのベストアルバムは、そんな時代の過渡期に、それまでの時代の一区切り的な位置付けとも言える象徴的なアルバムと言えるのではないでしょうか。

ちなみに、後に「mass appeal:the best of gang starr」というDVD付きのベストアルバムが2006年にリリースされますが、本作に比べて曲目も少なく、新曲も一曲もありませんでしたので、このアルバムほどのインパクトはありませんでした。

今回は、アルバム未収録曲としてこれまでにも取り上げた「the ? remain」(DJプレミア③〈静かで訥々としたアンダーグラウンド〉)、「1/2 & 1/2」(DJプレミア⑥〈キャッチーでテンションが上がるストリングスネタ〉)、「full clip」(DJプレミア⑪〈スタイルを確立させた代表曲・定番曲〉)の3曲を除いた曲から6選します。

1 Millitia Ⅱ(Remix) Ft. Rakim,WC(1999)

前作5thアルバムに収録され、シングルリリースもされた名曲「ミリシャ」のパート2です。

パート4まで続き、いずれも名曲なミリシャですが、今回はレジェンド「ラキム」とウェッサイ(ウエストコースト=西海岸)の「ダブリューシー」をフューチャーしています。

隙間が空きまくりのツンのめる超シンプルなトラックがかっこよくてクセになります。

元ネタは不明ですが、声ネタは「エリック・サーモン」率いる「デフ・スクワッド」の一員「ジャマル」「fade em all」1:37、前回取り上げたミリシャパートワンの0:16と4:27ほかです。

2 You Know my Steez(Three Men And A Lady Remix) Ft. Lady Of Rage,Kurupt(1999)

前作「moment of truth」に収録され、12インチリリースもされていたチョップ&フリップの代名詞的曲「you know my steez」のリミックスです。

同じサンプリングネタを更にチョップして若干違うテイストになっています。

「ドクター・ドレイ」「スヌープ・ドッグ」達と共に活動したウェッサイ代表の一角の二人、元はクイーンズ出身のフィーメルラッパー「レディ・オブ・レイジ」と「ドッグ・パウンド」の片割れ「クラプト」がフューチャーされています。

チョップの究極系のような曲で、オリジナルと同じネタ使いという遊び心を感じる面白いリミックスです。

そんな元ネタは、前回「DJプレミア⑮〈ギャングスター5thアルバム〉」で取り上げた「you know my steez」オリジナルと全く同じです。

3 So Wassup?!(1997)

スローで重い曲ながら、ツンのめる感は健在の渋くかっこいい曲。

1バースしかなく、サビも声ネタもない珍しいタイプの曲です。

前アルバムからシングルリリースされた「you know my steez」のB面に収録されていました。

最近ではプレミア自身のユーチューブチャンネルで自らのプロデュース曲を語るという超貴重なコーナーのタイトルとタイトル曲にもなっています。

ユーチューブチャンネルもリンクします。

ちなみにユーチューブチャンネルのこのコーナーの第1回目は、「DJプレミア⑪〈スタイルを確立させた代表曲・定番曲〉」で取り上げた「come clean」となっていて、プレミア自身にとってやはりこの曲は記念碑的な作品だったんだなーと感慨深いです。

4 All For The Cash(1999)

CDでは2枚組となっていますが、2枚目の一曲目です。

「ザ・プレミア」とも言うべきお馴染みの安定感のあるスタイルで、黒く男らしくハーコーでチョップ全開のかっこいい一曲。

元ネタは「ジョン・ダンクワース」「bernie’s tune」の冒頭です。

声ネタは、頻繁に使用されるギャングスター自身の曲「dwyck」の2:34と1:48です。

5  Discipline Ft. Total(1999)

パフ・ダディ率いるバッドボーイレーベル所属(当時)のR&Bグループ「トータル」をフューチャーした、R&Bテイストな曲で、シングルリリースもされました。

この時期の前後、プレミアはR&B系のアーティストとも積極的にコラボしていますが、ギャングスター名義でのR&Bに寄せた曲は意外にもこの曲のみです。

バッドボーイレーベルは「メアリー・ジェイ・ブライジ」を皮切りに、90年代初頭より「ヒップホップトラックに乗せてR&Bシンガーが歌う」というのが十八番で、しかもこの「トータル」はその中でもかなりヒップホップ寄りのグループでしたので、プレミアのトラックにも違和感全くなくバッチリハマっています。

ただ、あらためてこう聴くと、ピート・ロックらも含め多くのプロデューサーが女性コーラスを入れた曲を作っているのに対して、プレミアって女性コーラスの入った曲がほとんどないということに気づかされます。

そういうところも硬派なイメージに繋がっているのかもしれません。

元ネタは、「ヒロシマ」の「シントー」1:26です。

ドラムは、「ザ・フィフス・ディメンジョン」「the rainmaker」の0:06です。

6 Jazz Thing(Video Mix)(1990)

1990年に公開された「スパイク・リー」監督、「デンゼル・ワシントン」「ウェズリー・スナイプス」出演の映画「モー・ベター・ブルース」のサントラに収録された曲。

サントラを手掛けたのは、プレミアが活動の初期によくタッグを組んでいた「ブランフォード・マルサリス」でした。

シングルリリースはされましたが、ギャングスターのアルバムには未収録でした。

このベストアルバムには、PV用に作られた「ビデオミックス」が収録されています。

ジャズについて語られているこの曲には、レジェンドジャズミュージシャンの名前や映像がたくさん出てきて面白いです。

元ネタは、ピート・ロックも2ndアルバム収録の「in the fresh」のスキットで使用した(ピート・ロック & CLスムース〈2ndアルバム〉)、「クール・アンド・ザ・ギャング」「dujii」の冒頭です。

ドラムは、同じく「クール・アンド・ザ・ギャング」の「give it up」1:37です。

イントロでは、声ネタをつなぎ合わせるのと同様の感覚で、「セロニアス・モンク」「pannnonica live」と「light blue」のそれぞれ冒頭、「デューク・エリントン」「u.m.m.g.」の3:52、「チャーリー・パーカー」「don’t blame me」の0:39、「ルイ・アームストロング」「mahogany hall stomp」の冒頭など、往年のジャズレジェンド達が次々と紡がれます。

声ネタとしては、ギャングスター自身の「jazz music」の1:43と、「チャールズ・ミンガス」「colloquial dream」の1:15です。

今回はギャングスターのキャリアの集大成とも言えるベストアルバムを取り上げました。

このアルバムのリリース後、ヒップホップシーンはますます変化していき、90sアンダーグラウンドヒップホップは文字通り「アンダーグラウンド」な存在となっていき、メインストリー厶とは別物の存在となっていきます。

しかし、そんなシーンの変化の中にあってなお、プレミアの曲のクオリティの高さはとどまるところを知らず、様々なメインストリームアーティストとのコラボをするかたわら、ギャングスターの隠れた大名盤6thがリリースされます。

次回はそんな時期だった2002年にリリースされた6thアルバムを取り上げます。