フレデリック・ショパン①<ワルツ>6選

クラシック
クラシックショパンピアノ

〈連想第1回〉

ショパンという作曲家にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

優雅でエレガント…このようなイメージにおいてショパンの右に出るものはいないのではないでしょうか。

クラシック音楽史上「陸の孤島」とも呼ばれることもあり、たくさんの作曲家と並んだ時どこか連続性がなく超然としたイメージがあるポーランドが生んだ不世出の天才作曲家兼ピアニスト、それが「ピアノの詩人」こと「フレデリック・フランソワ・ショパン」です。

作曲家として、また、ピアニストとして同時代以降のアーティストへ絶大な影響力を遺した真の天才と言って良い存在ではないでしょうか。

ショパンは生涯を通じてピアノを含む曲しか書かなかった稀有な作曲家で、ポロネーズ、マズルカノクターンバラードプレリュード、ソナタ、スケルツォ、エチュードなど様々なジャンルのピアノ曲を作曲しましたが、その中の一つにワルツがあります。

ワルツは踊るために作られた曲で、ショパンの主な活動場所だった貴族のサロンで演奏された軽やかで気品あふれる音楽です。

ショパンの作った曲はその他にも即興曲や協奏曲、歌曲など、どれも優雅で美しいものばかりで、今後ショパンの生い立ちやエピソードと共にそれぞれ取り上げていきたいと思いますが、今回はショパンのエレガントさが最もわかりやすく多くの人に伝わる「ワルツ」を取り上げます。

1 ワルツ第5番 変イ長調 作品42(1840)

エレガントさ、華やかさ、軽やかさが極まった曲で、曲の構成や独創性などから評価が高く、ショパンのセンスが溢れています。

ちなみに記述によると、ショパンは変イ長調が好きだったようで、実際数多くの変イ長調の曲を遺していて、この曲もその一つです。

リンクの演奏は、2000年ショパンコンクールで最年少で優勝した「ユンディ・リ」のダイナミックな演奏です。

2 ワルツ第13番 変ニ長調 作品70-3(1829)

ショパンが19歳のときの初恋の相手、ワルシャワ音楽院声楽科のコンスタンチア・グワトコフスカを思って作曲したとも言われていますが諸説あるようです。(初恋自体が作り話という説も…)

ただ、そのようなエピソードに信憑性を感じさせるような、甘く優しく穏やかで、そしてどことなく切なさやノスタルジックな雰囲気が漂う曲です。

33歳で病死したルーマニアの天才ピアニスト、「ディヌ・リパッティ」の演奏がとても雰囲気あります。

3 ワルツ第9番 変イ長調 作品69-1(1835)

婚約者マリア・ヴォジンスカのために書いた曲。

しかし婚約後、ショパンの健康問題を理由にマリアの両親からの反対にあい、最終的には婚約は破談となってしまいました。

そのためこの曲は、別れのワルツ、告別、などの標題がついています。

破談前の仲睦まじい時に書かれたはずなのに物悲しさが漂う曲です。

この曲も↑1と同様、ショパンお気に入りの変イ長調です。

演奏は、ルバートやパッセージから醸し出される軽やかで気品溢れる演奏が持ち味で、ショパン弾きの中で最もショパンらしいと言っても過言ではない、46歳で病気により他界したフランスの天才ピアニスト、「サンソン・フランソワ」の演奏が素晴らしいです。

4 ワルツ第6番 変ニ長調作品64-1(1846)

ショパンの曲としては、「ノクターン9-2」「別れの曲」「雨だれのプレリュード」「幻想即興曲」などと並ぶ代表曲の一つ「子犬のワルツ」です。

軽やかで気品あふれるショパンを象徴するような小品で、小気味よく耳に馴染む明るいポピュラーな印象ながら、作曲されたのは心身がボロボロになりかけて内省的で深い名曲が多かった最晩年直前でした。

10年間共にした伴侶「ジョルジュ・サンド」の依頼で飼い犬のくるくる回る様子を表現した曲と言われていますが、サンドとはその後別れ、後年ショパンの死の間際に歌を歌ったことで有名な「ポトツカ伯爵夫人」に捧げられました。

演奏は、2021年ショパンコンクールで素晴らしい演奏が記憶に新しいユーチューバーピアニスト、「かてぃん」こと「角野 隼人」さんです。

5 ワルツ第4番 ヘ長調 作品34-3(1838)

子犬のワルツと並び、軽やかで楽しげで勢いのある曲。通称、子猫のワルツ。

1985年のショパンコンクールで優勝して旋風を巻き起こした旧ソ連の「スタニスラフ・ブーニン」の伝説の演奏です。

連続して「英雄ポロネーズ」も演奏しています。

6 ワルツ第8番 変イ長調 作品64-3(1847)

ショパン生前最後に書かれたワルツ。

シンプルですが、エレガントさの中に儚さや憂いが同居しているショパンの真骨頂的な曲調で、胸に迫ります。

幸福だった過去へのノスタルジックで夢の中のような感覚が感じられ、最後のワルツであることと相まって、わずか39年間のショパンの人生の走馬灯のようにも聴こえます。

お気に入りの変イ長調であることも、偶然ではないような気がします。

ショパンの作品の中ではマイナーながらも、ショパンコンクールでもよく取り上げられ、大御所ピアニストにも人気のある隠れた名曲で、深く胸を打つ感動的な曲です。

エレガントさ溢れる「ダリア・ラザール」の演奏がとても良いです。

今回は初回ということで、今後何度も取り上げたいと思っているショパンの中の、まずはワルツを取り上げました。

ショパンは39歳という若さで、結核により他界しますが、その後に続く作曲家たち、リスト(1歳年下)やワーグナー(2歳年下)などに様々な影響を与えました。

次回は、そのワーグナーやリストのさらに次の世代であり、ショパンから多大な影響を受け、同じフランスのパリで活動したドビュッシーのピアノ独奏曲を5選したいと思います。