バド・パウエル 6選

ジャズピアノ

〈連想第4回〉

前回取り上げたエロール・ガーナーと同時代のピアニストで、ドビュッシー、ラヴェルの影響をさらに強く受けているのがバド・パウエルです。

NY・ハーレムで生まれ育ったバド・パウエルは、破天荒で破滅的なイメージが強く、実際、ヘロイン中毒、アルコール中毒などによりうつ病や統合失調症を患い、最後は心身ともにボロボロになり41歳で病死します。

しかし元々は音楽一家に育ち、クラシック音楽を学ぶなどの素養があり、非常にアグレッシブでありながら繊細で美しい演奏をするピアニストでした。

伝説のヴィルトゥオーゾ「アート・テイタム」に影響を受けたというだけあって、バド・パウエルもかなりのヴィルトゥオーゾでしたが、そんな激しさ、荒々しさの中にとても美しく繊細な響きが同居しているのが最大の魅力、特徴です。

さらにもう一人のレジェンド「セロニアス・モンク」とは盟友で、音楽理論などの影響を受けたということもあり、そのドス黒さや強烈なスウィング感は共通するものを感じます(ミスタッチが多いところも)。

今回はそんな荒々しくも美しいバド・パウエルの曲を6選します。

1 Tea For Two(1951)

これこそがバド・パウエルの真骨頂とも言うべき最高に素晴らしすぎる1曲です。

大定番の名曲「ティー・フォー・トゥー」を、ほぼ原形をとどめていないほどアグレッシブなアドリブで最初から最後まで疾走します。まさに熱狂。

激しさの中に刹那的な熱狂を感じ、たまらない気持ちになります。

「the genius of bud powell」というアルバムに3テイク収録されており、どれも素晴らしいのですが、今回はテイク6をご紹介します。

2 Body And Soul(1949)

一転してスローバラード、こちらも大定番の曲、「ボディ・アンド・ソウル」です。

ゆっくりしたテンポの曲にもかかわらず、「チャーリー・パーカー」の「ラバーマン」にも通ずる迫りくるような熱狂を感じます。

心の底からぐっと込み上げたまらない気持ちになる、とても美しく胸に迫る名演です。

3 Celia(1950)

1950年リリースの名盤「ジャズ・ジャイアント」に収録されているバド・パウエル自身の作曲によるビバップの大名曲「シリア」です。

上の2曲と比べると淡々としていますが、その淡々としているところがドス黒くかつ美しくめちゃめちゃかっこよく、心の琴線に触れます。

間の取り具合やミスタッチ具合などに盟友のモンクっぽさも感じられて面白いです。

4 Bouncing With Bud(1949)

次は同名のアルバムに収録されている、ホーンの入ったセッションです。

テナーサックスの「ソニー・ロリンズ」、トランペットの「ファッツ・ナバロ」達との、これぞザ・ビバップ!とも言うべき黒々しくめちゃめちゃかっこいい曲です。

冒頭のかっこよさは鳥肌モノでテンション上がりますが、そんな中にあってバド・パウエルのピアノはきっちりバランスを取りながらも刹那的な響きがあり、「あーやっぱりさすが素晴らしいな!」と思わされます。

5 The Last Time I Saw Paris(1951)

アルバム「the genius of bud powell」からもう1曲、「ジェローム・カーン」のスタンダードナンバー「ラスト・タイム・アイ・ソー・パリ」です。

このアルバムは本当に神がかっていてとにかく全曲素晴らしく、その中から選ぶのは至難なのですが、この曲も最高です。

楽しげな中に切なさやノスタルジックさが同居し、涙が出そうになるほど美しいピアノソロ曲です。

アート・テイタムからの影響がダイレクトに現れていて、往年のジャズの趣を感じます。

6 Dance Of The Infield(1951)

最後にホーンの入った曲をもう1曲取り上げます。

これもザ・ビバップ!という感じの黒々しくブラックネス溢れる曲でとにかくかっこいいです。

「ソニー・ロリンズ」、「ファッツ・ナバロ」に加えてドラムの「マックス・ローチ」などの往年のビバッパーたちとのセッションが最高です。

バド・パウエルのピアノもキレキレで冴え渡り、かっこいいのに泣ける最高の演奏です。

今回取り上げたバド・パウエルは、アート・テイタム直系のヴィルトゥオーゾでありながら、壊れそうなほどの繊細さを激しく表現する唯一無二のピアニストではないかと思います。

次回はバド・パウエルからの強い影響を公言し、ビバップの次の世代として新たな時代を創造したピアニスト、ビル・エヴァンスを取り上げます。