ビル・エヴァンス 5選

ジャズ
ジャズピアノ

〈連想第5回〉

今回は、前回取り上げたバド・パウエルから大きな影響を受け、更にはドビュッシーの和音を意識的に取り上げるなどしてモードジャズを完成に導いたほか、様々な新しい潮流を生み出したピアニスト、ビル・エヴァンスを取り上げます。

ビル・エヴァンスの繊細でエレガントな透明感のある響きは、印象派からの影響によるところが大きいかもしれません。

ジャズの歴史上における金字塔、マイルス・デイヴィスのアルバム「カインド・オブ・ブルー」で音楽上の主導的な役割を果たしたのはビル・エヴァンスでした。

ビル・エヴァンスはそれまでのビバップ、ハードバップの荒々しさから一転し、クールで知的で繊細な美しい演奏を特徴としました。

今回はそんなビル・エヴァンスの曲を5選します。

1 Waltz For Debby(1966)

ビル・エヴァンスの代表曲中の代表曲、ワルツ・フォー・デビー。

この曲はビル・エヴァンスらしさが全開で本当に美しく、静かだけど胸が高まる曲です。

数多くのバージョン、演奏がありますが、静かで美しいアルバム収録のオリジナルバージョンと、スウェーデンのシンガー、「モニカ・ゼッタールンド」とのリハーサル中の演奏がなんとも雰囲気がありとても良い貴重映像の2つをリンクします。

ちなみにビル・エヴァンスもモニカ・ゼッタールンドもそれぞれ映画化もされています。

2 Elsa(1965)

この曲もビル・エヴァンスらしさ全開の、静かで美しく、そしてかっこいい曲です。

ビル・エヴァンス自身が作り出したこの時代のピアノ曲の主流、潮流の典型のような演奏です。

イギリスBBCの番組、JAZZ625でのライヴ演奏です。

3 Walking Up(1962)

アルバム「how my heart sings!」に収録されているトリッキーなリズムと響きがユニークでかっこいい曲。

ビル・エヴァンストリオは、とりわけベーシストについて、交通事故死したスコット・ラファロと後年のエディ・ゴメスがとりわけスポットライトを浴びることが多いですが、この時期のチャック・イスラエルもとてもクオリティの高いかっこいい演奏がたくさんあります。先程のJAZZ625の演奏もこの曲もそうです。

4 Why Did I Choose You?(1970)

1970年にリリースされた異色アルバム「from left to right」に収録されている代表作の一つ。

なぜ異色なのかというと、ビル・エヴァンスには珍しく、フェンダーローズを弾き、バックにはオーケストラを使っているからです。

ミシェル・ルグランも参加しています。

その中でもこの曲は特に異色で謎が多いです。

冒頭のストリングスがなぜワーグナーの「ニーベルングの指環 第3夜 神々の黄昏 ジークフリートラインの旅」なのか!?

このイントロとの関連性はわかりませんが、その後優しく奏でられるエバンスのピアノとフェンダーローズの美しくも物悲しい音色が心にぐっと迫ります。

このアルバムは全編に渡ってピアノとローズを弾き分けていますが、ローズとオーケストラの相性が非常に良く、優しさと悲しさが同居したような美しく儚い、胸に迫る演奏となっています。

5 Peace Piece (1958)

アルバム「everybody digs bill evans」に収録されている、深く静かな美しい曲。

印象主義的な響きが全般的に漂い、1958年という初期の作品でありながら、後年の「ロニー・リストン・スミス」や「ローランド・ハンナ」などに通じるようなスピリチュアルな雰囲気も色濃い心に染みる作品です。

そして何より、この曲はショパンの「子守歌」にとてもよく似ています。

左手の伴奏が最初から最後までずっとループするところ、その旋律、そしてその上で右手がルバートしながらアドリブ的に進んでいく…

ショパンは時折びっくりするほど現代的なセンスを発するのですが、左手の伴奏が転調せずワンループで終始する感覚は、ヒップホップやレゲエの感覚にとても近いものがあります。ショパンの現代的なセンスについてはいずれ詳しく取り上げたいと思っています。

ビル・エヴァンスはショパンの子守歌から何らかのインスパイアを得て、同じような構造、曲調でオマージュ的に演奏したのかな?などと想像しながら聴くととても楽しいです。

ビル・エヴァンスのピース・ピースと併せて、番外編的にショパンの子守歌もリンクします。クリアで透明感のある澄みきった音色が特徴の辻井伸行さんの演奏です。

今回取り上げたビル・エヴァンスは、ジャズの歴史に多大な影響を及ぼしたピアニストで、ショパンなどとともに、今後何度も取り上げていこうと思っています。

冒頭でご紹介したマイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」についてはこんなエピソードがあります。

マイルスは新しい音楽スタイルを模索する中で、ビル・エヴァンスの音楽性に目を付けてメンバーへの参加を依頼したのですが、実はビル・エヴァンスの前に声をかけて断られていたピアニストがいたのです。

それが、「アーマッド・ジャマル」です。

次回は、静かで洗練された美しい演奏スタイルがビル・エヴァンスと共通するピアニスト、アーマッド・ジャマルを取り上げます。