フレデリック・ショパン④〈エチュード:練習曲 PART3〉6選

クラシック
クラシックショパンピアノ

〈連想第79回〉

前回まで2回に渡って、ショパンの代表作の1つである「練習曲」の「作品10」の12曲を取り上げましたが、今回からは同じ「練習曲」の「作品25」の12曲を取り上げていきたいと思います。

「作品10」を書いたのはショパンが20歳前後で、まだポーランドにいた頃に書かれたものもありました。

この時期の曲には、「作品10」のほか、2つの「ピアノ協奏曲」や「ワルツ13番」、「ノクターン19番」など、ショパンの曲中でも取りわけ素晴らしい名曲が多数あり、ショパンの第一次黄金期とも言える時期でした。

そして祖国ポーランドを旅立ち、ウィーンへ行きますが不遇の時を過ごし、失意の中でパリへ向かいます。

パリでも最初の数年は不遇でしたが、様々な人との出会いを経て一気に名声を得ていきます。

この「作品25」は、そんな時期、1935年から1937年にかけて書かれたもので、「作品10」に比べると、より音楽的な抒情性が増し、演奏会などで通常の作品と同様に演奏することに全く違和感がない、練習曲っぽくない作風となっています。

「作品10」はリストに献呈しましたが、この「作品25」はリストの伴侶であったダグー夫人に献呈しました。

パリで出会ったショパンとリストは、当初はお互いに認め合い、とても仲が良かったようです。

しかし次第にショパンがリストに対して批判的になり(派手好きで技術偏重だと)、それを受けてリストもショパンのことをあまりよく思わなくなる、という感じになってしまったようですが、やはり特にリストのほうは終生ショパンを高く評価していたようで、ショパンの死後はショパンの歌曲をピアノ曲に編曲したり、ショパンを称える文献を残したりしています。

今回は、そんな経緯のある「作品25」の1~6までを取り上げます。

1 エチュード25番1 変イ長調「エオリアン・ハープ」

左右両手のアルペジオの練習曲。

練習曲10-10に続いて、ショパンが好んだと言われる変イ長調の曲です。

変イ長調は、明るい曲調の中に恍惚感みたいなものをとても感じる調で、よくピアニストが「目をつむって眉間にシワを寄せながらほんの少しほくそ笑んで天を仰ぐ」みたいになることが多い、本当にとりはだが立つくらい心の深いところにグッとくる調だと思います。

ちなみにサブタイトルである「エオリアンハープ」は、シューマンが名付けたものです。

演奏は、このショパン:エチュードのYouTube投稿を機に大ブレイクした、ウクライナの「ヴァレンティーナ・リシッツァ」です。

2 エチュード25番2 ヘ短調

右手の細かく高速な動きと、左右で異なるアクセントを求められる練習曲。

難易度は高くないと言われていますが、リズムのとり方が独特です。

演奏は、フランス人とされていますが生まれも死没もスイスであるショパン弾きのレジェンド「アルフレッド・コルトー」です。

3 エチュード25番3 ヘ長調

右手に正確なトリルが求められる練習曲です。

サティやドビュッシーなどを連想させるような近代的な響きを感じる曲です。

演奏は第16回:2010年ショパンコンクール3位だったロシアの「ダニール・トリフォノフ」です。

4 エチュード25番4 イ短調

両手のスタッカートと左手の跳躍の練習曲です。

3とは一転して古典的な印象を受ける曲です。

演奏は、第9回:1975年ショパンコンクール1位だったポーランドの「クリスティアン・ツィメルマン」です。

5 エチュード25番5 ホ短調

難しいリズムを正確に弾く必要がある練習曲です。

練習曲の中では短くない曲の中で、中間部や終盤などにマズルカの響きを感じます。

演奏は、コルトー、デュカス、ブーランジェらに師事し、33歳で病気により他界した不世出のピアニスト、ショパンを得意としたルーマニアの「ディヌ・リパッティ」です。

6 エチュード25番6 嬰ト短調

右手の3度の和音の練習曲で、全練習曲中でも最高難易度の1つです。

10-1,10-2,25-11と並んで練習曲中屈指の難しさと言われています。

それでいて、曲調は哀愁漂い美しくメロディアスなものとなっていて、次回紹介予定の「木枯らし」と並び、難しさと芸術性が並び立つ素晴らしい練習曲です。

演奏は、辻井伸行さんの先生だったことでも有名な、第12回:1990年ショパンコンクールで1位不在の中で3位だった「横山幸雄」さん19歳の時のコンクールでの完璧な演奏です。

今回は、ショパンの練習曲作品25から1~6を取り上げました。

次回は引き続き「作品25」の7~12を取り上げます。

練習曲中最大の神曲「木枯らし」が登場します。