〈連想第27回〉
前回は「カル・ジェイダーをサンプリングしたヒップホップ」を取り上げました。
今回は、カル・ジェイダーを効果的にサンプリングしたアーティストの一人として、時代は違えど同じカリフォルニアで活動した「ザ・ファーサイド」を取り上げます。
「ザ・ファーサイド」は90年代を中心にカリフォルニア、L.A.で活動した「イマーニ」、「ブーティ・ブラウン」、「ファットリップ」、「スリムキッド・スリー」からなる4人グループで、92年にデビューアルバム、95年にセカンドアルバムをリリースして、いずれも名曲揃いの名盤です。
この時期のL.A.と言えば、「ドクター・ドレー」、「スヌープ・ドッグ」などにより生み出された「Gファンク」が世界を席巻していました。
Gファンクは、後々ウェッサイと呼ばれ続けることとなるウェストコーストヒップホップのサウンドのイメージを確立したもので、その音はPファンクをサンプリング・引き直ししたものが多く、本物のギャング達による音楽ということもあって、ものすごくワルい空気感漂うものでした。
しかし、その流れとは別に、どちらかと言うとNYのニュースクール系のソウルやジャズのネタ感が強くグルーヴィーさを特徴とする人達もいました。
「ハイエログリフィクス」一派や「フリースタイルフェローシップ」、そして「ザ・ファーサイド」などが代表格です。
ファーサイドはよりグルーヴィーでジャズ感が強い印象で、デビュー曲も「ブランド・ニュー・ヘビーズ」というアシッドジャズ系のグループとのコラボでした。
ちなみにファーサイドは、「リップスライム」が多大な影響を受けたグループで、そのスタイルはまさにファーサイド。メンバー全員がその影響を公言しています。
今回はそんなファーサイドの前編と称して、まずは1992年にリリースされた全曲名曲の名盤1stアルバム「bizarre ride Ⅱ the pharcyde」収録曲を中心に9選します。
1 Oh Shit
イントロに続く、アルバムの1曲目。
ジャジーでごきげんな楽しい曲。
多くの名盤でそうのように、このアルバムが名盤であることを予感させる雰囲気、テンションを感じます。
サンプリングは、「ドナルド・バード」の「beale street」です。
2 4 Better Or 4 Worth
浮遊感と疾走感、そしてベースラインがめちゃめちゃかっこいい曲です。
何百回聴いたかわからない今もなお、初めて聴いたときの感動が続いています。
ホーンネタは大定番ブレイクビーツ「ルー・ドナルドソン」「pot belly」の0:12です。
ドラムはこれまた大定番の「エモーションズ」の「blind alley」です。
3 Passin’ Me By (Fly As Pie Remix)
アルバムに収録されている曲のリミックスです。
「クインシー・ジョーンズ」使いのオリジナルバージョンも良いですが、この「ロイ・エアーズ」「the third eye」の45回転使いが、浮遊感抜群でめちゃめちゃかっこいいです。
元ネタは「ロイ・エアーズ」「the third eye」の冒頭を45回転させたもので、この元ネタ曲がまた最高に素晴らしいです。
4 Otha Fish(1992)
ボッサ調のゆったりとした曲ですが、元ネタの「ハービー・マン」「today」は意外にもゆったりしていません。
ふわふわまったりしていて心地よいです。
5 The Brand New Havies Ft The Pharcyde – Soul Flower
アルバムの収録されているのはリミックスですが、オリジナルは、「ブランニュー・へビーズ」のフューチャリングとして参加しています。
ファーサイドのデビューともなった、アシッドジャズ感の強いこのバンド演奏バージョンがとても良いです。
6 Officer
おまわりさん。
ドラムが定番のジェームス・ブラウン「funky drummer」で、ベースラインが疾走感あふれるご機嫌でノリノリなテンション激上がりの1曲です。
元ネタは「ラムゼイ・ルイス」「the mighty quinn」の1:13です。
7 I’m That Type Of Nigga
オフィサーに続き、疾走感あふれる、このアルバム中最もテンションが上がって盛り上がる曲です。
ファーサイドのデビューファーストシングル「ya mama」のB面に収録されています。
ドラムは、これまた大定番のスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンの「sing a simple song」です。
8 On The DL
ジャジーでゆったりとした、セカンドアルバムへと通じるようなファーサイドらしい一曲。
聴いていてとても心地良く、この類のヒップホップってこの頃もその後も意外とないのではないでしょうか。
元ネタは、「スタンリー・コーウェル」「equipoise」の冒頭と、「travelin’ man」の0:17です。
9 Ya Mama
最後はファーサイドとしての記念すべき1stシングル、「ヤ・ママ」です。
これがファーサイドです、というまさにこのアルバムを象徴するような楽しくご機嫌でグルーヴィーな一曲です。
いくつもリミックスが存在し、それらもどれもご機嫌でかっこいいです。
元ネタは、「マイク・ブルームフィールド」「season of the witch」の0:21、ドラムは大定番ブレイクビーツ「メルヴィン・ブリス」「synthetic subsutitution」の冒頭です。
今回はファーサイドのファーストアルバム収録曲を中心に9選しました。名曲だらけの素晴らしいデビューアルバムです。
このアルバムのヒットがきっかけとなり、一躍人気グループとなったファーサイドは、「ア・トライブ・コールド・クエスト」や「デ・ラ・ソウル」などのニュースクール系のグループたちとツアーを行ったりするなどして、次の名盤セカンドアルバムへと繋がっていきます。
次回はセカンドアルバム以降の曲から7選します。