DJプレミア⑨〈哀愁漂いグッとくるメロディアスでメランコリックな曲〉5選

ヒップホップ
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〈連想第105回〉

ヒップホップのレジェンドプロデューサーで、今なお現役の「DJプレミア」について連続して取り上げています。

毎回様々なテーマで取り上げてきていますが、今回は「哀愁漂う」曲調のものを取り上げます。

プレミアは本当に幅広いレパートリーを持っていて、ハードコアなものからキャッチーなもの、ノリノリでごきげんなものからローファイなものまで何でもござれという感じですが、今回取り上げるメロディアスでメランコリックなタイプの曲もまた、数こそ多くないものの、どれも心の深いところにグッとくる名曲ぞろいです。

こういう曲を聴くと、プレミアの感性、歌心、メランコリックな感覚をも豊かに持ち合わせているんだなと、恐れ入るとともに、とても共感できて嬉しくなります。

男の哀愁を感じる、切なく儚い雰囲気漂う名曲を5選します。

1 Nas – Memory Lane(1994)

このプレミアシリーズに何度も登場している「ナズ」。

こう取り上げてみると、あらためてプレミアとナズの盟友ぶりが感じられて感慨深いものがあります。

伝説の1stアルバムのプロデューサー陣、「ラージ・プロフェッサー」「ピート・ロック」「キュー・ティップ」らとはその後ほとんど仕事をしていないことを考えると、その想いはより強いものとなります。

DJプレミアパート2〈男気溢れるハードコア〉」の回では、この曲のデモバージョンを取り上げましたが、今回はよく知られるアルバムバージョンを取り上げます。

男気あふれるデモ版も最高にかっこいいのですが、この有名なアルバムバージョンはやはり格別に感動的なたたずまいを持っています。

L.E.Sプロデュースのスムースな「life is a bitch」を除きアンダーグラウンドで硬派なトラックが並ぶ中、このメロディアスでメランコリックなトラックは一際存在感を醸し出しています。

元ネタのオルガン奏者「リューベン・ウィルソン」「we’re in love」と偶然出会った時は、イントロの時点で「うおー!!これメモリーレインだー!!」と大興奮して感動したのを鮮明に覚えています。

今でもこの「we’re in love」のイントロを聴くと胸が熱くなり、感動が蘇り鳥肌が立ちます。

このなんとも儚げでノスタルジックな曲調が、レジェンドアルバムとなった「illmatic」の印象にピッタリで、アルバムの空気感を醸し出すアクセント的な曲になっていたと言えるのではないでしょうか。

声ネタは、「DJプレミアパート2〈男気溢れるハードコア〉」でご紹介したものと同じです。

2 Jay-Z Ft. Big Jaz,Sauce Money – Bring It On(1996)

「ジェイ・ズィー」については、「DJプレミアパート7〈ハードコアで男気全開のストリングスネタ〉」で触れましたが、その盟友「ビッグ・ジャズ」と「ソース・マネー」をフューチャーした盤石のメンツ×プレミアという最強布陣ながら、渋い曲調でシングルカットもされていないため、かなり知名度の低い隠れた名曲となっています。

盟友兼師匠的存在の「ビッグ・ジャズ」は、「DJプレミアパート4〈ノリノリで勢いがありテンションが上がる〉」でも触れたとおり、「ジャズ」→「ビッグ・ジャズ」→「ジャズ・オー」と名前を変えてきた1980年代から活動するベテランMCで、そのスキルは元弟子の「ジェイZ」をしのぎ、「ナズ」にも匹敵するほどのキレキレでスキルフルなもので、めちゃめちゃかっこいいです。

しかしその後、盟友兼弟子だった「ジェイ・ズィー」とビーフに発展し袂をわかち、近年になってようやく和解しました。

「ソース・マネー」は、「ジェイ・ズィー」と同じくブルックリンのラッパーで、「ジェイ・ズィー」とは、グループ「オリジナル・フレイバ」時代からの盟友的存在でした。

「ジェイ・ズィー」がアルバムデビューしたため、盟友をフックアップするためにフューチャーしたかたちで、この後「ソース・マネー」もデビューします。デビュー曲もまた、プレミアプロデュースでした。

この曲が収録されているアルバム「reasnable doubt」は、「ジェイ・ズィー」の記念すべきデビューアルバムで、この後の快進撃の礎となるものでした。

この曲の他にも、デビューシングル「dead president」や「regrets」など激渋でアンダーグラウンドな曲が多く、1ブルックリンのアンダーグラウンドラッパー出身であることが紛れもなく証明されている一枚となっていて感慨深いです。

この曲は元ネタ不明なため、ワンループなのかチョップしてるのかわかりませんが、「メモリー・レイン」と同様、プレミアには珍しくメロディアスなネタのワンループとなっています。

フックの声ネタは、プレミア自身がプロデュースした、「マッド・ライオン」「ダグ・イー・フレッシュ」「ケー・アール・エス・ワン」「ファット・ジョー」「スミフ・ン・ウェッスン」「ジェルー・ザ・ダマジャ」という当時ディー・アンド・ディー・スタジオを拠点として活動していた超豪華メンツが揃った「ディー・アンド・ディー・オールスターズ」の「1,2 pass it」のファット・ジョーのパートの2:55です。

3 DJ Cam Ft. Afu-Ra – Voodoo Child Remix(2001)

フランスのプロデューサー「DJケイム」のアルバム「soulshine」に収録されている一曲。

1990年代中後半から2000年代半ば頃までは、「DJシャドウ」や「DJクラッシュ」など、アブストラクト系のヒップホップが台頭し盛り上がりを見せていました。

そんな中の1人である「DJケイム」はジャジーなネタとブレイクビーツを使ったシンプルな構成で、聴いていて心地良いローファイ系の走りとも言える存在でした。

どこでどういう接点があったのか不思議な感じがしますが、「DJケイム」のアルバムに「アフ・ラ」が参加することになり、そのリミックスをプレミアが手掛けました。

ギャングスターファウンデーションの「ジェルー・ザ・ダマジャ」の盟友「アフ・ラ」とは何度もタッグを組んでいる息のあった仲だったため、リミックスを手掛けるのは自然の流れでした。

疾走感のあるかっこいいトラックながらも、どこか哀愁を帯びた響きがたまらなく胸に迫ります。

元ネタは、「フリーダ・ペイン」「the road we didn’t take」の冒頭の曲調が変わるところです。

声ネタは、↑2に続き「D&Dオールスターズ」から、「D.I.T.C.」の「ダイアモンド・ディー」プロデュースの超ハーコーな曲「ビッグ・シー」「look alive」の1:15です。

4 Edo G – Sayin’ Somethin’(2000)

プレミアの相方グールーの出身地であるボストンのラッパー「エド・ジー」のソロとしての1stアルバム「the truth hurts」に収録されているシングル曲です。

元々「エド・オー・ジー・アンド・ダ・ブルドックス」というグループで活動していましたが、その後ソロとなり「エド・ジー」と改名しました。

ボストン発の良質な音を作り続け、ソロとなったこの1sアルバムは、プレミアのほか、「ピート・ロック」や「DJスピナ」など、豪華で盤石なプロデューサー人で固められた非常に高クォリティなアルバムでした。

この2000年前後は、ヒップホップシーンが急激にガラッと変わった時期で、時代は「パフ・ダディ」「スウィズ・ビーツ」「ファレル・ウィリアムス」「ティンバランド」「ジャスト・ブレイズ」の他「(ネオ)ドクター・ドレイ」などの次世代プロデューサーやサウス系のサウンドがメインストリームの音となっていて、プレミアやピート・ロックは最早時代の先端を行く存在ではなくなっていました。

しかしそのクオリティは衰えることなく、名曲の数々が人知れず量産されていたため、隠れ名曲、隠れ名盤がたくさんある時期と言えるのではないでしょうか。

この「エド・ジー」のアルバム然り、他にも以前取り上げた「ジェイ・ライブ」や「エム・オー・ピー」、「バンピー・ナックルズ」、「スクリューボール」、前述の「アフ・ラ」、そしてギャングスターの(当時の)ラストアルバムなどの他、様々な高クオリティな良作がたくさんあります。(ジェイ・ディラの系譜を継ぐローファイ系のヒップホップも台頭してきますがそれはまた別のカテゴリということで)

そんな時期のこのエド・ジーの曲もまた、信じがたいチョップ&フリップで驚愕のネタ使いで、この哀愁漂うかっこいい曲となっています。

その元ネタは、前述のアフ・ラに続き「フリーダ・ペイン」で、「don’t wanna be left out」の0:55あたりです。

声ネタは、KRSワンの伝説のグループ「ブギー・ダウン・プロダクション」「i’m still no1」の3:57と「カクタス・ジャック ft. エド・ジー、ビッグ・ドゥーブズ」「act like what you say」の2:15です。

5 Gang Starr – Moment Of Truth(1998)

自身のグループ「ギャング・スター」の名盤5thアルバム「moment of truth」に収録されているタイトル曲。

このアルバムはこれまでも何度も取り上げていますが、プレミアのスタイルが到達点へと達し確立されたアルバムで、曲調も様々なタイプのものがあり、金字塔的な作品になっています。

その中にあって、このメロディアスで哀愁漂うこの曲は、プレミアの歌心を感じさせるグッとくるものになっています。

グールーのラップがこのトラックの男らしい哀愁を際立たせていて、「ギャングスター」としてこういう曲があってよかった、という気持ちにさせられます。

元ネタは、「ビリー・ポール」「let’s fall in love over again 」0:10です。

今回は男の哀愁漂う切なく儚い曲を取り上げました。

シンプルな構成のものが多いですが、そこにむしろ深みを感じてぐっときます。

プレミアの懐の深さ、奥の深さにはうならされるばかりです。

さて次回は、DJプレミアがその名声を確固たるものとした名曲、神曲オンパレードの90年代中後半のディープでドープなアンダーグラウンドなプレミアの真骨頂的な曲を取り上げます。