〈連想第121回〉
ヒップホップ定番ブレイクビーツを連続して取り上げています。
今回は前回取り上げた「シング・ア・シンプル・ソング」に続きハードなブレイクビーツ、「リー・ドーシー」の「get out of my life,woman」を取り上げます。
「リー・ドーシー」はニューオーリンズ出身の生粋のR&Bシンガーで、ニューオーリンズのレジェンド「アラン・トゥーサン」とタッグを組んでヒット曲を連発しました。
この曲「ゲラウト〜」はリードーシーの代表曲の一つで、2ndアルバム「Ride Your Pony – Get Out of My Life Woman」に収録されているシングル曲です。
この曲がヒットした後にたくさんのアーティストがカバーし、定番ソングとなりました。
ドスンと重いバスドラと乾いた破裂音系のスネアが特徴的なドラムで、これだけでテンションが上がるほどかっこいいブレイクビーツです。
そんな荒削りで黒光りしているかのようなハードドラム「ゲラウト・オブマイライフ・ウーマン」を使用した曲を12選します。
- 1 Biz Markie – Just Friend(1989)
- 2 Lord Finesse – Return Of The Funkyman(1991)
- 3 Black Moon Ft. Dru-ha,Havoc,Smif-N-Wessun – U Da Man(1993)
- 4 Kieth Murray Ft. Eric Sermon,Jamal – Straight Loonie(1994)
- 5 Fu Schnickens – Who Stole The Pable(1994)
- 6 Fat Joe – Flow Joe(1993)
- 7 Tha Alkaholiks – Can’t Tell Me Shit(1993)
- 8 Common – Breaker 1/9(1992)
- 9 De La Soul – Eye Know(1989)
- 10 Da Phlayva – Why Ask Why?(1993)
- 11 Shadez Of Brooklyn – Change(1996)
- 12 Major Stress – More And More(1995)
1 Biz Markie – Just Friend(1989)
ブレイクビーツシリーズで何度も登場しているレジェンド集団「ジュース・クルー」のコミカルキャラ「ビズ・マーキー」のヒットソングです。
プロデュースは「ビズ・マーキー」自身です。
コミカルなMVとピアノのループに重い「ゲラウト〜」ドラムがなんとも相性が良くバランスがとれています。
それにしてもたくさんの定番ドラムが「ジュース・クルー」発なんだなーと改めてその偉大さを感じます。
2 Lord Finesse – Return Of The Funkyman(1991)
ラッパー、プロデューサー集団の「D.I.T.C.(ディギン・イン・ザ・クレイツ)」のリーダー的存在でもある、かつてフリースタイルの貴公子とも呼ばれた「ロード・フィネス」です。
「ビズ・マーキー」同様、ラッパー、プロデュース、DJを一人でこなすオールマイティーな存在で、別名「ファンキーマン」。
「マイク・スムース」とのコンビを解消しソロとなって初のアルバム「return of the funkyman」に収録されているシングル曲です。
プロデュースはディギンのみならず、ヒップホップ界全体においても最高峰のプロデューサーの一人である「ショウビズ」です。
3 Black Moon Ft. Dru-ha,Havoc,Smif-N-Wessun – U Da Man(1993)
ブレイクビーツシリーズに何度も登場しているブルックリンの雄「ブート・キャンプ・クリック」のボス「バックショット」率いる「ブラックムーン」です。
ヒップホップクラシックである大名盤1stアルバムである「enter da stage」のラストに収録されている最高に男気あふれる曲。
時折入ってくる定番サンプル「rising to the top」の音を除けばベースのみのシンプル極まりないトラックを、ハードな「ゲラウト〜」ドラムがグイグイ引っ張ります。
ハーコーで男剥き出しのトラックもめちゃめちゃかっこいいのですが、この曲はラッパー陣も豪華かつ異色です。
ブートキャンプ第二の刺客「スミフ・ン・ウェッスン」の二人のデビュー曲、クイーンズの雄「モブ・ディープ」の「ハヴォック」との謎のコラボ、そしてなんとブートキャンプを支えた「ダック・タウン・レーベル」のCEO(白人)である「ドゥルー・ハー」がゲストでラップしているという異色ずくめかつ全員がめちゃめちゃかっこいいというすごい曲なのです。
プロデュースはもちろん「ブラック・ムーン」のメンバーかつ「ダ・ビートマイナーズ」の「イヴィル・ディー」です。
4 Kieth Murray Ft. Eric Sermon,Jamal – Straight Loonie(1994)
「EPMD」の「エリック・サーモン」率いる「デフ・スクワッド」のあばれものキャラ「キース・マリイ」です。
「エリック・サーモン」のズブズブ&ゴリゴリのファンク路線の最後の大花火とも言えるキース・マリイの大名盤1stアルバム「the most beautiful thing in this world」に収録されている、アルバム中最もテンションの高い曲。
プロデュースは言うまでもなく「エリック・サーモン」で、いつになく超ハイテンションなラップでも参加しています。
同じくデフ・スクワッドの「ジャマル」もフューチャーしています。
「ゲラウト〜」ドラムの使い方のお手本のような曲で、ほぼベースのみの上ネタに相性バツグンで、ゴリゴリ感が最高にかっこいいです。
5 Fu Schnickens – Who Stole The Pable(1994)
ネイティブ・タン一派の「フー・シュニッケンズ」の名盤2ndアルバム「nervous break down」に収録されている超ノリノリな曲。
ジャマイカ移民の多い地区として知られるブルックリンのイーストフラットブッシュ出身だけあってレゲエ色の強いグループです。
一貫してノリノリなアルバムの中にあってこの曲は、ヒットシングル「what’s up doc?」と並んで特に超ノリノリでテンションの高い曲です。
「ア・トライブ・コールド・クエスト」の「ファイフ・ドッグ」の従兄弟である「ポック・フー」から始まり、超絶早口ラップの「チップ・フー」、「モック・フー」と続きます。
体を動かさずにはいられなくなる熱狂的な曲です。
6 Fat Joe – Flow Joe(1993)
「D.I.T.C(ディギン・イン・ザ・クレイツ)」のラッパーで、最も商業的成功を収めたのが、プエルトリカンの「ファット・ジョー」です。
時代の隆盛の合わせて適応していったタイプのラッパーですが、元々とてもスキルフルでかっこいいフロウを持っているので、どんなトラックでもかっこよく乗りこなします。
MVも「ダイアモンド・ディー」などの「D.I.T.C.」のメンバーや、同じプエルトリカンの「ビートナッツ」の面々などが出演している激アツなかっこいいものとなっています。
この曲は名盤1stアルバム「Represent(レペゼン)」に収録されているシングル曲で、プロデュースは同じ「D.I.T.C.」のメンバー「ダイアモンド・ディー」です。
7 Tha Alkaholiks – Can’t Tell Me Shit(1993)
西海岸ギャングスタラップの雄「キング・ティー」に見いだされたLAの3人組「ザ・アルカホリックス(アルコール中毒患者)」の1stアルバム「21&Over」に収録されている曲です。
ド渋な印象ですがロービートで淡々としたトラックを「ゲラウト〜」のスネアドラムが引っ張っていく印象です。
一瞬挿入される西部劇風の音が印象的でアクセントになっていて、とてもかっこいいです。
8 Common – Breaker 1/9(1992)
シカゴ出身の「コモン」が「コモン・センス」と名乗っていた名盤1stアルバム「can i borrow a doller?」に収録されているシングル曲のアルバムバージョンです。
プロデュースは初期コモンと言えばこの人、同じシカゴ出身の「カニエ・ウェスト」が影響を受けたと公言する「ノー・アイディー」です。
定番ネタ「アイズレー・ブラザーズ」の「bitween the sheets」の冒頭2小節をループしたメロウな雰囲気の上ネタにハードな「ゲラウト〜」ドラムが妙に合います。
因みにシングルバージョンではドラムは違うドラムが使われています。
9 De La Soul – Eye Know(1989)
タフで男剥き出しなイメージではないヒップホップ、ユルくポップでカラフルな「ネイティブ・タン≒ニュースクール」のイメージまさにそのものな感じの曲です。
「デ・ラ・ソウル」の名盤1stアルバム「3 Feet High And Rising」に収録されているシングル曲で、プロデュースはメンバーの一人「プリンス・ポール」です。
「ゲラウト〜」ドラムに、前回取り上げた「シング・ア・シンプル・ソング」ドラムを重ねています。
2つのハードなドラムを使ってこんなにポップな曲になるとは、音楽はやはり感性次第でいかようにもなるものだとあらためて感じます。
10 Da Phlayva – Why Ask Why?(1993)
サウスカロライナ出身の正体不明のグループ「ダ・フレイヴァ」のアンダーグラウンドクラシック。
この曲が収録されているEPはレア版として高額で取引されているという典型的なアンダーグラウンドチューンで、星の数ほどある名も知れない無数のかっこいいアーティスト達の存在が、ヒップホップの奥深さ、底の深さを感じます。
11 Shadez Of Brooklyn – Change(1996)
↑2で取り上げたブルックリンの雄ブートキャンプ系のグループ、その名も「シェイズ・オブ・ブルックリン」。
プロデュースもブートキャンプお抱えの「ダ・ビートマイナーズ」の「ミスター・ウォルト」です。
「アーマッド・ジャマル」をサンプリングした美しいループに、細かくチョップし残響をカットしたボトムのあるスネアが絶妙にマッチしています。
インストのループだけでもずっと聴いていられる、美しいだけでなく中毒性のあるトラックです。
12 Major Stress – More And More(1995)
アンダーグラウンドの定番曲、「メジャー・ストレス」の「モア・アンド・モア」です。
知名度の低いマイナーなアーティストながら、プロデュースはヒットメイカーの「サラーム・レミ」で、「アイズレー・ブラザーズ」の超メロウトラックに乗せて歌うサビがインパクト大です。
リリース当時よりもその後ジワジワと知名度を上げ、時代を超えた定番曲となりました。
今回はハードなドラムながらメロウ系のトラックとも相性の良い「リー・ドーシー」の「ゲット・アウト・オブ・マイ・ライフ・ウーマン」を使用した曲を12選しました。
さて次回は、90年代半ばに大流行した「why can’t people be colors too?」を取り上げます。