〈連想第114回〉
前回は実質ギャングスターのラストアルバムであった2003年リリースの名作6thアルバムを取り上げました。
その後2010年にはグールーが癌で他界し、ギャングスターとしての活動は永久に停止してしまいました。
しかしなんと、2019年に突如、ギャングスターとしての新作がリリースされたのです。
どういうこと?と思ったのですが、これはグールーが生前ソロで録音していた未公開の音源をプレミアがレーベルから高額で買取り、そこにゆかりのあるアーティスト達をフューチャーして、完全オリジナルな新作としてリリースされたものでした。
プレミアは2000年以降スタイルを変えずに様々なアーティストをプロデュースし続けてきましたが、変わらない中にも実験的だったり試行錯誤した作品もあり、常にクリエイティブであり続けました。
しかしこのギャングスターのニューアルバムの印象は良い意味で「変わってないなー」というものでした。
プレミアは、移ろいの激しいヒップホップ業界を長年渡り歩いてきただけあって、リスナーが何を求めてるのか、という観点を常に持っているアーティストでした。
このことはプレミア自身がインタビューでも語っています。
つまり今この時期に「ギャングスター」として新作を出すということは、リスナーはどういうものを求めているかというと、こういう変わらぬギャングスターの音楽だということです。
とにかく1ファンとして、新作作成の経緯も含めて胸が熱くなり感涙もののアルバムで、特に「第101回:DJプレミア⑤〈メロディアスでグッとくるピアノネタ〉」で取り上げた先行シングル「Family And Royalty」は、美しく切ないピアノのループとグールーを偲ぶMVの映像が相まって感動的です。
今回はそんなギャングスターの7thアルバム「One Of The Best Yet」から↑の「Family And Royalty」を除いた曲を5選します。
1 Bad Name
MVにグールーの息子を全面フューチャーしたシングル曲。
プレミアらしさ全開の一曲で、ラッパーもフューチャリングしていないオーソドックスな曲ですが、後に「メソッドマン」と「レッドマン」をフューチャーしたリミックスも発表されました。
声ネタは「エド・ジー」「sayin’ something」の1:21です。
2 What’s Real Ft. Group Home,Royce Da 5’9″
メロディアスで綺麗なループが泣けるトラックに、往年の盟友「グループ・ホーム」と「ロイス・ダ・ファイブナイン」をフューチャーしたグッとくる一曲。
元ネタは「スモーキー・ロビンソン・アンド・ザ・ミラクルズ」「i can’t stand to see you cry」の1:05と0:22で、超絶チョップ&フリップの職人技が炸裂したネタ使いとなっています。
声ネタは「フュージーズ ft.ア・トライブ・コールド・クエスト、バスタ・ライムス、ジョン・フォート」「rumble in the jungle」の0:45、「ブラゼイ・ブラゼイ」「danger」の0:14、「ギャングスター」「sucker needs bodyguards」の1:18です。
3 From A Distance Ft. Jeru The Damaja
ギャングスターファウンデーション所属の盟友「ジェルー・ザ・ダマジャ」をフューチャーしたらしさ全開の曲。
数小節ごとに入るアクセント音が相変わらずかっこよく、この数十年間変わらないスタイルに感動します。
声ネタはギャングスター自身の「playtawin」2:21と「natural」0:42です。
4 Get Together Ft. Ne-Yo,Nitty
珍しい雰囲気のスロウでアーバンなイントロとサビが印象的で、これまた異色にも「ニーヨ」をフューチャーしています。
メインのループはチョップ&フリップ全開のめちゃめちゃかっこいいトラックで、ブーンバップ系フィーメルラッパー「ニッティ・スコット」のラップもバッチリはまってます。
元ネタ、声ネタは不明です。
5 Take Flight(Militia Pt.4)Ft. Big Shug,Freddie Foxxx
ミリシャシリーズのパート4です。
パート2を除いてお馴染みのメンツ、盟友の「ビッグ・シュグ」と「フレディ・フォックス」をフューチャーしています。
毎度男気溢れる路線で、今回も同路線が踏襲されているところが嬉しいです。
声ネタは、「ランペイジ ft. バスタ・ライムス」「wild for da night」の0:56、「エル・エル・クール・ジェイ t. メソッドマン、レッドマン、キャニバス、ディーエムエックス」「4,3,2,1」の1:37、「エーズィー ft.エスダブリューヴィー」「hey az」の0:38です。
今回はギャングスターの2019年リリースの7thアルバムを取り上げました。
30年以上に渡りクリエイティブさ、かっこよさを損なわず活動を続けるDJプレミアは、間違いなくヒップホップ史における最重要天才アーティストの一人として語り継がれることでしょう。
ここまで長くプレミアシリーズを続けてきましたが、ここで一旦終了としたいと思います。
これだけ数々の名曲を取り上げてきてもまだ半分も紹介できていませんが…
ナズ、ジェルー・ザ・ダマジャ、グループ・ホーム、ケーアールエス・ワン、ダス・エフェックス、フレディ・フォックス、ノトーリアス・ビー・アイ・ジー、ジェイ・ズィー、ディー・アイ・ティー・シーなど名だたるアーティストとの数多くの定番曲から、最近の様々なアーティストの作品まで、まだまだ取り上げていない名曲がたくさんありますので、また別の機会にあらためて取り上げていきたいと思います。
さてここまで長きに渡りDJプレミアを取り上げてきましたが、その中で何度も使用したフレーズで「定番ドラム」という表現があります。
これは2022年現在「ブーン・バップ」と呼ばれる80~90年代のNYやLAのヒップホップにおいて、ブレイクビーツが非常に重視され、その中でも「これはかっこいい!」というブレイクビーツを色んなアーティストがこぞってサンプリングして使用したことにより定番化したものを言います。
次回からはこの定番ブレイクビーツに焦点を当てて取り上げていこうと思います。