〈連想第18回〉
前回取り上げた「小西康陽」氏の創造性の真骨頂は、やはり自身のグループである「ピチカート・ファイヴ」での活動にあったのではないかと感じます。
80年代のデビュー時からベースとなるおしゃれで軽やかな理念的なものは変わらず、サウンド面ではどんどん変化していきました。
デビュー当初はAORやシティポップ系の電子音的なサウンドの印象が強いです。
ボーカルも、佐々木麻美子→田島貴男→野宮真貴と変わりました。
90年前後はスタイルが固まる前の実験的なサウンドが多く、ヒップホップやハウスなど時代の先端を取り入れたものが多くなってくる印象です。
90年代中期以降は、一聴して「小西康陽と言えば」というサウンドが確立されてきます。
それは60年代のアメリカンポップス、70年代のレアグルーヴ系のソウル、ジャズやボサノヴァ、バート・バカラックやアルデマロ・ロメロなど多様で膨大な音楽のバックグラウンドを下地として、全くオリジナルな音楽として再構築されたような、おしゃれで軽やかなだけでなく、他の渋谷系と呼ばれるアーティストと比較しても、唯一無二の独創的な世界観を持つサウンドでした。
ピチカート・ファイヴ解散後はクラブ・ジャズやスタンダードナンバーのアレンジなど、さらに音楽性の幅を広げていますが、何よりこの世界観を際立たせ、完成の高みに達した要因としては、ボーカルの野宮真貴の存在が必要不可欠であったでしょう。
おしゃれで軽やか、そしてどこか空想的、幻想的な感覚は、そのファッショナブルな見た目と相まって、真似することのできない1つの世界観を創り出しました。
今回はそんなピチカート・ファイヴから6選します。
1 万事快調(1992)
アルバム「スウィート・ピチカート・ファイヴ」に収録されているグルーヴ感あふれるソウルフルなナンバー。
90年代前期はこのようなフリーソウル・アシッドジャズ系のサウンドが多いように感じますが、この曲はその中でもその最もたるもの。
ご機嫌で解放感溢れる、自然に体が動く、踊りたくなる、幸福感に満ち溢れる曲です。
2 メッセージソング(1996)
ベストアルバム以外には収録されていないシングル曲。
NHKみんなのうたにも使われ、その映像とのマッチングがとても素晴らしかったです。
心の中にノスタルジックな情景、心情が湧き上がり、涙が溢れます。
胸に迫る感動的な曲です。
3 あなたのいない世界(1999)
アルバム「ピチカート・ファイヴ」収録曲。
このアルバムは全曲名曲で選べないのですが、そんな中でもこの一曲は絶対に外せない存在です。
秋が深まる頃に聴きたくなる、切なく泣ける曲。
サウンドのセンスに感動します。
4 また恋に落ちてしまった(1999)
アルバム「ピチカート・ファイヴ」からもう一曲、アッパーでご機嫌だけど切なさも感じられる、アルバムの1曲目。
このアルバムはほかにも、「眺めのいい部屋」、「戦争は終わった」、「ダーリン・オブ・ディスコティック」、「パーフェクト・ワールド」など大名曲ばかりです。
そんな中でどうしてもこの曲も取り上げたかった、切なくかっこいい曲です。
アルバムバージョンがとても良いです。
5 地球は回るよ(1997)
アルバム「ハッピー・エンド・オブ・ザ・ワールド」に収録されている、珍しい趣向のドラムンベース調のワンループの曲。
ドラムンベース、ジャングル調の曲であってもベースはぶれずに軽やかでおしゃれです。
6 大都会交響楽(1998)
アルバム「プレイボール・プレイガール」収録曲でシングルカットもされています。
このアルバムもまた、本当に全曲良すぎて選べませんが、しいて1曲この曲を選びました。
このアルバムは、コンセプトというかサウンドが統一されていて、アルバム通して1曲という感じがあります。
この「大都会交響楽」のほか、タイトル曲「プレイボール・プレイガール」、「きみみたいなきれいな女の子」、「新しい歌」、「ウィークエンド」と名曲揃いでどれも素晴らしいです。
アルバムバージョンとシングルバージョンがあり、シングルバージョンは「クロス探偵物語」というセガサターンとプレステ用ソフトとして発売されたゲームのオープニングテーマにも使われています。
シングルバージョンは勢いがありノリノリ、アルバムバージョンはしっとりしていてどちらのバージョンも素晴らしいです。
ピチカート・ファイヴは6選では全然取り上げきれないので、いつかまたテーマを設けてピチカート・ファイヴをあらためて取り上げたいと思います。
小西康陽はたくさんのアーティストを手がけ、たくさんのアーティストに影響を与えましたが、次回は逆に小西康陽自身が影響を受けたアーティストを取り上げたいと思います。
小西康陽の音楽的なバックボーンは膨大なものがあり、どれが1番みたいのはないんだと思いますが、その中から1つ、そのアーティストのアルバムをレコメンド、絶賛するなど、間違いなく大きく影響を受けているであろうアーティスト、ベネズエラのアルデマロ・ロメロを取り上げようと思います。