荒井 由実〈前編〉10選

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〈連想第15回〉

前回取り上げた山下達郎は、ユーミンが荒井由実としてデビューして間もない頃から、複数曲でコーラスパートを担当するなど、深く関わっていました。

ユーミンのもとには当時の実力トップミュージシャンたちが集まり、それぞれが才能を発揮し、荒井由実としてリリースしたアルバム4枚は全て名盤、全て名曲です。

結婚前の松任谷正隆はキャラメル・ママ=ティン・パン・アレイのメンバーとして全曲演奏し、アルバム2枚目以降は編曲も担います。

ティン・パン・アレイは、細野晴臣(YMO、はっぴいえんど)ら、その後の音楽界の1つの流れを作ったそうそうたるメンバーが一同に介し、山下達郎も深い交流がありました。

ユーミンは全てにおいてオリジナリティがあり、その特徴的な歌声、それまでの歌謡曲と一線を画するメロディー、情景が思い浮かぶ歌詞、そして唯一無二の洗練されたコード進行など誰にも真似できないスタイルをデビュー当初から既に発揮していました。

女性シンガー・ソングライターの先駆けとして語られることも多かったのですが、当のご本人は当初作曲家志望で、歌手になる気はなくむしろ歌うことには自信がなかった、と言っています。

しかしユーミンに歌声には「倍音」と呼ばれる、脳に心地よく響く音域があるらしく、聴く人の心の深いところまで感動させる何かがあります。

今回はそんなユーミンの荒井由実時代のアルバムのうち、まずは最初の2枚から10選します。

1 ひこうき雲(1973)

1stアルバム「ひこうき雲」のタイトル曲でアルバムの一曲目。

このアルバムは、友人の死を題材にしたというこの曲で始まりこの曲で終わります。

アルバムの最後に少しだけ声を震わせて歌うバージョンが入っていて、このアルバムが終わります。

1stアルバムの頃ユーミンが特に影響を受けていたという「プロコル・ハルム」を彷彿とさせるオルガンから始まる、このアルバムを印象付ける名曲です。

ジブリの映画「風立ちぬ」の主題歌となった時はびっくりしましたが、映画の時代設定とは全く異なっているにも関わらず、その歌詞が妙にこの映画にピッタリハマっていて更にびっくりしました。

2 曇り空(1973)

1stアルバム収録曲で、1曲目「ひこうき雲」に続く2曲目がこの「曇り空」です。

「曇り空」は、情景が思い浮かぶ歌詞と、究極に洗練された美しいコード進行が印象的な大名曲で、歌声の素晴らしさも際立っています。

サビのコーラスは松任谷正隆氏が歌っています。

それにしてもこの時期の松任谷正隆氏もあらゆる面で神がかっていて、編曲とピアノの演奏両面においてサウンドの格調を1段も2段も押し上げています。

歌が終わってフェードアウトする直前の転調する箇所など鳥肌ものにかっこいいです。

3 きっと言える(1973)

荒井由実としての2ndシングルで1stアルバム収録曲。B面が「ひこうき雲」です。

歌詞とメロディーがリンクし、誰かを想うときの胸の高鳴り、込み上げてくるものが抑えきれない感情がリアルに胸に迫る神曲です。

元ピチカートファイブの小西康陽氏がド肝を抜かれたと述べたコード進行は、前にも後にも類を見ない、独創的かつ天才的なもので、胸の高まりを最大限に表現していて鳥肌ものです。

4 返事はいらない(1972)

デビューシングルですが、シングルバージョンよりもアルバムバージョンが、演奏のセンスがさらに爆発しています。

歌詞、メロディー、歌声、編曲、バンドの演奏、全てが最高なデビュー曲。

当初は全く売れなかったらしいですが、そのクオリティはデビュー時から既に尋常じゃなくハイレベルで完成されたものでした。

両バージョンをリンクします。

アルバムバージョン
シングルバージョン

5 雨の街を(1973)

1stアルバムからのラストは、弾き語り調のじっくり聴かせる名曲「雨の街を」です。

ユーミンの雨を題材とした曲はたくさんありますが、どれも乳白色に霧がかった霧雨の情景が思い浮かびます。

思い描く情景の中に自分自身が入り込んでしまうような、そんな感覚になる曲です。

6 生まれた街で(1974)

ここからは、2ndアルバム「ミスリム」に収録されている曲です。

アルバムの1曲目に収録されている曲で、このアルバムが神作であることを予感、直感させる素晴らしすぎる大名曲です。

サウンドの広がりや立体感が1stアルバムとは違うことが一聴して感じられます。

冒頭の演奏がスカイハイプロダクションっぽくてかっこいい貴重なTV番組に映像がありましたのでそちらもリンクします。

7 瞳をとじて(1974)

これもとても情景が思い浮かぶ、胸に迫る名曲中の名曲。

長崎県奈留島の高校の校歌として作った曲としても有名です。

この曲が奈留島の校歌だと言うことも全く知らずに聴いていた小学生の時、「小高い丘がある島から海を望む情景」が頭に思い浮かんでいましたが、後年youtubeによりそのドキュメンタリー番組を見ることができるようになり、思い浮かべていた光景とほとんど同じ光景があったことに驚きました。

そのドキュメンタリー番組の一部を抜粋した動画がありますのでそちらもリンクします。

8 やさしさに包まれたなら(1974)

ジブリ映画「魔女の宅急便」のエンディングテーマに使用されたことで世代を超えた大ヒットとなった説明不要の大名曲です。

そのコード進行の凄さなど語られることの多い曲ですが、その歌詞が映画の内容ともぴったりリンクしていて奇跡的な神曲となっています。

「小さい頃は神様がいて〜」「大人になっても…木漏れ日の優しさに包まれたなら目に映る全てのことはメッセージ…」

素晴らしすぎて涙が出るこの歌詞こそが神様からのメッセージのようです。

よく知られているのはアルバムバージョンですが、アコースティック感の強い若干スローテンポなシングルバージョンもまた良いです。

アルバムバージョン
シングルバージョン

9 12月の雨(1974)

4枚目のシングル。B面は「瞳をとじて」です。

山下達郎がコーラスを担当していて、曲全般的に山下達郎節が色濃いです。

この曲も情景が思い浮かぶ曲で、くぐもった窓から外の雪景色を見ている、というイメージが浮かびます。

最近に至るまで何度もカバーされている名曲です。

1976年の貴重なライブ音源をリンクします。

10 あなただけのもの(1974)

ユーミンいちファンキーなサウンドでかっこいい曲。

アルバム収録のオリジナルのイントロは、ヒップホップのブレイクビーツです!

オリジナルバージョンよりかなりアップテンポでよりファンキーなサウンドになっていてかっこいい1975年の貴重なライブ音源もリンクします。

今回は、荒井由実時代の4枚のアルバムのうち、最初の2枚「ひこうき雲」と「ミスリム」から10選しました。

取り上げなかった曲も含めて、歌声、メロディー、歌詞、コード進行、バンド演奏、編曲、全てが本当に神がかり的な感動的な曲ばかりで、後世に遺し伝えていくべき芸術作品と言ってよいでしょう。

次回は荒井由実時代の3,4枚目のアルバムから10選します。