〈連想第115回〉
前回までは長きに渡りヒップホップのレジェンドプロデューサー「DJプレミア」を取り上げてきましたが、その中で何度も「定番ドラム」という表現をしてきました。
「定番ドラム」とは、2022年現在「ブーン・バップ」と呼ばれている80後半~90年代かけてNYやLAで隆盛したブレイクビーツが重視されたヒップホップにおいて、「これはかっこいい!」というブレイクビーツを様々なアーティストがこぞってサンプリングして使用したことにより定番化したものを言います。
ブレイクビーツとは、ソウルやファンクやロックのドラムなどがかっこいい箇所を、ヒップホップの祖「DJクール・ハーク」がレコードを巻き戻して同じ箇所を繰り返し何度もかける「2枚使い」を始めたことに端を発したもので、まさにヒップホップの根幹をなすものの一つです。
このあたりについて詳しくは、「ラガヒップホップ〈ハードコア編〉」で取り上げています。
今回からはこの定番ブレイクビーツに焦点を当ててシリーズで取り上げていこうと思います。
初回である今回は、インパクトがあり1991~1994年頃に一世を風靡した「スカル・スナップス」「it’s a new day」を取り上げます。
元々「ザ・ディプロマッツ」として活動していたソウルグループで、唯一遺したアルバムが「ジョージ・カー」がプロデュースした1973年リリースの「スカル・スナップス」でした。
おどろおどろしいジャケとは裏腹にレアグルーヴ系のソウルフルな名盤で、その中の一つにこの定番ブレイクビーツ「it’s a new day」が収録されています。
90年代前半に大ブレイクし、誰しもが必ず一度は使用したと言っても過言ではないほどの大定番ブレイクビーツ「it’s a new day」を使用した曲を12選します。
- 1 Organized Konfusion – Who Stole My Last Piece Of Chicken(1991)
- 2 Lords Of The Underground – Funky child(1993)
- 3 Black Moon – Who Got The Props(1993)
- 4 Showbiz And A.G. – Silence Of The Lambs(1992)
- 5 Diamond D And The Psychotic – Sally Got A One Track Mind(1992)
- 6 Das EFX – Mic Checka(1992)
- 7 Mobb Deep – Me & My Crew(1993)
- 8 Onyx – Throw Ya Gunz(1993)
- 9 The Pharcyde – Passin’ Me By(1992)
- 10 Brother Arther – What You Gonna Do(1994)
- 11 Gang Starr – Take It Personal(1992)
- 12 小沢健二 Ft. スチャダラパー – 今夜はブギーバック(1994)
1 Organized Konfusion – Who Stole My Last Piece Of Chicken(1991)
この定番ドラム使用の先駆けとも言われているのがクイーンズのユニット「オーガナイズド・コンフュージョン」の名盤ファーストアルバムに収録されているこの曲です。
冒頭のドラム2小節をそのままループしています。
上ネタとの相性も抜群で、ドラムのかっこよさが際立っていてめちゃめちゃかっこいいです。
2 Lords Of The Underground – Funky child(1993)
「it’s a new day」使いの代表曲と言えばこの「ファンキー・チャイルド」です!
ニュージャージーの「ローズ・オブ・ジ・アンダーグラウンド」の名盤ファーストアルバムに収録されている代表曲でもありながらヒップホップ史上における定番曲の一つでもあります。
「ジュース・クルー」のレジェンド「マーリー・マール」とその門下生「ケー・デフ」によるプロデュース。
ジェームス・ブラウンの元ネタとの相性が良すぎて鳥肌もののかっこよさです。
3 Black Moon – Who Got The Props(1993)
ヒップホップクラシックをもう一曲。
ブルックリンの「ブート・キャンプ・クリック」のリーダー「バックショット」率いる「ブラックムーン」の名盤ファーストアルバムに収録されている代表曲です。
「ロニー・ロウズ」「tidal wave」のネタ使いがかっこよすぎる最高の名曲です。
ドラムは「it’s a new day」に「ライトニン・ロッド」の「sport」を足しています。
プロデュースとスクラッチは、「ビートマイナーズ」の「イヴィル・ディー」です。
4 Showbiz And A.G. – Silence Of The Lambs(1992)
ラッパー、プロデューサー集団D.I.T.C.(ディギン・イン・ザ・クレイツ)の構成員である「ショウビズ&エージー」の名盤ファーストアルバムに収録されている最高にかっこいい名曲です。
プロデュースはショウビズで、イントロでは「フレディ・フォックス」がシャウトアウトしています。
ショウ&エージーは、トラックもラップもオーソドックス、シンプル、正統派ですが、どの曲も物凄くハイクオリティでめちゃめちゃかっこいいものばかりで、この曲もその一つです。
疾走感溢れ体が自然に動き出すようなノリノリさの中にインテリジェンスも感じます。
5 Diamond D And The Psychotic – Sally Got A One Track Mind(1992)
続いても「ディギン・イン・ザ・クレイツ」からベテランMC兼プロデューサーの「ダイアモンド・ディー」の名盤ファーストアルバムに収録されているシングル曲です。
ダイアモンド・ディー自身がプロデュースしています。
ベースラインが印象的な疾走感溢れるトラックで、元ネタ「タワー・オブ・パワー」のフルートの音色がバッチリハマってめちゃめちゃかっこいいです。
6 Das EFX – Mic Checka(1992)
EPMDに見出され大ブレークした二人組「ダス・エフェックス」の名盤ファーストアルバムに収録されているシングル曲です。
ジェームス・ブラウンの上ネタが癖になる中毒性の高いトラックに、ディギディスタイルが相性抜群です。
7 Mobb Deep – Me & My Crew(1993)
クイーンズの雄「モブ・ディープ」と言えばなんと言ってもクラシック中のクラシックな2ndアルバムが最高傑作として有名ですが、知名度も評価も高くないこのファーストアルバムも2ndに引けを取らないほどの大名盤だと声を大にして言いたいです。
そんなかっこいい曲ばかりのファーストアルバム収録の最高にかっこいいこの曲でもこのドラムが使われています。
元ネタ「マイルス・デイヴィス」「bitches brew」のダークな雰囲気とドラムの相性もバッチリです。
8 Onyx – Throw Ya Gunz(1993)
スキンヘッド4人組「オニクス」のファーストアルバムに収録されているシングル曲。
集団がなり系ブームの筆頭格で、ウータンクランやブラックムーンなどともに、ノリノリニュースクールからロービートアンダーグラウンドへの橋渡し的な役を担いました。
元ネタに大定番の「ボブ・ジェームス」「nautilas」を使ったハーコーな曲調にドラムがバッチリハマっています。
9 The Pharcyde – Passin’ Me By(1992)
カリフォルニアのニュースクール系グループ「ザ・ファーサイド」の名盤ファーストアルバムに収録されているシングル曲。
「クインシー・ジョーンズ」の上ネタが印象的なグルーヴィーなまったりチューン。
こういうゆったりとした曲調にもこのドラムは合います。
10 Brother Arther – What You Gonna Do(1994)
アンダーグラウンドラッパー「ブラザー・オーサー」のまったりソング。
この時代のアンダーグラウンドチューンではよく知られた名曲で、シンプルかつゆったりした上ネタにこのドラムが映えます。
所々に入る鳴り物やスクラッチもめちゃめちゃかっこよく、アンダーグラウンド感が醸し出されています。
ドラムの力を強く感じる一曲です。
11 Gang Starr – Take It Personal(1992)
前回まで取り上げていたレジェンドプロデューサー「DJプレミア」も、自身のグループ「ギャングスター」でこのドラムを使用しています。
しかしそこは普通を嫌うプレミアらしく、ドラムループを組み換え、打ち込み直し、さらにエフェクトをかけてノイジーにした使い方をしていて、他とは一線を画しています。
元々印象的なこのドラムをさらに印象深いものにしていて、このドラムループ自体がブレイクビーツのようになっています。
12 小沢健二 Ft. スチャダラパー – 今夜はブギーバック(1994)
おなじみのj-popチューンにもこのドラムは使われています。
当時渋谷系と呼ばれたアーティストの一人オザケンが、スチャダラパーをフューチャーしたこの曲は、当時もヒットしましたが、その後も歌い継がれ、今や世代を超えたj-popの代表曲の一つとなっています。
このドラムを使用したことが、この曲から「ヒップホップ」を感じさせる大きな要因となっていると思います。
今回は定番ブレイクビーツシリーズ第1段としてスカル・スナップスの「it’s a new day」を取り上げました。
あまりにもブームが加熱したせいか使用された期間が物凄く限定的ですが、その後に語り継がれるブレイクビーツの筆頭格として印象深いです。
次回、「it’s a new day」と同レベルの定番ブレイクビーツで、更に使い勝手の良さから時代・ジャンルを超えて幅広く使用されている「blind alley」を取り上げます。