DJプレミア②〈男気溢れるハードコア〉5選

ヒップホップ
引用元:"File:DJ Premier 2008.jpg" by alanpixx"
ヒップホップ

〈連想第98回〉

前回から、ヒップホップ史における最大のレジェンドの一人である「DJプレミア」プロデュースの曲をざっくりと雰囲気でカテゴリー分けして取り上げていますが、今回は〈男気溢れるハードコア〉な曲を5選します。

ここでDJプレミアの経歴について少し触れたいと思います。

DJプレミアはテキサス出身で、NYでラッパーの故「グールー」のグループ「ギャング・スター」に加入するまでは、テキサスとNYを行ったり来たりしていました。

当初「ワックスマスターC」という名前でDJだけでなくブレイクダンスもやっていたという経歴もありましたが、当時「ギャング・スター」のメンバーだった「DJマーク・ザ・45キング」から「もっとインパクトのある名前のほうがいい」と改名を促され、「DJプレミア」と名乗りました。

テキサスからNYに引っ越して来る時に、トラックに膨大なレコードを積んでやってきてグールーが驚いた、というのは有名なエピソードです。

DJプレミアは両親が共に教師で、父親は地元の大学の学長で、母親は自宅でソウルなどのレコードをかけながらよく絵を描いていたそうです。

やはり真の芸術家には、それを育む幼少期の体験・環境、そしてインテリジェンスが必要なのだなとジャンル問わずつくづく思います。

各ジャンルの色々なアーティストのインタビューや経歴などを読むと、総じて幼少期に主に両親などから日常に音楽のある環境が与えられ、音楽に触れながら育ってきた、というのがほとんどです。

ちなみに相方の「グールー」は、ボストン出身で、父親は判事、母親は図書館の管理人でした。

今回は、そんな生い立ち・経歴を持つ「DJプレミア」のプロデュースした曲から、「男気溢れるハードコアな曲」を5選します。

1 Nas – Memory Lane(Demo Mix)(1994)

NY・クイーンズを代表するスター「ナズ」の説明不要のレジェンドアルバム「イルマティック」に収録されている、「リューベン・ウィルソン」の「We’er In Love」使いのメロディアスな超名曲のデモ版です。

デモ版なので、アルバム収録曲より前に録音された、いわばこちらがオリジナル版とも言えます。

上ネタ以外はアルバム版と全く同じで、ハードなドラムもこのデモ版にしっくりあっていて、「なるほど、このネタ用のドラムだったのか」と唸らされます。

切なさ漂うメロディアスなアルバム版と違い、男気溢れるハードな雰囲気の曲でめちゃめちゃかっこいいです。

元ネタは、「クインシー・ジョーンズ」「Brook’s 50c Tour」の6:38です。

フックの声ネタは、クイーンズのヒップホップシーンの礎ともなった「ジュース・クルー」のラッパー兼DJ「ビズ・マーキー」「Pickin Boogers」の2:35と、同じく「ジュース・クルー」の「マーリー・マール Feat.クレイグG」「Droppin’ Science」の2:24です。

〈サンプリング曲〉

2 M.O.P. – Handle Ur Bussines(Remix)(1998)

プレミアの盟友的存在の「M.O.P」のシングル曲のリミックスです。

「M.O.P」は、小柄で高い声の「リル・フェイム」と、大柄でがなり声の「ビリー・ダンジニー」のコンビで、勇ましくハーコーで男むき出しのスタイルが特徴のブルックリンのラッパーです。

プレミアとはたくさんの曲でタッグを組んでいて名曲を数多く残していますが、プレミアもM.O.Pのスタイルに合わせて毎度男気あふれる路線のトラックをぶつけてきていて、どの曲もテンション上がる曲だらけです。

この曲は、ハーコーでありつつアンダーグラウンド感も満載で鳴りも良く、特に曲の最後声が抜けてインストに切り替わるところとかはめちゃめちゃかっこよくて鳥肌ものです。

元ネタは「メルバ・ムーア」「Must Be Dues」の冒頭です。

〈サンプリング曲〉

3 Group Home – The Realness(1995)

前回も取り上げたギャングスターファウンデーションの構成メンバー、小柄で潰れた声の「リル・ダップ」と、朗々としたラップスタイルの「メラチ・ザ・ナットクラッカー」の二人からなる「グループホーム」です。

名盤アルバム「Livin’ Proof」の最後に収録されている曲で、12インチでリリースされた「Suspended In Time」のB面でもあります。

ファーストヴァースは半ギャングスターファウンデーションとも言えるしゃがれ声のMC「スマイリー・ゲットー・チャイルド」がラップしています。

ハーコーでアンダーグラウンド、胸が熱くなり静かにテンションが上がり体が自然に動きます。

元ネタは、「最もヒップホップにサンプリングされたアーティスト(たぶん)」の「ボブ・ジェームス」、定番中の定番、ド定番アルバム「One」から、「Valley Of The Shadows」の冒頭です。

フックの声ネタは、これまたド定番、曲としても声ネタとしても定番中の定番、クイーンズブリッジ代表「モブ・ディープ」のクラシックアルバム「The Imfamous」に収録されていて、12インチシングルカットもされている「Shock Ones Part2」の故「プロディジー」のパートの冒頭0:28です。

〈サンプリング曲〉

4 Jeru The Damaja – How I’m Livin’(1996)

プレミアの盟友、ギャングスターファウンデーションの一員であるラッパー「ジェルー・ザ・ダマジャ」の、全曲プレミアプロデュースの名盤セカンドアルバムに収録されている一曲。

すごくシンプルに聴こえてものすごく作り込まれていて、ネタ・ベース・ドラムが織りなす「間」がたまりません。

ギャングスターファウンデーションきってのテクニシャン「ジェルー」の技巧派ラップが、この「間」にかっちりハマってめちゃめちゃかっこいいです。

メインループの耳に残る男らしいベースは、元ネタ不明ながら、個人的には「ドクター・ドレイ」プロデュースの「The D.O.C」「It’s Funky Enough」のネタである「フォスター・シルバーズ」「Misdemeanor」の冒頭にフィルターかけてチョップしたらこんな感じかなー?と想像を巡らせています。

そしてそこに隠れたもう一つのネタが、「マイルス・デイヴィス」「Venus De Milo」の0:13の一瞬です。

うーん、マイルスのこの曲のこの箇所をこういうふうに使おうとした感性ってすごいなと敬服します。(前回取り上げたグループホームのリビンプルーフもすごいですが、そちらのほうがまだわかります…)

フックの声ネタは、スタテン・アイランドのレジェンド「ウータン・クラン」の「ジザ」「Lebels」の0:29、元「EPMD」で「ヒット・スクワッド」のリーダー「PMD」「Rugged N Raw Original Mix」の1:35、そして前回取り上げた激渋フィーメルラッパー「バハマディア」のプレミアプロデュース曲「3 Tha Hard Way」の3:31です。

〈サンプリング曲〉

5 Gang Starr Feat. Hannibal- Itz a Set Up(1998)

ギャングスターの名盤5thアルバム「Monent Of Truth」に収録されている男気あふれるめちゃめちゃかっこいい曲。

プレミアのスタイルである、チョップ、間、腹の底に響くドラム、ハメスクラッチが完成形を見たアルバムで、実質プレミアのスタイルはこの頃から今に至るまで変わっていません。

これらの特性が極まったこのアルバムの中で、渋いながらも疾走感溢れて鳴りもよく、フューチャーされている「ハンニバル」もこの渋いトラックにハマっていて、名曲揃いのアルバムの中でも隠れた名曲と言える1曲です。

元ネタは、「レス・マッキャン」「Beyond Yesterday」の1:01と5:24です。

〈サンプリング曲〉

今回はDJプレミアがプロデュースした曲から〈男気溢れるハードコア〉な曲を5選しました。

次回は引き続きDJプレミアプロデュースの曲から、今度は〈静かで訥々としたアンダーグラウンド〉な曲を5選します。