DJプレミア③〈静かで訥々としたアンダーグラウンド〉5選

ヒップホップ

〈連想第99回〉

ヒップホップ史上における最大のレジェンドの1人である「DJプレミア」がプロデュースした曲を複数回に分けて取り上げています。

プレミアのスタイルは一貫しているものの、その曲調は変幻自在で様々なものがあり、「ダークでアンダーグラウンドなもの」から「イケイケでノリノリなもの」、「きれいで美しいもの」から「男気溢れるハードコアなもの」まで多岐にわたります。

プレミアのスタイルの変遷は、ざっくり分けて3つに分けられます。

・デビュー時から、4thアルバム「hard to earn」でのミニマムループ完成までの試行錯誤期間

・「チョップ+鳴りのいい骨太ドラム」が極まりスタイルが固まったD&Dスタジオ時代

・それ以降

ギャングスターは、出始めの頃は批評家筋からUKの「US3」などと並びジャズ系ヒップホップグループとしてカテゴライズがされることが多かったのですが、「ジャズ風ヒップホップ」と「サンプリングにジャズもサンプリングしたヒップホップ」は、似て非なるもので、カテゴライズとしてはあまり適切ではありませんでした。

プレミアの本人談としては「当時は猫も杓子もジェームス・ブラウンをサンプリングしてたから、趣向を変えてジャズを使ってやろう、っていう感じだった」というもので、ジャジーなヒップホップを狙ったわけではなかったようです。

それよりも特徴的だったのは、「音数は少ないがネタ感は強いミニマ厶ループ」とでも言えばよいでしょうか、ヒップホップが上ネタのループで聴かせる音楽となっていった走りとも言えるそのスタイルでした。

このスタイルのさらなる詳細や変遷については次回以降順を追って説明して行こうと思います。

今回はそんな中から「静かで訥々としたアンダーグラウンド」な曲、「間」や「鳴り」が唯一無二で最高な、ずっと聴いていたくなる曲を5選します。

1 Gang Starr – The ? Remain(1994)

ギャングスターの名盤4thアルバム「Hard To Earn」からのシングルカット「Suckas Need Bodtguards」のB面に収録された曲で、4thアルバムには収録されず、後に1999年のベストアルバムに収録されました。

究極の1小節ループで、この時期のプレミアのミニマムループの金字塔的な曲です。

プレミアにとっては異色のスムージー系の曲にも関わらず、ドス黒くノリノリで自然に身体が揺れるめちゃめちゃかっこいい曲です。

ザラザラした質感にスムージーな上ネタと跳ねるベースが織りなすミニマルループの強烈なグルーヴ感はものすごいものがあります。

元ネタは、ヒップホップで最もサンプリングされたアーティスト(と言っても過言ではない)「ボブ・ジェームス」「Look Alike」の冒頭0:04です。

声ネタは、以前取り上げた「マッド・ライオン」「Shoot To Kill」の冒頭0:05、クイーンズの「ジュース・クルー」の「マーリー・マール Ft.クレイグ G」「Droppin’ science」の1:12、ロックバンド「セックス・ピストルズ」やファッションブランド「ヴィヴィアン・ウエストウッド」など、多様な顔を持つヒップホップパイオニアの一人である故「マルコム・マクラーレン」のスクラッチネタの定番「D’Ya Like Scratchin’? 」の0:16です。

2 Group Home – Up Against The Wall (Getaway Car Mix)(1995)

「ギャングスターファウンデーション」所属のグループ「グループ・ホーム」、デビューアルバムにして名盤の「Livin’ Proof」に収録されている「Up against The Wall」のプレミア自らによる2つのバージョンのうちの1つです。

ザラザラした温もりあるアナログ感に、静かにピアノがフェードインしてくる、とても美しくかっこいい異色作です。

ボトムの効いた「プレミアドラム」に絶妙な質感のピアノのループに、潰れ声のリル・ダップと朗々としたナットクラッカーのラップも映えます。

元ネタは「ヤング・ホルト・トリオ」「Red Sails In The Sunset」の0:43です。

声ネタは、「ブラザー・アーサー」「The Year Of The 9」の2:10、「グループ・ホーム」自身の曲「Super Star」の1:56、そして「ギャングスター」の曲でリル・ダップがフューチャーされているパートがある「Speak Ya Clout」の2:11です。

3 Krumb Snatcha – Gettin Closer To God(1997)

「ギャングスターファウンデーション」の元メンバーで、スキルフルなラップが特徴のマサチューセッツ州出身のラッパー「クラム・スナッチャ」の代表曲です。

プレミアが最もよく使うドラムの1つである、典型的な「プレミアドラム」を使い、ネタはフワフワ浮遊感が特徴的ながらも実はチョップしまくりの職人芸が極まった一曲。

この鳴りの良いドラムは、プレミア印の1つとも言え、このドラムが聴こえた瞬間「あ、プレミアだ」と反応してしまいます。

上ネタは、何とも静けさと浮遊感漂う研ぎ澄まされた感のあるストイックなループですが、実は元ネタは、「ジャクソン5」「I Am Love」というソウルフルなバラード(途中からロック調に)の冒頭をチョップして組み替えたもので、プレミアのスタイルが頂点まで極まった曲の1つと言えるでしょう。

声ネタは豪華レジェンドのクラシックが並びます。

声ネタのド定番「モブ・ディープ」「Shook Ones Part2」1:43、レジェンド「エリックB&ラキム」のクラシック「Eric B Is President」3:07、Gファンクの絶頂期「スヌープ”ドギー”ドッグ」のショートフィルムのサウンドトラックから「Murder Was The Case」0:48、です。

4 Gang Starr – Robbin Hood Theory(1998)

ギャングスターの名盤5thアルバム「Moment Of Truth」に収録されている一曲。

この曲もまた究極のチョップにより組み立てられた曲ですが、その曲調は何ともワビサビを感じる「間」と「鳴り」が絶妙な、かっこよすぎる曲です。

静けさや禅的な響きを感じる異色作で、天才的なセンスや感性を感じます。

元ネタは、「ジョージ・デューク」「Capricorn」3:31、3:52をチョップして組み替えています。

5 Gang Starr – No Shame In My Game(1992)

ミニマ厶ループが完成を見た名盤3rdアルバム「Daily Operetion」に収録されている一曲。

ジャジーなシンバル音が訥々感を醸し出し、淡々としたワンループがストイックさとグルーヴ感を生み出していて引き込まれます。

この頃のプレミアにはこういうタイプの曲が結構あり、当時ギャングスターのイメージとしては「知的で硬派で職人的」といった印象でした。

元ネタは、「クルセイダーズ」「In The Middle Of The River」の0:24です。

声ネタは、バスタ・ライムス所属の「リーダーズ・オブ・ザ・ニュースクール」「Sobb Story」の1:24です。

今回はDJプレミアの〈静かで訥々としたアンダーグラウンド〉な曲を5選しました。

プレミアは初期の頃を中心に渋いイメージがありましたが、90年代後半以降は、ノリノリでテンション上がる系の曲が多くなっていき、それがプレミアのイメージとして定着していきます。

次回は、DJプレミア〈ノリノリで勢いがありテンションが上がる〉曲を5選します。