荒井 由実〈後編〉10選

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〈連想第16回〉

前回は「荒井由実」の4枚のアルバムのうち最初の2枚「ひこうき雲」と「ミスリム」を取り上げましたが、今回は残りの2枚「コバルトアワー」と「14番目の月」を取り上げます。

前編の2枚と同様、全曲名曲なのでそこから選ぶということ自体がナンセンスなのですが、あえてそこから10選します。

ちなみに、この時期「ユーミン・ブランド」というベストアルバムも出されており、4枚のオリジナルアルバムに収録されていない「あの日に帰りたい」や「陰りゆく部屋」、「魔法の鏡(シングルバージョン)」などが含まており、いずれも超名曲なのですが、今回の選には含めていません。

1 コバルト・アワー(1975)

大名盤3rdアルバム「コバルトアワー」の1曲目のタイトル曲。

このアルバムはこの曲のイントロでセスナの音から始まり、最後の曲のアウトロでセスナで終わる、という構成になっています。

前アルバムに引き続き「松任谷正隆」氏のアレンジが全面的に冴え渡っていて、とても洗練されたセンスあふれるアルバムで、今回取り上げる曲の他にも、「何も聞かないで」「少しだけ片想い」「アフリカへ行きたい」などの大名曲が収録されています。

この曲は、数あるユーミンの名曲の中でも、最も都会感、ハイウェイ感、疾走感があるシティポップ系の曲です。

楽曲とユーミンの歌の素晴らしさもさることながら、バンドの演奏が最高で、中間部の「松任谷正隆」氏によるエレピのアドリブ演奏は神がかり的にかっこよく、都会のハイウェイ感をより際立たせています。

2 卒業写真(1975)

説明不要のユーミンの代表曲の一つ。

この大定番曲が収録されているのがこの3rdアルバムです。

優しいメロディーと耳に残る歌詞が印象的です。

色々なところで何度も耳にし、歌詞ももう聞きすぎるほど聞いているのにも関わらず、ふとしたときにその世界に引き込まれ、自身の体験と重なり涙が出てくる…こういうのを本当の名曲というのでしょう。

3 雨のステイション(1975)

3rdアルバムに収録されているこの曲も、とても情景が思い浮かぶとともに、歌声の素晴らしさが際立つ神曲です。

この曲の歌詞は、JR西立川駅のことをイメージしたものらしく、後年発車メロディとして使われていたことでも有名です。

1stアルバム収録の「雨の街で」と並び乳白色の霧がかった情景がイメージされ、歌詞の心情とがリンクしてこの曲の世界観にどっぷり引き込まれます。

西立川駅の発車メロディもリンクします。

4 ルージュの伝言(1975)

荒井由実の、ひいてはユーミンの代表曲の一つ。

今から考えると意外ですが、デビューから数年はセールス的に伸び悩んでいたらしく、そんな中ヒットを狙って作って狙いどおりヒットしたのがこの曲だったそうです。

ジブリ映画「魔女の宅急便」のテーマソングとして使われ、私自身がユーミンの音楽と出会ったきっかけとなった曲でもあり、感慨深いものがあります。

当時はこの曲に引き込まれ、夢中になりました。

コーラスは「山下達郎」が手掛け、「吉田美奈子」、「大貫妙子」など、豪華メンツが揃い、山下達郎節がかなり出ています。

当時の貴重なテレビライブ映像もリンクします。

5 さざ波(1976)

ここからは4枚目のアルバム「14番目の月」収録曲です。

このアルバムもとにかく名曲だらけで、「松任谷正隆」氏が編曲のみならず全面プロデュースをし始めたアルバムでもあります。

「さざ波」はアルバムの一曲目で、ごきげんなイントロでこのアルバムへの期待が高まりますが、そんなごきげんな中にも切なさやノスタルジックさがある名曲です。

テンポが早く疾走感があるバンド演奏がかっこいい当時の貴重なFM音源もリンクします。

6 さみしさのゆくえ(1976)

フォーク全盛の時代にそれらとは一線を画するメロディーや歌詞、コード進行で「ニューミュージック」と呼ばれたユーミンの音楽。

そんな中でこの「さみしさのゆくえ」は、唯一若干フォーク色を感じる曲です。(ちなみに唯一歌謡曲っぽさを感じるのは「あの日に帰りたい」)

冒頭の「松任谷正隆」氏によるエレピのメロディが切なくノスタルジックで胸に込み上げてくるものがあります。

7 中央フリーウェイ(1975)

jpop史上に燦然と輝く国民的神曲「中央フリーウェイ」も、この4thアルバム「14番目の月」収録曲です。

ユーミンは70年代、80年代、90年代と3度に渡り一時代を築いた稀有なアーティストですが、70年代のブレイク期がリアルタイムだった世代にとっては、この曲が代表曲中の代表曲という感じでしょうか。

とにかく都会的な洗練されたメロディーとコード進行、そしてキラキラした情景が思い浮かぶ歌詞がポップに融合した奇跡の大名曲です。

「松任谷正隆」氏によるエレピの音色が都会感、解放感をより際立たせ最高です。

8 何もなかったように(1976)

愛犬への追悼の歌とのことですが、色々な場面に心情を重ね合わせることができる、涙が出てくる歌詞が印象的です。

とても美しいメロディーとともにサウンド的にもものすごく洗練されていて素晴らしいです。

9 グッドラック・アンド・グッドバイ(1976)

聴くたびに涙があふれる名曲中の名曲。

元々は「岡崎友紀」氏への提供曲だったようです。

歌詞もメロディーも悲しげだけど悲しくない、切ないけどどこか明るい、それがまた逆に泣ける、そんな曲です。

自身の記憶と重ね合わせて涙する、そんな人も多いのではないでしょうか。

10 晩夏(1976)

このアルバムに次ぐ「松任谷由実」名義の名盤1stアルバム「紅雀」への流れを感じさせる曲で、アルバムの中では「何もなかったように」と並んで若干異色な趣きがあります。

しっとりじっくり聴かせる感動的な曲で、大傑作4thアルバム「14番目の月」のラストを締めくくります。

2回に渡って荒井由実を取り上げました。

取り上げなかった曲以外も名曲だらけで、聴いていて本当に不世出の天才、他の追随を許さない唯一無二の奇跡的な存在、と感じざるを得ません。

また、それを際立たせる編曲や演奏も素晴らしく、奇跡的な4枚だと思います。

この後、松任谷由実名義になってからもさらに伝説は続き、名曲を大量生産していくのは衆目知るところかと思いますが、それらについてはまたの機会にあらためて取り上げようと思います。

さて次回は、前回触れた、ユーミンのコード進行などから大いにインスピレーションを受け、「きっと言える」や「ルージュの伝言」をカバーもしている小西康陽を取り上げようと思います。