DJプレミア①〈激渋すぎるアンダーグラウンド〉5選

ヒップホップ
引用元:"Dj_premier-04.jpg" by Mika Väisänen"
ヒップホップ

〈連想第97回〉

前回までは、ショパンからワーグナー、そしてリヒャルト・シュトラウスまでのクラシック音楽の系譜をたどってきましたが、ここで、リヒャルト・シュトラウスと時空を超えた繋がりがあった「DJプレミア」を取り上げます。

クラシックとヒップホップ、音楽の系譜として直接的に何か繋がりがあるわけではありませんが(大きく捉えるとクラシック→ジャズ→ソウル・ファンク・レゲエ→ヒップホップ、という系譜はありますが)、「ツァラトゥストラはかく語りき」の一瞬を切り取りサンプリングすることで、ドープでアンダーグラウンドなかっこいいヒップホップに生まれ変わり、全く接点のないところに接点が生まれたのでした。

これがヒップホップの醍醐味、本当に奥が深くて面白いところです。

リヒャルト・シュトラウスも、自分の曲がまさかこんな形で別の音楽になるとは夢にも想像できなかったことでしょう。

「DJプレミア」は、ヒップホップの歴史における最大のレジェンドの一人であるプロデューサーで、名前のとおりDJでもあります。

ラッパーの故「グールー」とのデュオ「ギャングスター」として長く活動する傍ら、「ギャングスター・ファウンデーション」のクルーの中心人物として「ジェルー・ザ・ダマジャ」「グループ・ホーム」らのほか、この「ビッグ・シュグ」を全面プロデュースしてきたのみならず、ナスやジェイZ、故ビギーやKRSワンなどの大御所達とも多数、継続的にタッグを組んで数え切れないほどの名曲を生み出してきました。

今回から複数回に分けて、そんなDJプレミアの音楽や活動歴などを紹介しながら、プロデュースした曲をざっくりとテーマを設けて取り上げていきたいと思います。

第1回目の今回は、「ツァラトゥストラはかく語りき」をサンプリングした「ビッグ・シュグ」の「Crush」という曲が、「激渋すぎるアンダーグラウンド」な曲なので、イメージ、雰囲気として共通するもの、ミックスなどを作るときに繋げてかけたいと思う曲を5選します。

1 Big Shug – Crush(1996)

繰り返しになりますが、「ギャングスターファウンデーション」の一員として、最も息長くDJプレミアと活動を共にしている盟友「ビッグ・シュグ」のシングル曲です。

ネタの音の鳴りが素晴らしく、アンダーグラウンド感を醸し出していてめちゃめちゃかっこいいです。

既にご紹介したとおり元ネタは「リヒャルト・シュトラウス」の「ツァラトゥストラはかく語りき」の16:51~です。

フックの声ネタは「ウータン・クラン」からのソロ「レクウォン」の「Guillotine」でフューチャーされている同じくウータンの「インスペクター・デック」のパート0:59~と、元「Xクラン」のフィーメルラッパー「リン・キュー」の「Let It Fall」1:04~です。

〈サンプリング曲〉

16:51~
0:59~
1:04~

2 D.I.T.C. – The Enemy(1996)1:04~

ラッパー、DJ、プロデューサーなどのアーティスト集団「ディギン・イン・ザ・クレイツ(=木箱を掘る→レコードを掘る)」から、故「ビッグL」→「ファット・ジョー」の2人をフューチャーしたドープな一曲。

究極にシンプルながら、ディープでアンダーグラウンド感がハンパなく、文字通りNY・ブルックリンの地下がイメージされてめちゃめちゃかっこいいです。

元ネタは、「ゴードン・パークス」の「From Storm To Calm」の冒頭です。

冒頭の声ネタは、同じく「D.I.T.C.」の「O.C.」の定番クラシック「Time’s Up」の0:29~です。

〈サンプリング曲〉

0:00~
0:29~

3 Bahamadia – Rugged Ruff(1996)

激渋フィーメルラッパー「バハマディア」のファーストアルバム「コラージュ」から、プロモ版でのみシングルカットされたド渋な一曲です。

数あるヒップホップの中でも、渋さランキングではベスト3に入るでしょう。

淡々、訥々としたトラックがかっこよすぎて逆にテンション上がります。

この淡々としたトラックとバハマディアの抑揚のないラップの相性が最高に抜群で、ずっと聴いていたくなります。

フックの声ネタは「ナス」の「Half Time」1:18~と、バハマディア自身の「Total Wreck」0:39と0:50~です。

〈サンプリング曲〉

1:18~
0:39~、0:50~

4 Gang Starr – F.A.L.A.(1994)

DJプレミア自身のグループ「ギャングスター」の名盤フォースアルバム「Hard To Earn」収録曲。

前出の「ビッグ・シュグ」をフューチャーした激渋な一曲です。

個人的に↑3の「Rugged Ruff」とミックスするのが定番で、サンプリングネタは不明ながら、ネタ使いや構成が似ています。

この渋さ、空気感、かっこよすぎて身震いします。

フックの声ネタは、「ダス・エフェックス」の「Hard Like A Criminal」2:09~です。

〈サンプリング曲〉

2:09~

5 Group Home – Livin’ Proof(1995)

「ギャングスターファウンデーション」所属デュオ、「リル・ダップ」と「メラチ・ザ・ナットクラッカー」からなる「グループホーム」の名盤ファーストアルバム「Livin’ Proof」からの同名シングル曲です。

「グールー」プロデュースの一曲を除いてほか全て「DJプレミア」プロデュースのこのクラシックアルバムは、全曲名曲でこの時期のプレミアの金字塔的アルバムですが、この曲はそんなアルバムを代表する特徴的な一曲です。

究極のミニマルループで超シンプルかつ少ない音数で独特の間を生み出し、それがものすごいグルーヴを醸し出しています。

ジャズやレゲエにも共通しますが、ブラックミュージックのキモは「間」であると思います。

この「間」に「黒さ」を感じます。

ジャズの「セロニアス・モンク」などにもこの「黒さ」を強烈に感じますが、これにより生まれるグルーヴ感が、体が自然に動くノリノリ感の元なのだと感じます。

この曲はそんな感覚が濃縮されたヒップホップクラシックです。

コントラストのある二人のラップとの相性も抜群です。

元ネタは、「ラムゼイ・ルイス・トリオ」の「Collage」3:19~の一瞬です。

声ネタは、「ウータン・クラン」のレジェンドファーストアルバムからの定番シングル「C.R.E.A.M」から「インスペクター・デック」のパート2:42~です。

〈サンプリング曲〉

3:19~
2:42~

今回は、「リヒャルト・シュトラウス」と時空を超えた接点を持ったヒップホップのレジェンドプロデューサー「DJプレミア」がプロデュースした曲から「激渋すぎるアンダーグラウンド」な曲を5選しました。

次回は、同じく「DJプレミア」プロデュースの曲から「男気溢れるハードコア」な曲を5選します。