定番ブレイクビーツ④〈Impeach The President〉14選

ヒップホップ
ヒップホップブレイクビーツ

〈連想第118回〉

定番ブレイクビーツを連続で取り上げています。

今回は定番ブレイクビーツの中でも定番中の定番、キング・オブ・ブレイクビーツと言っても過言ではない「ザ・ハニードリッパーズ」の「インピーチ・ザ・プレジデント」を取り上げます。

ファンクバンド「ザ・ハニードリッパーズ」が1973年にリリースしたされたこの曲は、直訳すると「大統領弾劾」となる抗議ソングでした。

しかしブレイクビーツとして早くから定着し、ヒップホップのみならずR&Bやポップス、ソウルやジャズなどジャンルを超えて使われるようになり、はたまたバトルDJ界隈でもジャグリングの定番となるなど、まさにドラムの王様と言っても過言ではない存在になりました。

音に隙間があるので、サンプリングして細切れにして打ち込み直すという手法でも使いやすく、まさに万能でした。

今回はそんな定番中の定番ドラム「インピーチ・ザ・プレジデント」を使った曲を14選します。

1 MC Shan – The Brigde(1986)

ヒップホップクラシックにしてインピーチ使いの大定番、クイーンズブリッジのレジェンド「ジュース・クルー」のリーダー「エムシー・シャン」の代表曲です。

プロデュースはもちろん「マーリー・マール」。

ブレイクビーツを細切れにして打ち込み直す手法のパイオニア的存在の一人です。

ヒップホップはブレイクビーツの2枚使いに始まり、80年代前中期のローランド808の打ち込みを経て、80年代中後期に今度はブレイクビーツをサンプリングして細切れにして打ち込み直す手法が全盛となっていきます。

この時代はヒップホップのカンブリア紀とも言える第一次黄金時代で、様々なレジェンドアーティストがクラシックソングを連発した物凄い盛り上がりとうねりが生じた、ヒップホップ史におけるとても重要な時期になります。

この時期のことをミドルスクールと呼ぶこともあります。

ちなみにその後80年代後期から90年代前期のニュースクールと呼ばれる時代にはブレイクビーツをそのままループさせるオールドスクール初期への揺り戻しがあり、90年代中期以降は再びブレイクビーツを細切れにして打ち込み直す手法が主流となっていきます。

そして更にその後は、トライトンなどのシンセサイザーによるドラム打ち込みを経て、サウス系を中心に再びオールドスクール期のローランド808の打ち込みが全盛となって今に至ります。

この曲はそんなヒップホップが大きなうねりをあげて飛躍的にその存在が大きくなっていく時代を象徴する一曲で、時代のテンションを物凄く感じる鳥肌もののレジェンドソングです。

ミドルスクール期を代表するレジェンド集団「ジュース・クルー」のリーダー「エムシー・シャン」が、同クルーの専属プロデューサー「マーリー・マール」のトラックで高らかにラップするヒップホップ=クイーンズブリッジ讃歌で、その後「ナズ」や「モブ・ディープ」等を輩出するNY・クイーンズの1地区であるクイーンズブリッジがヒップホップの聖地だと言わんばかりの歌詞になっています。

しかしそれに怒ったのがヒップホップ生誕の地サウスブロンクスの「ケーアールエス・ワン」でした。

このことについては↓2で紹介します。

2 Boogie Down Production – The Bridge Is Over(1987)

ヒップホップ生誕の地サウスブロンクスを代表するレジェンドグループ「ブギー・ダウン・プロダクション」の代表曲中の代表曲です。

ヒップホップクラシックとして名高い1stアルバム「climinal minded」に収録されています。

この曲は↑1に対するアンサーソングで、「何言ってるんだ?ヒップホップが生まれたのはここサウスブロンクスだ。クイーンズブリッジは終わりだ。」というクイーンズブリッジ(ジュース・クルー)VSサウスブロンクス(ケーアールエス・ワン)の伝説のバトルのきっかけとなったレジェンドソングです。

全時期を通してレゲエとの結びつきが強い「ケーアールエス・ワン」ですが、この曲も例にもれずレゲエ調のフロウや節回しが満載です。

究極にシンプルながらテンション上がるレジェンドソングです。

この曲もドラムを細切れにして打ち込み直しています。

3 Biz Markie – Make The Music With Your Mouse Biz(1986)

こちらもヒップホップクラシック、再び「ジュース・クルー」から、ラップ、プロデュース、DJ、ヒューマンビートボックスと多才かつコミカルなキャラでお馴染みのレジェンド「ビズ・マーキー」の代表曲の一つです。

プロデュースはもちろん「マーリー・マール」です。

荒削りな上ネタのサンプリングやボトムの効いたドラムの打ち込みなどヒップホップのツボが満載の最高にかっこいい曲です。

「ボーン」という重低音ベースもかっこいい、シンプルに聴こえてとても作り込まれた名曲です。

4 Super Lover Cee & Casanova Rud – Do The James(1988)

ミドルスクールクラシックの一つ「スーパー・ラバー・シー&カサノバ・ラッド」の代表曲です。

ブレイクビーツをそのままループしていますが、エフェクトをかけてボトムの効いた鳴りの良い音色になっています。

上ネタも後に定番となっていくジェームス・ブラウンで、定番づくしの名曲です。

5 Nice & Smooth – Funky For You(1989)

ミドルスクール期〜ニュースクール期にかけて大ブレイクしたごきげんな「グレッグ・ナイス」とクールな「スムース・ビー」からなるデュオ「ナイス・アンド・スムース」の代表曲の一つです。

楽しげな上ネタにブレイクビーツをそのまま乗せたシンプルな構成で、キャッチーなヒット曲です。

6 Kris Kross – Jump(1992)

アトランタの12才の少年デュオによるスーパーメガヒットソングです。

学校の成績はオールAながら服を後ろ前逆に着るという見た目のインパクトも大な「クリス・クロス」のこの特大ヒットソングは、ビルボード1位にもなりました。

「オハイオ・プレイヤーズ」の印象的な上ネタもかっこよくテンションが上がる名曲です。

7 Digable Planets – Reberth Of Slick(1992)

グラミー賞も受賞した知的さ漂う三人組「ディガブル・プラネッツ」最大のヒット曲にして代表曲です。

インピーチを細切れにして打ち込み直していますが、その打ち込み方もトリッキーでユニークなもので、ツンのめり感が個性的なグルーヴを生み出しています。

「ジャズ・メッセンジャーズ」をサンプリングしたクールなトラックもかっこよく、他に似たアーティストがいない唯一無二の不世出なグループです。

8 2Pac Ft. Shock G,Money B – I Get Around(1993)

言わずと知れた西海岸のレジェンド「トゥパック」の代表曲の一つです。

ウェッサイらしいメロウでスムージーなトラックにトゥパック節が映えます。

9 The Notorious B.I.G. – Unbelievable(1994)

DJプレミア⑪〈スタイルを確立させた代表曲・定番曲〉でも取り上げた、「DJプレミア」プロデュースのヒップホップクラシックです。

ネタもドラムも細切れにして打ち込んでいるというミドルスクール直系のスタイルを進化させたスタイルで新境地を開きました。

印象的なサビの「アール・ケリー」「your body is calling」の声ネタは、意外にもビギーの発案でプレミアははじめは乗り気ではなかったそうです。

しかし結果的にこの声ネタが、超アンダーグラウンドなこの曲に怪しさとポップさを付加するかたちになりました。

ビギーやナズのアルバムリリースを皮切りに、1994年以降は再びドラムは細切れにして打ち込むスタイルが主流になっていきました。

10 I.N.I. ft. Pete Rock – Faikin Jax(1996)

毎度「DJプレミア」とセットで登場する「ピート・ロック」全面プロデュースのグループ「アイ・エヌ・アイ」の唯一の正規リリースシングルです。

本当は1995年にアルバムがリリースされる予定でしたが、レーベルと揉めてお蔵入りとなり、結局アルバムがリリースされたのは2003年になってからでした。

1995年にリリースされていたら確実にヒップホップクラシックになっていたであろう名曲ぞろいのこの名盤アルバムに収録されています。

11 Mic Jack Production – New World(2002)

札幌のアンダーグラウンドシーンで活動していた「マイク・ジャック・プロダクション」のファーストアルバムに収録されている一曲。

シンプルなブレイクビーツに物凄いエフェクトをかけて鳴りが激しめになっていますが、それがこのスピリチュアルなトラックにガッチリハマっていて、独特の世界観に没入させられます。

12 Audio Two – Top Billin’(1987)

インピーチ使いと言えばこの曲「オーディオ・トゥー」の「トップ・ビリン」です。

インピーチを組み替えたこのドラムパターンそのものがブレイクビーツと言っても良いほどインパクトがあり、そしてこの後様々なかたちで色々なアーティストに使われていくことになります。

サビがなく、ラッパーの「ギズモ」がテンション高く一息で歌い上げます。

1の「ザ・ブリッジ」らと同様に、ヒップホップという音楽が世界を席巻していく存在になる物凄いパワーをこの曲からも感じます。

この時期を代表する大名曲のヒップホップクラシックです。

13 Mary J Brige – Real Love(1992)

↑の「トップ・ビリン」を使った代表曲が「メアリー・ジェイ・ブライジ」の特大ヒットソング「リアル・ラブ」です。

ヒップホップのトラックに乗せてシンガーが歌を歌う「ヒップホップソウル」の代表的存在が「メアリー・ジェイ・ブライジ」で、この後またたく間に「ヒップホップソウル」がR&Bシーンの主役となり、現在に至るまで脈々と続いています。

そのアイコン的存在がこの曲「リアル・ラブ」で、「トップ・ビリン」ドラムも一躍有名になりました。

世代を超えたR&Bクラシックです。

14 Da Pump – Around The World(1998)

「ダ・パンプ」もこのドラムを使っています。

プロデュースは「MCエーティー」。

ダ・パンプは当時好きでよく聴いていたので、この曲がリリースされた時は「お!トップ・ビリンだ!」と嬉しくなったものでした。

懐かしく思い出深い一曲です。

今回は定番ブレイクビーツのキングとも言うべき「インピーチ・ザ・プレジデント」を取り上げました。

取り上げたのはほんのごく僅かで、このドラムを使用した曲は無数にあります。

さて次回は、定番ブレイクビーツの王道「hihache」を取り上げます。