定番ブレイクビーツ⑥〈Sing A Simple Song〉12選

ヒップホップ
ヒップホップブレイクビーツ

〈連想第120回〉

ヒップホップの定番ブレイクビーツを連続して取り上げています。

今回はハードなドラムの代名詞とも言える「スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン」の「シング・ア・シンプル・ソング」を取り上げます。

この曲は、スライのフォースアルバム「スタンド!」に収録されていて、大ヒットしたシングル「エブリデイ・ピープル」のB面です。

ロックテイストの強いバンドということもあり、強く激しいドラムが特徴的で、とにかくハードコアなトラックによく使用されます。

ブレイクビーツは2:10~あたりです。

そんな「シング・ア・シンプル・ソング」を使用した曲を12選します。

1 Jungle Brothers – J Beez Comin’ Through(1989)

ニュースクールを代表する「ネイティブ・タン」の筆頭「ジャングル・ブラザーズ」の2ndアルバムに収録されているシングル曲のリミックスバージョンです。

「ネイティブ・タン」は一般的に、「ゴールドチェーンを付けたワイルドでタフなイメージ」だったオールドスクールと違い、「気の合う仲間で集まったゆるいポップなスタイルの集団というイメージ」で語られますが、ことサウンド面に関しては実は全般的にドス黒くハードなものが多いです。

例えば「ジュース・クルー」などのニュースクール以前のほうがサウンド面においてはメロディアスでポップな曲も多いくらいです。※ただし、イメージとしては確かに「タフ」なものですが。

「ハードコアなドラム」の印象を決定づけるこの曲は、「ジョージ・マイケル」のさわやかなポップスをサンプリングした衝撃のネタ使いで、ジャンブラ随一のハーコーな曲となっています。

ラップのないインストながらアドレナリンが出まくり最高潮にテンションが上がる一曲です。

2 Dr. Dre Ft. Snoop Doggy Dogg – Deep Cover(1992)

西海岸LAはコンプトン発のギャングスタラップの祖「N.W.A」を離脱した「ドクター・ドレー」のソロ第一弾にして「スヌープ・ドッグ」のデビュー曲でもあります。

生けるレジェンド二人のデビュー曲という記念碑的な作品ですが、曲もMVもギャングスタラップのイメージそのままにものすごくワルい雰囲気に満ち溢れています。

映画「ディープ・カバー」のサントラに収録されていて、曲調としては「エヌ・ダブリュー・エー」の最末期の曲に通ずるものがあります。

プロデュースは言うまでもなく「ドクター・ドレー」自身です。

3 KRS-One – Sound Of Da Polis(1993)

「ブギ・ダウン・プロダクション」が解散しソロとなったレジェンド「ケーアールエス・ワン」の1stアルバム「return of the boom bap」に収録されているヒップホップクラシックです。

「DJプレミア」プロデュースの1stシングル「アウタヒア」に続く2ndシングルで、プロデュースは「D.I.T.C」の「ショウビズ」です。

いつもテンションの高いKRSワンが、いつにも増して最高潮にテンションの高いキレキレラップは鬼気迫るものがあり物凄い迫力です。

相変わらずラガ調のフロウも健在です。

大迫力な映像が連続の衝撃的なMVは、曲が終わったあとは1つのドキュメンタリーを見終わったかのような感覚になります。

4 Super Cat – Ghetto Red Hot(Hip Hop Remix)(1992)

ジャマイカのダンスホールレゲエのスーパースター「スーパー・キャット」のヒットソングをリミックスしたものです。

レゲエとヒップホップが最初に最も接近したのが1980年代後半から1990年代初頭で、数多くのレゲエアーティストがアメリカを通じて世界的な認知度が高まった時期でした(詳しくは「ラガヒップホップ〈ハードコア編〉5選で取り上げています)。

そんな中「スーパー・キャット」も自らレーベルを立ち上げアメリカデビューし、積極的にヒップホップとのコラボも行っていた時期にリリースされたものの中で最も代表的な一曲です。

「ブランド・ヌビアン」「punks jump up to beat down」で有名な定番ネタの「ルー・ドナルドソン」「it’s your thing」を使ったハードなトラックに筋金入りのラガマフィンが相性抜群でめちゃめちゃかっこいいです。

5 King Tee – Duck(1994)

ウェッサイの雄「キング・ティー」の名盤4thアルバム「Ⅳ life」に収録されている曲で、シングル曲の「dippin’」のB面です。

「キング・ティー」は、西海岸LAのコンプトン出身で、「ドクター・ドレー」や「アイス・キューブ」らとも共に活動したギャングスタラップのパイオニアの一人です。

後に「ジ・アルカホリックス」を世に送り出したほか、NYブルックリンのレジェンド「ザ・ノトーリアス・ビー・アイ・ジー」へ多大な影響を与えたなど、一般的な知名度に比べて物凄い影響力の大きかったラッパーです。

この曲は、コンプトンらしいワルい雰囲気満載で、2↑の「deep cover」をより疾走感溢れる感じにしためちゃめちゃかっこいい隠れ名曲となっています。

プロデュースは盟友の「DJプー」です。

6 Ice Cube – Really Do(1993)

続いても西海岸LAコンプトンを代表するレジェンドの1人、元「N.W.A.」の「アイス・キューブ」です。

こちらも、↑2や5と同様ワルい雰囲気全開のダークでハーコーな曲で、ソロ転向後4thアルバム「The Predator」からの1stシングル。

このドラムは西海岸アーティストに特に重宝され多様されていましたが、この曲もその代表格の一つです。

7 Casual – That’s How It Is(Disseshowdo Mix)(1993)

続いてもまた西海岸LAです。

とは言ってもコンプトン発のギャングスタラップではなく、「ザ・ファーサイド」らと並んで語られることの多いニュースクール系のクルー「ハイエロ・グリフィクス」一派の一人「カジュアル」です。

ニュースクール系は↑1のジャンブラでお伝えしたとおり実は総じてドス黒くブラックネス全開のものが多いのですが、ハイエロ一派は特にその傾向が強く、この曲はその最もたるものの一つです。

最高に黒々しく強烈なアンダーグラウンド感がかっこよすぎてゾクゾクします。

プロデュースはハイエロ一派のブラックネス・アンダーグラウンド部門代表の「デル・ザ・ファンキー・ホモサピエン」です。

ソロとしてのデビュー曲で、1stアルバム「Fear Itself」の先行シングルとしてリリースされた12インチに収録されているリミックスです。

こういう類の曲を聴くと「ヒップホップってやっぱりかっこいいなー!」とあらためて心の中で唸らされます。

8 The Pharcyde – I’m That Type Of Nigga(1992)

続いてもまた西海岸LAです。

↑7でもお伝えし、このブログでも何度も取り上げている「ザ・ファーサイド」の大名盤1stアルバム「Bizarre Ride II The Pharcyde」に収録されている曲で、デビューシングル「ヤ・ママ」のB面に収録されています。

名曲だらけのアルバムの中でも最もテンションの上がるごきげんな曲で、体が自然に動き出します。

9 Fu Schnickens – Sneakin’ Up On Ya(1994)

続いてはNYブルックリンはイーストフラッシュブッシュのネイティブ・タン一派の三人組「フー・シュニッケンズ」です。

超絶早口ラップが持ち味の「チップ・フー」と「ア・トライブ・コールド・クエスト」のファイフの従兄弟「ポック・フー」らを擁するノリノリ&ゴリゴリなグループで、この曲はその典型的な曲の一つです。

名曲揃いの2ndアルバム「Nervous Breakdown」に収録されています。

10 Erick Sermon – Stay Real(1994)

レジェンド「EPMD」が解散して(後に再結成)「エリック・サーモン」のソロとしての1stアルバム「No Pressure」に収録されているシングル曲です。

1990年代前半のエリック・サーモンのプロダクションは、一貫してゴリゴリ&ブリブリなハードコアなファンク路線で、この曲もその典型です。

ファンク志向が強いエリック・サーモンは、ドクター・ドレーとはよくネタかぶりしていますが、この曲でもウェッサイで頻繁に使われるエリック・サーモンの十八番「ザップ&ロジャー」をサンプリングしています。

エリック・サーモンのシャワーシーンから始まるお茶目なMVの冒頭と裏腹に超ハーコーな曲です。

11 Heltah Skeltah – Soldiers Of Pycho(1996)

1990年代半ばに一世を風靡したブルックリンの「ブート・キャンプ・クリック」から、「ブラック・ムーン」「スミフ・ン・ウェッスン」に次ぐ第3の矢「ヘルター・スケルター」の1stアルバム「Nocturnal」に収録されている曲です。

当時ブートキャンプってめちゃめちゃかっこよかったんですよね。

「ファッショナブルでスタイリッシュなアンダーグラウンド」、「曲もジャズやソウルなどをサンプリングしていてオシャレで洗練された感じなんだけどアンダーグラウンド」、みたいなのが日本でも大受けでファンは多く、「クレバ」や「般若」など往年のジャパニーズヒップホッパーにも当時好きだったことを公言している人が多かったです。

そんな中、このアンダーグラウンドの極みのようなダークな曲も、スタジオで一発撮りの謎の映像と相まって「らしい」雰囲気を醸し出しています。

プロデュースはもちろん「ダ・ビートマイナーズ」です。

12 Sister Nancy – Bam Bam Hip Hop Remix(1993)

最後はレゲエクラシックとも言うべきダンスホールの定番中の定番曲「シスター・ナンシー」の「バン・バン」をヒップホップリミックスしたものです。

1980年代初頭、ダンスホールレゲエのカンブリア期とも言うべき時期に、たくさんのレジェンド達が星の数ほどの名曲を生み出していた中で、一際定番として名高い名曲がこの「バン・バン」のオリジナルです。

当時既に定番だった「スタラグ」リディムを更にド定番リディム化した立役者とも言えるこの曲は、上ネタとしても声ネタとしてもヒップホップによくサンプリングされますが、これはこの曲自身がヒップホップバージョンにリミックスされたものです。

つくづくヒップホップのハードなドラムとダンスホールレゲエは相性がいいなと感じます。

今回はハードなドラムの代表格である「スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン」の「シング・ア・シンプル・ソング」を使用した曲を12選しました。

今までになくハードコアでアンダーグラウンドな曲が並びました。

さて次回はもう一発続けてハードなブレイクビーツ「get out of my life,woman」を取り上げようと思います。