DJプレミア⑧〈黒さ全開のブラックネスを感じるベースネタ〉5選

ヒップホップ
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〈連想第104回〉

ヒップホップ史におけるレジェンドプロデューサーの一人、DJプレミアのプロデュース作品について毎回テーマを定めて連続して取り上げています。

「ピアノネタ」「ストリングスネタ」と取り上げてきましたが、今回は「ベースネタ」を取り上げます。

ベースは、ブラックミュージックの根幹をなすもので、ジャズ、ソウル、ファンク、レゲエ(そこから派生するダブ・ハウス・テクノも)、そしてヒップホップも、ベースというものが他の音楽に比べてずば抜けてその重要性・主体性が強いです。

他の音楽ジャンルであくまで引き立て役なのに対して、ベースが主役になることが多いところが共通しています。

ファンクについては「ファンクはベースだ」という言われ方がよくされます。

レゲエについても「レゲエはベースミュージック」という言われ方がよくされ、レゲエの特色である「リディム」(ダンスホールレゲエパート1〈90s前半ディージェー〉ラガヒップホップ〈ハードコア編〉で詳しく触れています)はベースラインが主体・主役で、よく色んなアーティストが「あのリディムのベースは俺が作ったんだ」という自慢話がなされるほどです。

そんなレゲエの歌や上ネタを抜いて極端にベースを強調した「ダブ」そしてそこから派生していった「ハウス」さらにそこから派生していった「テクノ」など、いずれもベース抜きでは語ることのできない音楽ジャンルです。

そして「ヒップホップ」については、2021年現在のメインストリームのヒップホップは「サザンヒップホップ」通称サウスのサウンドが大勢を占めています。

この通称「サウス」とは、「トラップ」「ドリル」「クランク」など様々なサブジャンルとして定着している、リズムマシーン「ローランドTR808」通称ヤオヤによる打込みサウンドによる楽曲全般のことを指しますが、そのルーツは、マイアミで発展した「マイアミベース」通称ベースミュージックと呼ばれるものでした。

チキチキしたハイハットと「ボーン」という重低音ベースが特徴的で、オールドスクールのレジェンドソング「アフリカ・バンバータ」の「planet rock」で使用された、NYで発祥したオールドスクール直系のサウンドが通称「サウス」と呼ばれるものであると言えます。

しかしNYでは80年代後半以降808サウンドは廃れ、ブレイクビーツやソウル・ジャズ・ファンクなどをサンプリングして打ち込むという、洗練された手法によるサウンドが主流となっていき、それがヒップホップのメインストリームとなっていきました。

2000年以降はサウス系が徐々に主流となっていき、2021年現在では完全にサウス系がヒップホップ、ひいては世界の音楽を制覇している形となっていて、かつての主流だったブレイクビーツ系のNYサウンドは「ブーン・バップ」と呼ばれるサブジャンル的な位置づけとなっています。

今回取り上げるDJプレミアによる楽曲はそれらNYの「ブーン・バップ」の代表格、パイオニアの一角的存在ですが、やはりここでもベースの重要性に関してはほかと同様変わるものではなく、DJプレミアに限らずベースが主体の楽曲というものは多数存在しました。 

ブラックミュージックにおけるベースの重要性はジャンルや時代に関わらず普遍的なものであると言ってもいいかもしれません。

そのような背景のある中、DJプレミアプロデュースによる黒さ全開のベースのサンプリングネタによる曲を5選します。

1 Gang Starr Ft. Nice & Smooth – Dwyck(1992)

自身のグループ「ギャング・スター」の初期の代表作の一つ。

当時人気と勢いがあった「ナイス・アンド・スムース」をフューチャーしたシングル曲で、時期的には3rdアルバム「daily operation」と同時期の作品でしたがアルバムには収録されませんでした。

しかしこの曲は、当時のこの時点でギャング・スター最大のヒット曲となり、アルバムへの収録の要望が多数寄せられたことから、4thアルバム「hard to earn」に収録されたという経緯がありました。

こういう類の曲が流行るというのが、今も昔も変わらぬブラックミュージックならではだと思いますが、そこが外野から見たときにとても不思議で魅力的に映ります。

ベースのみのループでありながら、ナイス&スムースのラップと相まって、ノリノリでごきげんな曲となっています。

ちなみにこのMVは、今やヒップホップの中心地となって久しいものの、当時はまだヒップホップ的には片田舎に過ぎなかったアトランタで撮影されたもので、隔世の感を感じます。

元ネタは「クラレンス・ウィーラー・アンド・ジ・エンフォーサーズ」「hay jude」の冒頭です。

ドラムはド定番ブレイクビーツ「メルヴィン・ブリス」「shynthetic substitution」です。

この頃までのプレミアは、他のアーティスト同様定番ドラムを使うことが少なくなく、この曲で使われているドラムも、定番中の定番ブレイクビーツの一つです。

ただしそこはやはりプレミア。ブレイクビーツを丸々使うことは恐らく一度もなく、大抵ミニマムループにしたり、組み替えたりして使っています。

声ネタは、「ナイス・アンド・スムース」の定番ソング「funky for you」の0:31とそのB面「no bones in ice cream」の1:49、そして「ギャング・スター」自身の「step in the areana」の0:13です。

2 KRS One – Outta Here(1993)

KRSワンは、このブログでも何度も登場しているヒップホップ界における最大のレジェンドの一人ですが、元々は80年代半ばから「ブギー・ダウン・プロダクション」というグループで活動していました。

ダウンタウン「ガキの使いやあらへんで」に使用されているなど、誰もがどこかで聴いたことのある「サウスブロンクス」や、クイーンズブリッジのレジェンド「ジュース・クルー」との伝説的なバトルが有名な「ブリッジ・イズ・オーバー」などのほか、ほぼすべての曲がクラシックと言える伝説的なグループでした。

しかし、クラシックアルバム「climinal minded」のリリース直後に、グループメンバー兼師匠的存在だった「スコット・ラ・ロック」が銃弾に倒れ、その後は残された「KRSワン」と「Dナイス」で活動を続けました。

そんな傷心の「KRSワン」が「ブギ・ダウン・プロダクション」と決別し、ソロアーティスト「KRSワン」として活動を始めた第一弾シングルが、この「アウタヒア」でした。

この曲はソロとしてのデビューアルバム「リターン・オブ・ザ・ブーン・バップ」に収録されているほか、「スパイク・リー」監督の映画「クロッカーズ」で使用されていて、そのサウンドトラックにも収録されています。

ちなみにここで登場する「ブーン・バップ」という言葉は、先程触れたとおり現在は80s~90sのNYのブレイクビーツ系のサンプリング重視のヒップホップのことを指しますが、この時点(1993年)で既に「リターン・オブ」と言っている「ブーン・バップ」の大元は、ズバリ「ティー・ラ・ロック」1984年リリースの「it’s yours」で、「キックとスネアを表現した」とティー・ラ・ロック本人が語っているように、ドラム(キックとスネア)に重きをおいたサウンドの元祖とも呼べるものでした。

キックとスネアを表現した、ということは、おそらくボイスパーカッションで言うところの「ブン・パッ」のことを言葉で表現したのではないかと思われますが、なんと、このナズの「world is yours」のフックで使われたことでも有名な「it’s yours」は「808ビート」なのです。

「808ビート」のサウス系サウンド全般と区別するために今や「ブーン・バップ」と呼ばれているNYブレイクビーツサウンドの大元となった曲は「808」サウンドであるという、何とも面白い現象となっています。

兎にも角にも、そのようにヒップホップの歴史を紡いできた「KRSワン」のソロデビュー曲で、プレミアによるド定番ブレイクビーツ「ジェームス・ブラウン」の「funky president」を使ったこの曲こそ、今で言う「ブーン・バップ」の象徴的な曲の中の一つであることは間違いないでしょう。

男気溢れる縦ノリ必至でブラックネス全開のかっこよすぎる一曲です。

声ネタは、ラップにおけるストーリーテーラーの先駆け的存在「スリック・リック」の「the moment i feared」の0:45と、先ほど触れた「ブギ・ダウン・プロダクション」のサウスブロンクスVSクイーンズブリッジの伝説的バトルソング「the bridge is over」の0:40です。

「ティー・ラ・ロック」の「it’s yours」もリンクします。

3 D’angelo – Devil’s Pie(2000)

ディアンジェロは90年代中後半を中心に、ヒップホップ系R&Bシンガーとして活躍した、当時は「ネオ・クラシックソウル」などと呼ばれた、70年代のソウルシンガー直径のアーティストでした。

ヒットしたシングル曲「lady」もリミックスをプレミアが手掛けるなど、デビュー間もない頃からプレミアと交流がありました。

実はこのトラックは、当初プレミアがラッパー「キャニバス」のために作ったものでしたが、何とキャニバスから「俺のフィーリングを全然わかってねー」とダメ出しされお蔵入りになりました。

キャニバスから「ベースが全面的に出た曲が欲しい」と言われて作ったものでしたが、「わかってねー」と一蹴され、さすがのプレミアも「カチンときた」と言っています。

そんな時、ディアンジェロから「このトラック最高だ。良ければ使わせてくれないか?」と依頼があり、「OK」と言って実現したのがこの曲でした。

ディアンジェロは元々ヒップホップ志向が強いアーティストでしたので、このブラックネス溢れる黒黒しいビートにバッチリハマり、メチャメチャかっこいい曲となりました。

元ネタは、モブ・ディープも名曲「cradle to the grave」で使った、「テディ・ペンダーグラス」「and if i had」の冒頭と、「ミシェル・コロンビエ・アンド・ピエール・アンリ」「jericho jerk」の冒頭です。

4 Jeru The Damaja – Ya Playin’ Yaself(1996)

プレミアシリーズで何度も登場している、ギャングスターファウンデーションの一員でもある盟友「ジェルー・ザ・ダマジャ」の名盤2ndアルバム「wrath of the math」に収録されているシングル曲です。

この頃のプレミアはチョップスタイルやドラムなど自身のスタイルが固まった時期で、このアルバムはまさにその金字塔的存在とも言えます。

「ジュニア・マフィア」が「ザ・ノトーリアス・ビー・アイ・ジー」通称ビギーをフューチャーした「players anthem」で使った元ネタ「ザ・ニュー・バース」「you are what i’m all about」の同じ箇所を使っていますが、そこはプレミア、ベースをチョップ&フリップして躍動感のあるトラックとなりました。

盟友アフ・ラとの香港でのカンフーMVも楽しい、ジェルーの代表曲です。

「ウッ!ウッ!ウッ!」という声のSEは、ヒップホップでよく使われる「ルーファス・トーマス」「do the funky penguin」の冒頭です。

フックでポコポコいっている音は、映画「禁断の惑星」のサウンドトラックから「ルイス・アンド・べべ・バロン」「main title overture」の0:44です。

5 Gang Starr – Mostly The Voice(1994)

最後は「ギャング・スター」の名盤4thアルバム「hard to earn」に収録されているド渋な一曲「モストリー・ザ・ボイス」です。

このアルバムまでのプレミアは「渋い」という印象が強かったですが、その中でもこの曲は特に渋いです。

ジャズのウッドベースが黒黒しく強烈なブラックネスを感じてめちゃめちゃかっこいいです。

この曲は、超絶技巧DJ集団「ビートジャンキーズ」の一員で、「ダイレイテッド・ピープル」のメンバーでもある「DJバブー」が、自身のジャグリング(バトルDJが2枚使いでビートを崩して自ら組み立てる技)の十八番として、この曲を使うことでもバトルDJ界隈では有名です。

声ネタは、「ジェームス・ブラウン」「give it up or turnit a loose」の0:10です。

今回はDJプレミアプロデュースの黒さ全開のベースネタを取り上げました。

こういう類の曲を聴くと、「ブラックミュージックって本当にかっこいいな」とそのセンスに脱帽する思いになります。

さて次回は、黒黒しいブラックネスから一転して今度は胸にグッとくる哀愁漂う曲を5選します。