定番ブレイクビーツ⑧〈Why Can’t People Be Colors Too?〉15選

ヒップホップ
ヒップホップブレイクビーツ

〈連想第122回〉

定番ブレイクビーツを連続して取り上げています。

今回は90年代半ばに大流行したブレイクビーツ「ザ・ワットノーツ」の「Why Can’t People Be Colors Too?」を取り上げます。

ワットノーツはボルチモア出身のスィートソウルグループで、大御所「ジョージ・カー」が全面プロデュースしています。

この曲「Why Can’t People Be Colors Too?」は、3枚リリースしたオリジナルアルバムのうち最後のアルバム「the whatnauts on the rock」に収録されています。

同じボルチモアのスイートソウルグループ「ザ・モーメンツ」と並んで評されることの多いワットノーツですが、一説にはあの「ジョージ・カー」が最もお気に入のグループだったとも言われています。

そんなワットノーツの定番ブレイクビーツとなったこの曲「Why Can’t People Be Colors Too?」は、90年代半ばの、ネタ感が強くヒップホップ史上最もアンダーグラウンドだった時期によく使われたドラムでした。

「ピート・ロック」「ダ・ビートマイナーズ」「ディギン・イン・ザ・クレイツ」「ラージ・プロフェッサー」「ノー・アイディー」など、時代を代表するジャジーでソウルフルなサウンドを持ち味とするプロデューサー達が多用したことで、この時代のヒップホップを聴くといつの間にか耳にしていると言っても良いくらい頻繁に耳にしているドラムです。

ジャジー、フワフワ、キラキラ、そんな上ネタと相性が良いアンダーグラウンドサウンドを象徴するブレイクビーツ「Why Can’t People Be Colors Too?」を使用した曲を15選します。

ドラム使用箇所は2:48以降の箇所です。

1 A Tribe Called Quest – Oh My God(1993)

ネイティブ・タン≒ニュースクールの筆頭格「ア・トライブ・コールド・クエスト」の大名盤3rdアルバム「midnight marauders」に収録されているシングル曲です。

同じくニュースクールのグループ「リーダーズ・オブ・ザ・ニュースクール」の「バスタ・ライムス」の声ネタがとても印象に残るフックで、MVには本人も出演しています。

「リー・モーガン」をサンプリングしたキャッチーかつおしゃれなヒットソングで、トライブの真骨頂的な曲の一つです。

耳馴染みするこのブレイクビーツが大ブレイクするきっかけとなった先駆け的な曲と言えるのではないでしょうか。

2 Apache Ft.Cut Monitor Milo,Collie Weed – Hey Girl(1993)

ヒップホップクラシック「gangsta bitch」が有名な「アパッチ」の唯一のアルバムに収録されている曲で、両A面のシングル曲です。

「アパッチ」は「マーク・ザ・フォーティファイブ・キング」のユニット「フレイバー・ユニット」の一員で、メンバーである「ノーティ・バイ・ネイチャー」や「クイーン・ラティファ」らと同様「トミー・ボーイ」レーベルからリリースしています。

プロデューサーはソウル系ヒップホップの祖の一人「ラージ・プロフェッサー」です。

「カット・モニター・ミロ」と「クーリー・ウィード」をフューチャーしたレゲエ感全開の夏らしい曲とMVで体が熱くなります。

3 Smif-N-Wessun – Bucktown(1994)

↑2と同じくラガ系の「スミフ・ン・ウェッスン」です。

このブレイクビーツを好んだ代表格として、「ダ・ビートマイナーズ」が挙げられます。

この曲は日本でもとても人気の高かったブルックリンの「ブート・キャンプ・クリック」から、「ブラック・ムーン」に継ぐ第二の矢とも言われた「スミフ・ン・ウェッスン」のデビュー曲にして、大名盤1stアルバム「dah shinin’」に収録されているヒップホップクラシックです。

「ブラック・ムーン」のメンバーにして、「ブート・キャンプ・クリック」お抱えのトラックメイカーである「ダ・ビートマイナーズ」のメンバーでもある「イヴィル・ディー」のプロデュースです。

レゲエ色の強いブートキャンプですが、この曲でもラガっぽいフロウが随所に出てきています。

ネタ感が強くロービートでアンダーグラウンドな90年代半ばのトレンドど真ん中な名曲です。

4 Smif-N-Wessun – Hellcination(1995)

「スミフ・ン・ウェッスン」をもう一曲。

↑3と同じアルバム「ダ・シャイニン」に収録されている曲で、プロデュースも同じく「イヴィル・ディー」です。

「ミニー・リパートン(ロータリー・コネクション)」の声ネタを使った疾走感あふれるトラックに乗せて、ラガ調の「テク」と硬質的な「スティール」のエキサイティングな掛け合いがめちゃめちゃかっこいい名曲です。

ちなみにこのアルバムのジャケは「ロイ・エアーズ・ユビキティ」のアルバム「he’s coming」が元になっていることでも有名です。

5 Heltah Skeltah – Undastand(1996)

続いてもブートキャンプから、第三の矢「ヘルター・スケルター」の1stアルバム「nocturnal」に収録されている曲で、プロデュースは「ダ・ビートマイナーズ」の「ベイビー・ポール」です。

1996年といえば、メインストリームのヒップホップが最もアンダーグラウンドだった時期で(その後メインストリームは急速にポップ路線へと転換していき、アンダーグラウンドと二極化していきます)、その象徴的なサウンドと言えます。

ブートキャンプからは他にも、「ヘルター・スケルター」と「OGC(オリジヌー・ガン・クラッパーズ)」の混合ユニット「ファブ・ファイブ」による「レフラー・レフラー・エシュコシカ」という曲も、同じフワフワ路線でドラムも同じです。

6 Organized Konfusion – Inverto(1997)

1stアルバム、2ndアルバムともに名盤だったクイーンズのユニット「オーガナイズド・コンフュージョン」の名盤3rdアルバム「equinox」に収録されている曲です。

プロデュースは「D.I.T.C.(ディギン・イン・ザ・クレイツ)」の「バックワイルド」。

バックワイルドらしいネタ感が強く深みのあるサウンドで、95~97年頃を象徴するようなアンダーグラウンドチューンです。

7 Royal Flush – Rotten W(1996)

続いてもクイーンズから、同じクイーンズの「マイク・ジェロニモ」の盟友としても知られる「ロイヤル・フラッシュ」のデビュー曲ですが、アルバムには未収録です。

「デイブ・グルーシン」のジャジーでフワフワした渋いネタに、このドラムがガッチリハマっています。

同じくクイーンズの「ナズ」のクラシックソング「world is yours」の声ネタも印象的です。

8 Diamond D Ft. John Dough – Flowin’(1997)

「D.I.T.C.(ディギン・イン・ザ・クレイツ)」最年長のベテランラッパー兼プロデューサーである「ダイアモンド・ディー」の2ndアルバム「hatred,passions and infidelity」に収録されている曲です。

アルバムのイントロに次ぐ2曲目の曲で、メロウ&スムージーなトラック上で、たくさんのアーティスト(盟友)たちへ賛辞(lock on =ラコーン)を送っています。

プロデュースはダイアモンド・ディー自身です。

9 Das EFX – Microphone Master(The Dome Cracker Remix)(1996)

「EPMD」に見いだされるも、その後「EPMD」が解散し、片割れである「PMD」がリーダーとなった「ヒット・スクワッド」に所属した「ダス・エフェックス」です。

名盤3rdアルバム「hold it down」からのシングルカットされた曲で、様々なリミックスバージョンが存在します。

このバージョンは「ドーム・クラッカー・リミックス」=「DJスピナ・リミックス」で、ヒップホップとハウスの二刀流DJ兼プロデューサーのスピナらしいキラキラ、フワフワしたスペイシーなトラックとなっています。

ちなみにこの他のバージョンとしては、「モブ・ディープ」をフューチャーした面白いリミックスもあります。

10 Funkdoobiest – Rock On(1994)

L.A.のラティーノ系の一派である「サイプレス・ヒル」の「DJマグス」率いる「ソウル・アサシンズ」のメンバーで構成された「ファンクドゥービースト」です。

2ndアルバム「brothas doobie」からの先行シングル曲ですが、アルバムバージョンとシングルバージョンでトラックが異なり、このドラムが使われているのはアルバムバージョンです。

プロデュースは「DJマグス」です。

ゆったりまったりした上ネタを、ドラムが引っ張る印象です。

11 I.N.I & Pete Rock – Think Twice(2003)

1995年に完成していた「ピート・ロック」肝煎りのグループ「アイ・エヌ・アイ」のデビューアルバムでしたが、レーベルとのゴタゴタにより2003年にやっとリリースされたという曰く付きの名盤「center of attention」に収録されている曲です。

プロデュースはもちろんピート・ロックで、ラップでも参加しています。

ピート・ロックは、このドラムを頻繁に使用したプロデューサー第1位と言っても過言ではないほど何度もこのドラムを使用していて、自身のデュオ「ピートロック・アンド・シーエル・スムース」でも使用しています。

12 Deda – Press Rewind(1995)

続いてもピート・ロックです。

↑11と全く同様の理由によりお蔵入りとなり、その後ようやく2003年にリリースされたピート・ロック肝煎りの「ディーダ」のアルバム「The Original Baby Pa」に収録されている曲です。

レコーディングされたのは1995年〜1996年で、この時期にリリースされていたら確実にヒップホップクラシックとなっていたであろう名曲揃いの名盤です。

「アイ・エヌ・アイ」と並んで、後年のローファイ・ヒップホップの先駆けとも言える洗練されたジャジーなトラックが最高です。

ちなみに、リリースされた2003年はジャジーヒップホップの全盛期でした。

このアルバムではもう一曲、「アーマッド・ジャマル〈TheAwakening〉をサンプリングしたヒップホップ〈前編〉」で取り上げた「can’t wait」も同じドラムを使っています。

13 Common – Resurrection 95(1995)

グラミー賞3度受賞しているシカゴのインテリラッパー「コモン」がまだ「コモン・センス」と名乗っていた1994年にリリースされた2ndアルバム「ressurrection」に収録されているタイトル曲です。

アルバムからシングルカットされたこの曲は、アルバムバージョンンとドラムが違っていて、シングルバージョンでのみ「Why Can’t People Be Colors Too?」を使っています。

アルバムバージョンは、↑13と同様、以前アーマッド・ジャマル〈The Awakening〉をサンプリングしたヒップホップ〈前編〉で取り上げました。

プロデュースはどちらも、シカゴ出身の「カニエ・ウェスト」が同郷の師と仰ぐ「ノー・アイディー」です。

凄腕スクラッチは、バトルDJ集団「エクセキューショナーズ」の前身である「エックスメン」のメンバーだった「ミスタ・シニスタ」です。

14 The High & The Mighty – It’s All For You(1997)

「ロウカス」レーベルでオーバーグラウンドヒットしたイメージの強い「ザ・ハイ・アンド・ザ・マイティ」ですが、この曲はデビューシングルながら超アンダーグラウンドな曲となっています。

90年代半ばのトレンドだったスペーシーなネタがめちゃめちゃかっこよく耳に残ります。

15 Puppets Of Chaos – New & Improved(1995)

超高クオリティなアンダーグラウンドクラシック。

正規リリースはこの1枚のみながらAB両面最高にかっこよく、レア版として高値で取引されています。

元ネタも不明ながら、アーマッド・ジャマルっぽい静かで洗練されたピアノループにこのドラムがバッチリハマっています。

全くの無名ながらここまでカッコいい曲をリリースしていることがとても惜しいと思うのと同時に、ヒップホップという文化の底の深さを感じざるを得ません。

今回は1990年代半ばに多用されたブレイクビーツ「ザ・ワットノーツ」の「Why Can’t People Be Colors Too?」を取り上げました。

フワフワ、キラキラ系のロービートと相性抜群で、90年代半ばのネタ感の強いアンダーグラウンドヒップホップを象徴するようなドラムでした。

さて次回は、90年代半ばのネタ感が強いアンダーグラウンドヒップホップに重用されたブレイクビーツとして「Why Can’t People Be Colors Too?」と双璧をなす定番「The Sorcerer Of Isis」を取り上げます。