定番ブレイクビーツ➈〈The Sorcerer Of Isis〉15選

ヒップホップ
ヒップホップブレイクビーツ

〈連想第123回〉

定番ブレイクビーツを連続して取り上げています。

今回は、前回取り上げた「why can’t people be colors too?」と並んで90年代半ばのネタ感の強いアンダーグラウンドヒップホップに多用されたドラム、「パワー・オブ・ゼウス」の「The Sorcerer Of Isis」を取り上げます。

「パワー・オブ・ゼウス」は、デトロイトのサイケロックバンドで、1970年に唯一のアルバムである「the gospel according to zeus」をリリースしました。

「The Sorcerer Of Isis」はこのアルバムに収録されている曲ですが、バンドとしてはヒット曲に恵まれず、代表曲なども特にないまま活動を終えてしまったため、ヒップホップでサンプリングされたことで著名となったこの曲が実質代表曲と言えます。

乾いた音の印象の「why 〜」に比べて、ドンシャリ系の力強い印象のドラムですが、「why 〜」と同様ネタ感の強いジャジー系やソウル系との相性がよく、好んで使ったプロデューサーも、「ピート・ロック」や「ダ・ビートマイナーズ」など被っています。

そんな90年代半ばを中心に大流行し、その後も息長く使用され続けた定番ドラム「The Sorcerer Of Isis」を使用した曲を15選します。

1 Pete Rock & C.L.Smooth – In The House(1994)

これまで何度も取り上げてきた「ピート・ロック&シーエル・スムース」の大名盤2ndアルバム「the main ingredient」の一曲目です。

この名アルバムのついては以前、「ピート・ロック & CLスムース〈2ndアルバム〉6選」で取り上げましたが、とにかく一貫してソウルフルな印象のアルバムで、ソウル系ヒップホップのパイオニアでピート・ロックの師匠でもある「ラージ・プロフェッサー」直系のソウルフルさに更に磨きをかけ洗練させたソウル系ヒップホップの金字塔とも言えるヒップホップクラシックアルバムです。

そんなアルバムの一曲目を飾るこの曲は、「デオダート」使いのイントロで胸が高鳴り、「キャノンボール・アダレイ」を45回転してサンプリングしたことで有名なこの曲へ続くことで、すぐにこのアルバムが大名盤であることを予感させます。

そんなこの曲、イントロから切り替わる際、今日のテーマである「ソーサラー〜」の打ち込みドラムから本編が始まります。

メロウでありながら黒々しくかっこいい、ピート・ロックの真骨頂かつヒップホップ史に残る名曲です。

2 Sadat X Ft. Deda – Escape From New York(1996)

↑1のアルバムは、ほぼ全曲のイントロやアウトロにソウルやジャズをサンプリングしたスキットを挿入していて、それがこのアルバムのソウルフルな印象をより強いものにしていますが、その中で、名曲「in the fresh」という曲のイントロのスキットに使われている曲をそのまま使ったのがこの曲「escape from new york」です。

個性派揃いのニュースクール系グループ「ブランド・ヌビアン」のメンバーの一人「サダト・エックス」のソロ初アルバムに収録されていて、ピート・ロック一押しのラッパー「ディーダ」をフューチャーしています。

3 Smif-N-Wessun – Timz And Hood Chek(1995)

このシリーズで何度も登場しているブルックリンの「ブートキャンプクリック」からの第二の矢、「テク」と「スティール」からなるデュオ「スミフ・ン・ウェッスン」の大名盤1stアルバム「dah shinin’」の一曲目に収録されている曲です。

名盤であることを予感させるめちゃめちゃかっこいい曲で、レゲエっぽくトラックが抜き差しされているところなど、すごくセンスが良くてスタイリッシュです。

プロデュースはめちゃめちゃかっこいいスクラッチも披露している「ダ・ビートマイナーズ」の「イヴィル・ディー」です。

4 Smif-N-Wessun – Shining…Next Shit(1995)

続いても「スミフ・ン・ウェッスン」の1stアルバムに収録されているスピリチュアルな雰囲気の「ネクスト・シット」です。

元ネタの「ローランド・ハンナ・トリオ」「so you’ll know my name」のスピリチュアルさがそのまま活かされた、アルバム中屈指の名曲です。

個人的にこのアルバム中最もたくさん聴いた曲で、特別な思い入れがあります。

テクとスティールの二人の掛け合いもかっこよく、厳かでストイックな気持ちになる曲です。

プロデュースは「ダ・ビートマイナーズ」の「イヴィル・ディー」と「ミスター・ウォルト」兄弟の共作です。

5 Common – Resurrection(1994)

前回も取り上げたシカゴの「コモン」がまだ「コモン・センス」と名乗っていた頃にリリースされた名盤2ndアルバム「ressuerection」に収録されている同名タイトル曲です。

前回はドラムに「Why Can’t People Be Colors Too?」を使用したシングルバージョンを取り上げましたが、今回は「The Sorcerer Of Isis」を使用した、より疾走感のあるアルバムバージョンを取り上げます。

最後フェードアウトしていって曲が終わったかな?と思ったらまたフェードインしてくるという面白い展開で曲が終わります。

プロデュースは、同じシカゴ出身の「カニエ・ウェスト」が師と仰ぐ「ノー・アイディー」です。

6 Crooklyn Dodgers(Special ED,Backshot,Masta Ace)- Crooklyn(1994)

ブルックリンを舞台にした映画「クルックリン」のエンディングテーマです。

「スパイク・リー」監督のこの映画のために結成されたブルックリンにゆかりのあるメンバーで結成されたグループで、メンバーは「スペシャル・エド」「バックショット」「マスタ・エイス」の豪華三人です。

グループとしてのリリース曲はこれ一曲ですが、その豪華メンツと、プロデュースが全盛期の「ア・トライブ・コールド・クエスト」であることも相まって、超高クオリティな名曲となっています。

7 Mobb Deep Ft. Crystal Johnson – Temperatuer’s Rising(1995)

ヒップホップクラシックとして名高いクイーンズのレジェンド「ハヴォック」と「プロディジー」からなるデュオ「モブ・ディープ」の2ndアルバム「the infamous」に収録されている曲で、シングルカットもされています。

「パトリース・ラッシェン」「where there is love」のネタ使いが感動的な、メロウかつストイックな曲で、このアルバムの青々しいモブ・ディープのイメージまさにそのものです。

ドラムは小刻みにチョップして打ち込み直しています。

プロデュースは「ハヴォック」です。

8 Black Sheep – Without A Doubt(1994)

ネイティブ・タン一派で、ニュースクール系の代表的なグループの一角、クイーンズ出身の「ブラック・シープ」の名盤2ndアルバム「non-fiction」に収録されているされているシングル曲です。

「ジ・アイズレー・ブラザーズ」の「the highway of my life」をサンプリングしたトラックに、サビの女性のコール&レスポンスがバッチリハマって最高に胸が高鳴るスムージーな大名曲。

プロデュースは、90年代半ばにスムース系の名曲を量産した「サラーム・レミ」です。

9 The Beatnuts – Hit Me With That(1994)

「ジャングル・ブラザーズ」からグループ名を命名されたエピソードが有名なネイティブ・タン一派「ザ・ビートナッツ」の、デビューEPに次ぐ大名盤1stアルバム「the beatnuts : street level」に収録されているシングル曲です。

初期の代表曲「props over here」や「no equal」などに象徴されるネタ使いの巧さが持ち味のビートナッツのセンスが光る一曲。

「デヴィッド・アクセルロッド」と「モンティ・アレクサンダー」のダブルネタ使いによるまったりトラックに、「ソーサラー〜」のドラムがバッチリハマっています。

10 O.C. – O-Zone(1994)

ラッパー、プロデューサー集団「D.I.T.C(ディギン・イン・ザ・クレイツ)」の技巧派ラッパー「オー・シー」の名盤1stアルバム「word…life」に収録されている曲です。

当時は、同年リリースされた「ナス」のレジェンドアルバム「illmatic」と比較し「裏名盤」などとも呼ばれた傑作アルバムで、ド渋でジャジーな名曲が並んでいます。

フワフワしたジャジーなトラックと技巧派オーシーのラップに「ソーサラー〜」ドラムという正統派で王道な曲でありながら、当時黎明期だったジャジーヒップホップにも通ずる高クオリティな名曲です。

プロデュースは「D.I.T.C.」のメンバー「バックワイルド」です。

11 KRS-One Ft. Basta Rhyms – Build Ya Skillz(1995)

ヒップホップレジェンド「ケー・アール・エス・ワン」のソロ名義としての2ndアルバム「KRS-One」に収録されている曲です。

プロデュースは、ラッパー、プロデューサー集団の「D.I.T.C.(ディギン・イン・)」のベテラン「ダイアモンド・ディー」です。

この頃ノリに乗っていた元「リーダーズ・オブ・ニュースクール」の「バスタ・ライムス」をちょっとだけフューチャーしています。

ド渋なトラックにハイテンションなケーアールエス・ワンのラップが映える、男気溢れる熱い一曲です。

12 Rebelz Of The Authority – Blast Of The Iron(1995)

↑6に次いで公開された「スパイク・リー」監督の映画「クロッカーズ」のサントラに収録されている曲です。

このサントラには、「チャカ・カーン」や「デズリー」などの著名アーティストも参加していますが、大半はマイナーアーティストで、この「レベルズ・オブ・ジ・オーソリティ」もヒップホップ界においてはほぼ無名と言ってもよいアーティストです。

にも関わらず!この曲はめちゃめちゃかっこいいです。

「ソーサラー〜」使いにしてはBPMが速めで、疾走感あふれるトラックに勢いのあるラップでとても高クオリティです。

音楽はどんなジャンルでも無数の無名の才能あるアーティストの下支えの上に有名アーティストが存在する、ということを感じざるを得ない一曲です。

プロデュースは1994〜1995に名曲を量産した「サラーム・レミ」です。

13 The Herbaliser – Shocker Zulu(1997)

90年代中半から後半にかけて興隆した「アブストラクト・ヒップホップ」の一角を担ったUKのグループ「ハーバライザー」の2ndアルバム「blow your headphone」に収録されている超ドープでヘビーな一曲。

この頃、「アブストラクト四天王」などと呼ばれた「DJシャドウ」「DJケイム」「DJバディム」そして我ら日本が誇る「DJクラッシュ」。

彼らとともにアブストラクトシーンを作り上げたレーベル「ニンジャチューン」からこのアルバムはリリースされています。

14 Nujabes – Rainy Way Back Home(2011)

日本が誇るジャジーヒップホップ、チルホップなどローファイ系のヒップホップシーンのパイオニアの一人「ヌジャベス」が、交通事故による急逝後、未完のままリリースされたサードアルバムに収録されている曲です。

全作品一貫して変わらぬスタイルで、ローファイ系の中でも唯一無二の独自の世界観を表現し続けたヌジャベスの、らしさ全開の一曲。

物悲しく響く綺麗なピアノのループを、「The Sorcerer Of Isis」がしっかりと下支えしています。

15 Uyama Hiroto – Walk In The Sunset(2008)

最後は、「ヌジャベスの右腕」とも言われ、ヌジャベスの生前から死後に至るまで緊密な関係であり続けた「ウヤマ ヒロト」氏がソロとしてリリースした1stアルバムに収録されている曲です。

海や夕陽をイメージさせるサウンドが特徴のウヤマ氏らしさが満開の「ウォーク・イン・ザ・サンセット」。

スピリチュアルな雰囲気漂う最高に心地よい一曲です。

今回は90年代半ばのネタ感が強いアンダーグラウンドヒップホップに重用されたブレイクビーツ「The Sorcerer Of Isis」を使用した曲を取り上げました。

さて次回は、一旦ブレイクビーツシリーズの最終回として、忘れてはならない定番中の定番「マウンテン」の「long red」を取り上げます。