DJプレミア⑮〈ギャングスター5thアルバム〉5選

ヒップホップ
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〈連想第111回〉

DJプレミアの手掛けた作品を連続で取り上げていますが、今回はプレミア自身のグループ「ギャングスター」の1998年にリリースされた5thアルバム「moment of truth」を取り上げます。

この5thアルバムも名曲揃いの名盤で、これまでも「itz a set up 」(DJプレミア②〈男気溢れるハードコア〉)、「robbin hood theory」(DJプレミア③〈静かで訥々としたアンダーグラウンド〉)、「what i’m here 4」(DJプレミア⑤〈メロディアスでグッとくるピアノネタ〉)、「moment of truth」(DJプレミア⑨〈哀愁漂いグッとくるメロディアスでメランコリックな曲〉)、「above the clouds」(DJプレミア⑩〈ドープでディープな鳴りの良い曲〉)と、既に5曲取り上げてきました。

1994年の前作4thアルバムから1998年の5thアルバムまでの間、プレミアの名声は跳ね上がり、ギャングスターとしての活動よりも様々なアーティストのプロデュース業が多くなっていました。

その間にプレミアは、4thアルバムで完成を見た「ミニマムループ」を更に推し進めた、サンプリングネタを細かく刻んで組み立て直す「チョップ&フリップ」スタイルを確立していました。

この5thアルバムは、既に確立されたチョップ&フリップによる独特の間やツンのめり感、腹の底に響くバスドラ、ハメスクラッチなどDJプレミアのアーティストとしてのスタイルが完全に確立された時期にリリースされたアルバムで、実質プレミアのスタイルはこの頃から今に至るまほとんど変わっていません。

様々なアーティストに膨大な量のトラックを提供してきましたが、どれもそのアーティストの個性に合った、それを更により引き出すものでした。

この5thアルバムは、そんな様々なアーティストに対しては中々提供できないような個性的な曲や、スロウでメロウな楽曲が多く、前作までのストイックでいぶし銀な印象と比べると、だいぶ垢抜けてバリエーション豊かな内容となっています。

そんなプレミアの現在に至るまでのスタイルが完全に確立された名盤5thアルバムから、既に取り上げた5曲を除いた曲から5選します。

1 You Know My Steez

名実ともに間違いなくこのアルバムを代表する先行12インチリリースされた曲。

この曲は、次年にリリースされる「full clip」と並んでギャングスターの「チョップ&フリップ」の代名詞的な存在で、細かく切り刻んんだ元ネタを組み立て直して、原曲の雰囲気やかっこよさを損なうことなく、むしろ際立たせるその手法の代表作と言える「ザ・チョップ&フリップ」な曲と言えるでしょう。

アルバムの先行シングルという触れ込みでこの曲を聴いた時、そのかっこよさに、アルバムに対する期待が膨らみワクワクした記憶が蘇ります。

元ネタは「ジョー・サイモン」「drowning in the sea of love」の冒頭、印象的なドラムは「グランドマスター・フラッシュ・アンド・ザ・フューリアス・ファイブ」「flash to the beat live version」の1:14です。

声ネタは、耳に残る「you know my steez〜♪」のフレーズが「ウータン・クラン」の「ジザft.メソッドマン」「shadowboxin」のメソッドマンのパート1:07のほか、「ビッグ・ノイド」「usual suspects」の2:06、「ショクレア」「just a second」の4:06、「パブリック・エネミー」「b side wins again (original version)」の3:33などです。

2 The Militia Ft.Big Shug,Freddie Foxx

ミニマムループの極地とも言えるシンプルなループで、ギャングスター随一の男らしさ全開なシングル曲です。

この「ミリシャ」は、この後パート4まで続くシリーズ曲となりますが、どれも男らしさが際立つギャングスターの代表作の1つです。

個人的にこの曲は「上がる曲」としてプレミアの曲のベスト5に入るくらい思い入れがあり、2枚使い必至で何百回聴いたかわからないほどです。

いぶし銀ラップがかっこいいファーストバースはギャングスターファウンデーションの盟友「ビッグ・シュグ」、超キレキレの3バース目はこちらも盟友「フレディ・フォックスa.k.a.バンピー・ナックル」の男剥き出しラップでテンションが最高潮に上がります。

元ネタも「え?ここ?」というタイプのものではなく、「バーバラ・ルイス」「windmills of your mind」の冒頭の一瞬を直球で切り取ったシンプルなもので、このシンプルさにもまた男気を感じます。

しかし、シンプルなミニマルループに聴こえて、実は若干チョップしているところにただならぬ職人技を感じます。

そしてこちらもプレミアの十八番スタイル、8小節に一度入ってくるインパクトのある音は、「ロバート・コバート」映画ダークシャドウのサントラから「dark shadow theme」の0:08です。

ドラムは、「ガーネット・ミムス」「stop and check yourself」の冒頭です。

声ネタは、冒頭の語り部分がハリウッドのレジェンド監督兼俳優「オーソン・ウェルズ」の古典小説「宇宙戦争」を自身のラジオ番組での朗読から、22:45、23:33、23:42と、プレミアの「ポ・ポ・ポ・ポ・ポ・ポメー・ポメー…」でお馴染みのミックステープに収録されていることで耳にしたことがあるかもしれない「グレッグ・テイト」「what is hip hop?」の3:52のほか、「バスタ・ライムス」率いる「フリップモード・スクワット」から「ランページft.バスタ・ライムス」「wild for da night」0:57です。

3 The Rep Growz Bigga

長いインタールードを経て、ブルージーなピアノとツンのめる間がプレミアらしさ全開な、安定感をも感じさせる、プレミアスタイルの十八番的な一曲。

8小節に1回異なるネタを挟んでアクセントを付けるのもまた毎度お馴染みです。

高クォリティながらもシングルリリースもされずあまり目立たない存在となっている曲の典型のような良作です。

インタールードの元ネタは定番ドラムの「ジェフ・ベック」「come dancing」の冒頭、本編への繋ぎのSEは「forbidden planet」という映画のサントラから、電子音楽のパイオニア「ルイス・アンド・べべ・バロン」「krell shuttle and power station」の2:27です。残念ながら本編のネタはわかりません。

声ネタは、「ケヴ・イー・ケヴ・アンド・エーケー・ビー」「liston to the man」の2:09、「ザ・ビートナッツft.ビッグ・パン、キューバン・リンクス」「off the books」の2:18、「ウータン・クラン」の特大クラシック「c.r.e.a.m.」の「レイクウォン」のパート1:01、「ピート・ロック」全面プロデュースの「アイエヌアイft.ピート・ロック」「fakin jax」の0:49、DJプレミア⑫〈ギャングスター1st・2ndアルバム〉で取り上げた「ギャング・スター」「just to get a rep」の2:49、そして最後は、DJプレミア⑧〈黒さ全開のブラックネスを感じるベースネタ〉で取り上げた「ギャング・スターft.ナイス・アンド・スムース」「dwyck」の2:00です。

4 Betrayal Ft. Scarface

このアルバムで新境地を展開したスロウでメロウなトラックのうちの一つで、ネタをじっくり聴かせるタイプの曲です。

元ネタ「ウォー」「deliver the world」の冒頭を細切れにして組み立て直し、超スロウでアーバンなミニマムループではない楽曲的なトラックになっています。

また、これまでは客演もギャングスターファウンデーションなど身内系のアーティストがほとんどでしたが、この曲では元「ゲットー・ボーイズ」でサウスのゴッドファーザー「スカーフェイス」をフューチャーしているのも新境地と言えます。

このタイプの曲はこのアルバムの特色の一つで、次回以降は聴かれなくなりますが、この系譜を継ぐものとしては、「ナズ」との「2nd childhood」などが挙げられるでしょう。

ドラムは「ジャイアント」「queen of downs」の1:37です。

珍しく声ネタはありません。

5 In Memory Of…

アルバムのラストを飾るアウトロ的な曲。

「ザ・ノトーリアス・ビー・アイ・ジー」通称ビギー・スモールの声ネタを使い、亡くなった色々なアーティストへ「R.I.P」しています。「トゥパック」「ビギー・スモール」「ビッグ・エル」などの名前が聴こえます。

自作「decade of gang starr」ではイントロで使用されています。

元ネタは、「ザ・ポール・ホーン・クインテッド」「heres that rainy day」の冒頭20秒です。

こんなに流麗な流れるようなトラックですが、聴いていただければわかるとおりこれも「チョップ&フリップ」しています。流石です…

ビギーの声ネタは「you’re nobady(til somebady kills you)」の0:56です。

今回はギャングスターの名盤5thアルバムから以前既に取り上げた曲以外の曲から5選しました。

ヒップホップシーンの変化は目まぐるしく、1997~1998を境に、1994年から続いたBPMの遅いドープなアンダーグラウンド路線から、アゲアゲなパーティーチューン路線にシーンのメインストリームは変化していきます。

プレミアは最早シーンの最先端を走る存在ではなくなっていきますが、その最後の節目的な位置づけとして、1999年にベストアルバム「Full Clip:A Decade Of Gang Starr」がリリースされます。

これは、ベストアルバムとしてギャングスターの歩みを総括するだけでなく、これまでのアルバムに未収録の曲や新曲も多数含まれているものでした。

次回は、そんなベストアルバムから5選します。