DJプレミア⑫〈ギャングスター1st・2ndアルバム〉6選

ヒップホップ
引用元:"Gangstarr-09.jpg" by Mika Väisänen"
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〈連想第108回〉

これまで連続して取り上げているDJプレミアの作品について、今回からは自身のグループ「ギャング・スター」の作品を取り上げていこうと思います。

1stアルバム「no more mr. nice guy」と2ndアルバム「step in the arena」から、これまでにすでに取り上げた「DJ Premier in deep concentration」(第107回:DJプレミア⑪スタイルを確立させた代表曲・定番曲)を除く曲を5選します。

時は1989年、当時はミドルスクール→ニュースクールと呼ばれていたスタイルの過渡期で、ギャングスターはニュースクール系ではなくミドルスクール系の直径のスタイルでした。

ニュースクール系はある意味オールドスクール直径のスタイルと言っても良いかもしれない、ソウル系などのネタ感の強いメロディのあるうわネタに、ブレイクビーツをそのままループさせた、ノリノリでごきげんな曲調が特徴でした。

代表的なアーティストとしては、「ジャングル・ブラザーズ」「デ・ラ・ソウル」「ア・トライブ・コールド・クエスト」「ブラック・シープ」「ファーサイド」「ハイエロ・グリフィッックス」などです。

これに対してミドルスクールは、オールドスクールの「メロディアスなネタ+ブレイクビーツ」→「808の打ち込み」(ブーン・バップの始まり。詳しくは「DJプレミアパート8黒さ全開のブラックネスを感じるベースネタ」に掲載しています。)→ネタのチョップ(短いネタのループ)+「細切れにしたブレイクビーツの打ち込み」という変遷をたどったものと言えるでしょう。

代表的なアーティストとしてはプロデューサーの「マーリー・マール」擁するクイーンズ・ブリッジのレジェンド「ジュース・クルー」一派(「ビッグ・ダディ・ケイン」「ビズ・マーキー」「クール・ジー・ラップ&DJポロ」「クレイグ・ジー」「マスタ・エイス」などのスター集団)や、EPMD(「エリック・サーモン」と「PMD」のデュオ)、「ウルトラ・マグネティックMCs」、「エリック・ビー&ラキム」などです。

最初期のプレミアは、ミドルスクールのスタイルによるもので、特段の目新しさがあったわけではありませんでしたが、ネタ使いのセンスや効果的なハメスクラッチなど、後年に通じるスタイルがすでに表現されています。

このような時期に作られたこの2つのアルバムは、渋い印象ながらも、ハイクオリティでかっこいい曲が揃っている良作です。

今回はこの2つのアルバムから5選します。

1 Word I Manifest(1989)

1stアルバムに収録されている初期の代表作の一つ。

ジェームス・ブラウンのファンキーで鳴りのいいループとマイルス・デイヴィス&チャーリー・パーカーのジャジーなフックのループが絶妙でクセになる中毒性の高い一曲。

PVもファンキーさとドラマ仕立てのシリアス&コミカルな感じが融合したとても良い感じで雰囲気あります。

この時代の音を代表するハイクオリティーなかっこいいシングル曲です。

元ネタは「ジェームス・ブラウン」「bring it back(hipsters avenue)」の冒頭と「マイルス・デイビス&チャーリー・パーカー」のゴリゴリビバップなジャズのスタンダード曲「a night in tinisia」の冒頭です。

声ネタは「ジュース・クルー」のアイドル「ビッグ・ダディ・ケイン」「word to the mother」の1:07と、定番声ネタ「ジェームス・ブラウン・アンド・ザ・フレイムズ」「ain’t that a groove(part1)」の冒頭です。

2 Positivity(1989)

こちらも1stアルバムに収録されているシングル曲で、「word i manifest」の次にリリースされました。

プレミアの多様性を感じられる初期ヒット作の1つです。

ダンサブルでジャジーな、80s感の強いアシッドジャズ風のトラックがプレミアっぽくなくて新鮮な感じがします。

ハメスクラッチのかっこよさは、既にこの頃から顕在で、DJとしての気概みたいなものも感じます。

元ネタは「ブラス・コンストラクション」「changin’」の冒頭です。

声ネタは「ラティー」「no tricks」の1:02です。

3 Just To Get A Rep(1990)

ここからは2ndアルバム収録曲です。

初期の代表先の中でもとりわけ知名度の高いシングル曲でクラシックソング。

この時期以降定番となった「e.v.a.」ネタ使いの代表曲ともに言えるでしょう。

この頃までは、後年のプレミアとは違い、元ネタの冒頭をそのままループさせるスタイルがほとんどだったのですが、持ってくるネタが個性的で面白く、独創性が感じられます。

そんな元ネタは、フランス人で電子音楽のパイオニアの一人である「ジャン=ジャック・ペリー」「e.v.a.」の冒頭です。

声ネタは、のちに「dwyck」でフューチャーする「ナイス・アンド・スムース」「funky for you」の0:15と、「グランドマスター・チリー・ティー・アンド・スティービー・ジー」「rock the massage rap」の0:29です。

4 Love Sick(1991)

プレミアには珍しく、「ラージ・プロフェッサー」や「ピート・ロック」を彷彿とさせるソウルフルなシングル曲です。

しかし実はラージ・プロフェッサーやピート・ロックのソウルフル路線よりも、リリースはこの曲のほうが前なので、その先駆け的な曲だったのかもしれません。

ギャングスター作品の中では異色ながらも、爽やかなインパクトが強く、こちらも初期ギャングスターの代表作と言えるでしょう。

ハート型の12インチのジャケもポップで可愛らしい感じで印象に残ります。

元ネタは、爽やかで開放感満点のフィリーソウル「ザ・デルフォニクス」「trying to make afool of me」の0:15と、「オハイオ・プレイヤーズ」「pain」の0:36です。

声ネタは、スーパースター「エル・エル・クール・ジェイ」の大ヒットクラシックソングで、今っぽさを感じる「i need love」の0:21と、一時期「トゥーパック」も参加していた「デジタル・アンダーグラウンド」「the humpty dance」の0:48です。

5 Say Your Player(1990)

シングルカットはされていない2ndアルバム収録曲です。

後年のNYのトレンドとなるアンダーグラウンドなかっこいい路線のはしりのような一曲。

この時期から数年後のトレンドを先取りしたようなネタ使いで、時代の先をいっていた存在だったんだなと感じます。

この路線は、特に「ゴッドファーザー・ドン」などのほか、名も知られぬ数々のアンダーグラウンドなアーティスト達が継承し、「90年代中期のNYアンダーグラウンドの音」の典型のようなものとなっていきます。

元ネタは、「ドナルド・バード」のグループ「ザ・ブラックバーズ」「wilford’s gone」の冒頭です。

6 Who’s Gonna Take the Weight?(1990)

最後は、↑3と両A面で12インチリリースされた、「クール&ザ・ギャング」のヒット曲と同タイトルの定番曲の一つです。

ファンクそのものと言っても良いほどドファンキーな曲で、迷彩がらのペアルックもカッコいいPVもファンキーです。

シンプルなループが延々続く中毒性のある印象深い曲です。

元ネタは、ジェームス・ブラウンのバックを務めていた「メイシオ・アンド・ザ・マックス」「parrty」の0:08と3:05、声ネタは「エル・エル・クール・ジェイ」「to da break of dawn」の1:01です。

今回はギャングスターの1stアルバムと2ndアルバムから6選しました。

後年の一聴してプレミアだとわかるスタイルはまだ感じられないものの、そのクオリティーやセンスの高さはすでに健在で、どの曲もかっこいよく独創性やアイデアを感じます。

ほかにも数々の名曲がありますが、また別の機会に別の形で取り上げようと思います。

さて次回は、ギャングスターが名を上げるきっかけとなった名盤3rdアルバム「daily operation」から6選します。