ジャン・シベリウス〈後編〉5選

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クラシックピアノ

〈連想第95回〉

前回は、「ワーグナー」→「ブルックナー」→「マーラー」の系譜の最終地点的存在であるフィンランドの「ジャン・シベリウス」の代表的な管弦楽曲を5選しました。

今回はその他の代表曲を5選します。

どれもフィンランドの雄大な自然が思い浮かぶフィンランド人の魂や誇りが感じられる、神々しさと情緒が一体となった名曲ばかりです。

1 ヴァイオリン協奏曲 ニ短調(1903)

シベリウスは元々ヴァイオリニストを目指していたほどヴァイオリンに造詣が深く、ヴィルトゥオーゾでもありました。

そんなシベリウスが唯一遺した協奏曲が、このヴァイオリン協奏曲でした。

曲調はワーグナー路線ではなく、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のような民族的な情緒豊かな路線で、雪が降り積もるフィンランドの冬景色が思い起こされます。

ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキーと並ぶ、ヴァイオリン協奏曲の代表曲の1つです。

演奏は、ドイツ系アメリカ人の「ヒラリー・ハーン」のヴァイオリン、フィンランド人「ミッコ・フランク」指揮、「フランス放送フィルハーモニー管弦楽団」です。

2 もみの木(1914)

交響曲や交響詩のイメージが強いシベリウスですが、実はかなりの数のピアノの小品も遺しています。

それは、時にドビュッシーやショパンなどを思い起こさせる、美しく内省的な曲調のものが多いです。

この「もみの木」は、そんなピアノ小作品の中で、とりわけ演奏機会も多い代表曲と言えます。

5つの小品「樹の組曲」の5曲目に当たります。

この曲は、日本におけるフィンランド音楽の第一人者である「舘野泉」さんが紹介したことにより、広く知られるようになり、人気曲となったと思われます。

演奏は、その「舘野泉」さんです。

3 交響詩「タピオラ」(1926)

シベリウスの交響詩の最高峰と言えるのがこの「タピオラ」です。「タピオカ」ではありません。

「タピオラ」とは、フィンランドの森の神「タピオ」の領土と言う意味で、フィンランドの森を表現したシベリウス最後の交響詩となりました。

この曲を境に、シベリウスは作曲活動をほぼやめてしまい、91歳で亡くなるまでの約30年間、謎の隠居生活を送ります。

いくつかの小品や既存曲の推敲、交響曲の構想を練るなどはしましたが、結局本格的な創作活動を行うことはありませんでした。

この曲は、タイトルのとおりフィンランドの凍てつく森林をイメージさせるような研ぎ澄まされた神秘的な響きが特徴です。

演奏は、前回「シベリウス前編」でもゴリ押しした、オーストリアの帝王「ヘルベルト・フォン・カラヤン」指揮、「ベルリンフィルハーモニー管弦楽団」です。

4 カレリア 序曲・組曲(1893)

シベリウスのかなり初期に作られた曲です。

当初は劇音楽として作られましたが、その後、序曲と8曲の組曲となり、最終的に序曲と3曲の組曲となりました。

初期感溢れるシンプルな曲調の中にも、美しいメロディーや後年に繋がる神秘的な響きなどが随所に感じられて後年の円熟した作品とはまた違った魅力があります。

演奏は、イラン出身のアルメニア人「ロリス・チェクナボリアン」指揮、「ロンドン交響楽団」です。

序曲0:00~、組曲「間奏曲」7:35~、「バラード」11:13~、「アラ・マルチャ」18:46~

5 交響詩「フィンランディア」(1899)

最後はこの曲、シベリウスの代表作で、諸々の交響曲が近年ほど知名度が高くなく演奏機会も少なかった一昔前までは、この曲がシベリウスの代名詞的な曲でした。

時は、ロシア帝国からの圧政に苦しむフィンランドで、ロシアからの独立の機運が高まり、ナショナリズムが高揚していた時代でした。

結局独立を果たすのは、1917年にロシア革命でロシア帝国が滅亡し、1918年の第一次世界大戦の終結後まで20年弱待たなければなりませんでしたが、この頃からその気運は高まりを見せていました。

そんな時に、フィンランド讃歌として作られたのがこの「フィンランディア」です。

当時ロシアは、この曲の演奏を禁止するなどの規制をしましたが、押さえつけられず、その後フィンランド第2の国歌として、フィンランドで脈々と受け継がれています。

曲調は威風堂々とした荘厳なオープニングから始まり、優しく朗々としたメロディアスな旋律に切り替わります。

幼い頃祖母がくれた子供用のクラシック小作品集レコードの最後にこの曲が入っていて、「スケータズワルツ」や「そりすべり」など楽しい曲が並ぶ中、この曲がかかると怖かった、というかすかな想い出があります。

そんな子供向けの作品集にも入っているほどポピュラーな存在だということは言えるでしょう。

演奏は、フィンランドの「ロベルト・カヤヌス」指揮、「ヘルシンキフィルハーモニー管弦楽団」です。

前編・後編2回に分けて、フィンランドのシベリウスを取り上げました。

研ぎ澄まされ、神聖で荘厳ながら情緒溢れる素晴らしい曲ばかりでした。

次回は、ワーグナーの影響を直接的に受けた作曲家、ブルックナー、マーラー、リヒャルト・シュトラウスのうちの最後の1人、リヒャルト・シュトラウスを取り上げます。

クラシック作曲家史上最もワーグナーの影響をダイレクトに受け、その音楽を引き継いだのがこのリヒャルト・シュトラウスと言えるのではないでしょうか。

そんなリヒャルト・シュトラウスの曲から5選します。