〈連想第59回〉
前回取り上げたラヴェルは、「管弦楽の魔術師」とも呼ばれ、ピアノ曲をオーケストラバージョンに編曲することをとても得意としました。
自身の曲のみならず他の作曲家の曲もオーケストラ化し、原曲より有名になっているものもあります。
「フランスらしさ」をイメージさせる、キラキラして軽やかで、輪郭がぼやっとした淡い印象、そんなオーケストレーションの手法は、唯一無二のものではないでしょうか。
今回は、そんなラヴェルがオーケストレーションした曲から5選します。
それぞれ、ピアノ版→管弦楽版の順にご紹介します。
1 マ・メール・ロワ(1910→1912)
「マ・メール・ロワ」は、「マザーグース」を題材にして書かれたピアノ組曲で、その後、管弦楽版、バレエ版と編曲されました。
ラヴェル絶頂期の真骨頂的作品の1つで、これぞラヴェル、という感じの曲です。
優しくファンタジックな美しい曲に、管弦楽版では重厚さや壮麗さが加わります。
リンクは、組曲の中から「美女と野獣の対話」を抜粋しています。
ピアノ演奏は、オランダの「アルトゥール、ルーカス」ユッセン兄弟です。
ジョアン・マリア・ピリスの申し子として少年時代から華々しく活躍してきた、今後の活躍が期待される兄弟です。
オーケストラバージョンは、「ケネス・ジーン」指揮、「スロヴァキア放送交響楽団」です。
2 亡き王女のためのパヴァーヌ(1899→1910)
パリ音楽院在学中に書かれたかなり初期の作品ですが、ラヴェルの代表曲の1つと言えるほど知名度の高い曲です。
ピアノ版に関しては、同時期の音楽家やラヴェル自身にとっても評価は低いものだったようですが、後にオーケストレーションされ、定番曲となっていきました。
とても静かで和音やメロディーが美しく、オーケストラバージョンはそこに深みが加わり、心が震える「響き」「鳴り」を奏でます。
クラシックの中でも、個人的に「音響系」と分類している、「鳴り」や「響き」が素晴らしい曲の1つです。(ワーグナーやシベリウスに「音響系」が多いです)
ピアノ版は、古風な品格と趣がある最晩年の「ヴァルター・ギーゼキング」の演奏。
オーケストラ版は、自分が1歳の誕生日に祖母が買ってくれた子供向け小品集レコードに収録されていて、よく子守歌替わりに聴かせてくれていた(らしい)、「エルネスト・アンセルメ」指揮、「スイス・ロマンド管弦楽団」の演奏が生涯のベストです。
ちなみにこの曲なぜかセブンイレブンでよくかかっています。
3 高雅で感傷的なワルツ(1911→1912)
8曲のワルツからなるワルツ集。
これも、これぞラヴェル、という感じのラヴェルの代表作の1つです。
近代的、フランス的、優雅で淡くノスタルジック、そんな印象が詰まった名曲です。
7曲目に当たる「モアン・ヴィフ」は、後年の「ラ・ヴァルス」にとてもよく似ていて、同じワルツ作品として共通したものを感じます。
ピアノ版は、サティやラヴェルなどの淡くノスタルジックな演奏を得意とするフランスの「パスカル・ロジェ」の演奏。
オーケストラ版は、こちらも華があってベルエポックな雰囲気が輝かしい「エルネスト・アンセルメ」指揮、「スイス・ロマンド管弦楽団の演奏です。
4 道化師の朝(組曲「鏡」より)(1905→1919)
この曲も、前回とガーシュインの回でも紹介した「のだめカンタービレ」で使われた曲です。
フランスで学生生活を始めた「のだめ」が、寮でこの曲を弾いていて、同じ寮のフランクがその音に引き寄せられて…という場面です。
この曲は、5曲からなるピアノの組曲で、その中から「海原の小舟」と、この「道化師の朝の歌」だけがオーケストレーションされました。
「道化師の朝の歌」はこの組曲中、最も知名度の高い曲で、演奏頻度も高いです。
スペイン的な要素も強く、全曲通じてラヴェルらしさが全開です。
ピアノ版は、ドビュッシー、ラヴェルを得意としたドイツの「ウェルナー・ハース」よる色彩感のある絵画的な演奏。
オーケストラ版は、ハンガリー出身のアメリカ人「ユージン・オーマンディ」の指揮、オーマンディが長年音楽監督を努めた「フィラデルフィア管弦楽団」による、スピーディーで躍動感あふれる演奏です。
5 展覧会の絵(1874→1922)
ロシアの「ムソルグスキー」のピアノ組曲をラヴェルがオーケストレーションした、ラヴェルの代表作の1つとも言える、誰もがどこかで聞いたことがあるであろう超有名な曲です。
ピアノ版は、神童と呼ばれエリート街道を突き進み続けてきた、ロシアの「エフゲニー・キーシン」による演奏。
オーケストラ版は、「ヘルベルト・フォン・カラヤン」指揮、「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」の来日公演時の演奏です。
最晩年のカラヤン=ベルリン・フィルによる荘厳で華々しい演奏が、この曲にピッタリです。
それにしても、カラヤン=ベルリン・フィルの組み合わせは、どの作曲家のどの曲でも「カラヤンの音」になるから不思議です。
数多くの巨匠の中でも珍しいことではないでしょうか。
35:10〜は、テレ朝の「ナニコレ珍百景」でもすっかりおなじみです。
今回は、ラヴェルがピアノ曲をオーケストレーションした曲を5選しました。
この他にも、オーケストレーションした曲として「クープランの墓」や「古風なメヌエット」などの名曲もありますが、また別の機会に取り上げたいと思います。
これまで2回に渡って取り上げてきたラヴェルですが、次回は最終回、ラヴェルの前期の作品を取り上げます。