〈連想第3回〉
前回取り上げたドビュッシーは、ショパンやリストからの影響を経て、同時代のサティ、ラヴェルなどとともにピアノを中心とした作曲活動で活躍しましたが、その時代は既にジャズが誕生していました。
ラヴェルは自らの曲に意識的にジャズを取り入れるなどしていましたが、ジャズピアニストもまた、クラシックから影響を受けていました。
その中でも特にドビュッシーの和音はジャズと相性がよく様々なアーティストが好んでいたようです。
今回取り上げるエロール・ガーナーはスタンダードナンバーとして定着している名曲「ミスティ」の作曲者として、また、「ビハインド・ザ・ビーツ」と呼ばれる、テンポにメロディが遅れる奏法の創始者として有名なピアニストです。
ビハインド・ザ・ビーツは、リズムにメロディーなどが「遅れ」てつんのめる感じになることにより、強烈なスウィング感、グルーヴ感を出すもので、この「遅れ感」は、「セロニアス・モンク」や後年のヒップホップにおける「DJプレミア」などにも通ずるものを感じます。
また、ショパンが推進した「ルバート」(右手のメロディーのリズムを一定ではなく演奏者の解釈で自由に揺れ動くように演奏するスタイル)は、ショパン自身が演奏する際、意識的にメロディーを左手のリズムより遅らせることによりエレガントさを醸し出していた、という記述もあります。
近年のピアニストでいえば、フランスの「サンソン・フランソワ」の演奏が全般的にこの「遅れ」が顕著で特徴的です。
この「遅れ」によるリズムの揺れは、魂を揺さぶる何かがあるのかもしれません。
今回はそんな「エロール・ガーナー」の演奏した曲を5選します。
1 Reverie(1949)
前回取り上げたドビュッシーの「夢想」です。
エロール・ガーナーはとてもムードあるロマンチックなピアニストと言えるのではないかと思いますが、そんな彼にこの曲はピッタリ合っています。
この曲自体が持つ雰囲気にうっとり感が加わり、夢見心地な曲になっています。
2 Misty(1954)
スタンダードナンバー、ミスティのオリジナルです。
彼は生涯楽譜が読めなかったらしく、この曲も飛行機の中で思い付き、飛行機を降りてから急ぎ録音したという逸話が残っています。
アルバム「misty」の1曲目に収録されていますが、今回は素晴らしいライブ映像をリンクします。
3 Exactly Like You(1954)
アルバム「ミスティ」の1曲目が「ミスティ」、2曲名がこの曲です。
ミスティとは好対照の軽やかでおしゃれな曲です。
ビハインド・ザ・ビーツも全開で、とてもエロールガーナーらしい曲だと思います。
4 April In Paris(1955)
名盤「コンサート・バイ・ザ・シー」に収められている名曲。カルフォルニアでのライヴ録音です。
ムードがありドラマチックで涙が出てくるほど感動的です。
5 Laura(1964)
映画「ローラ殺人事件」のテーマ曲で、これもスタンダードナンバーです。
とても美しい演奏ですが、こう聴くとドビュッシーだけでなくショパンを感じさせるフレーズなどもあり、ショパンが創造した独創的な和声や奏法がいかに後世にまで影響を及ぼしているか、音楽の奥行きを感じます。
JAZZ625というイギリスBBCの素晴らしいTV番組での演奏です。
今回はドビュッシーの夢想をレパートリーにしていたエロール・ガーナーを取り上げました。
エロール・ガーナーは楽譜が読めず、ピアノ演奏も独学で学んだ人ですが、基礎にはクラシックの土台を感じさせる、ロマンティックでエレガントなピアニストだと思います。
次回はエロール・ガーナーと同時代に活躍した、ドビュッシーからの影響をさらに強く感じさせるピアニスト、バド・パウエルを取り上げます。