ジャン・シベリウス〈前編〉5選

クラシック
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〈連想第94回〉

前回は「ワーグナー」→「ブルックナー」の影響を大きく受けた作曲家兼指揮者の「マーラー」を取り上げました。

今回取り上げるフィンランド人の「ジャン・シベリウス」は、「ワーグナー」→「ブルックナー」→「マーラー」の系譜の最終到着点的な位置づけの作曲家と言えるのではないかと思います。

特にブルックナーからの影響が大きい作風で、神々しく神秘的、荘厳かつストイックなその音楽は、自然や宇宙のような壮大で神聖なものを感じさせます。

作曲の技法やスタイルなどはワーグナーの系譜に入りますが、ワーグナーのような、壮麗ではあるものの人間的で毒々しい感覚やファンタジックな感覚とは対局にある、荘厳ながらも静謐で高尚な曲調のものばかりです。

こう書くととっつきにくい印象になってしまうかもしれませんが、決してそんなことはなく、長大な作品が中心のブルックナーやマーラーよりも、チャイコフスキーなどの情緒あふれるロマン派的な要素も持ち合わせていて聴きやすく、逆にドイツ的な厳格さのない超自然的な趣きがあります。

5歳先輩のマーラーとは個人的な交流もあり、交響曲の考え方について意見を交わしたりしたこともあったようです。

一方で、ドビュッシーやショパンを思わせるような、ピアノ曲や歌曲などの小品もかなりの数を残しており、交響曲のイメージとはまた違った一面も持ち合わせていた多彩な作曲家でした。

3歳先輩のドビュッシーとも直接的な交流があったようです。

聴いていると、フィンランドの森林や湖、雪に覆われた山頂やオーロラ、宇宙などがイメージされます。

その神秘的な曲調や威厳のある風貌から、とてもストイックな人柄を想像しますが、実際は暴飲暴食ぐせが治らず、大量の飲酒習慣や喉頭がん疑惑で手術を受けるなど、ものすごく不摂生な生活を送っていたようです。

それにも関わらず91歳という長寿を全うしたというのもまた、人生というのは不思議なものだなと感じます。

そんなシベリウスの曲を、前編と後編の2回に分けてそれぞれ5選します。

1 交響曲第2番 ニ長調(1902)

まずはこの曲、シベリウスの作品の中で最も知名度が高く演奏機会も多い代表作です。

シベリウスの作品としては中期にあたる頃で、チャイコフスキーの影響が伺える情緒豊かでメロディアスなロマン派的要素のある作品です。

マーラーの交響曲第5番と同年に作曲されています。

メロディアスな箇所も多く聴きやすい印象ですが、そんな中にシベリウスの真骨頂である神秘的な荘厳さが随所に見られます。

特に第1楽章の6:10~8:25の箇所はいつ何度聴いても身震いして鳥肌がたつほど感動的です。

どんどんと気持ちが高ぶってくるような恍惚感、テンションが感じられて本当にかっこいいです。

他にも、第2楽章14:45~16:45や第3楽章30:41~32:17、第4楽章36:26~37:15、44:03~44:52など、恍惚ポイントがたくさんあります。

この感覚は1楽章から4楽章まで通してずっと感じられる感覚で、冒頭からラストまで途切れることなく全てが素晴らしいです。

演奏は、ゆっくりとしたテンポの深みのある響きが感動的な、アメリカの「レナード・バーンスタイン」指揮、「ウィーンフィルハーモニー管弦楽団」です。

2 交響曲第7番 ハ長調(1925)

シベリウス最後期の作品にして、最後の交響曲。

この作品こそシベリウスの最高峰、真骨頂だと感じます。

神秘的で荘厳な響き、研ぎ澄まされた空気感は、まさに壮大な自然や宇宙を感じさせるもので、音響的にも最高の一曲です。

交響曲とは言いながらも、単一楽章で演奏時間も20分強しかなく、長大なブルックナーやマーラーとは対局にある変わった交響曲です。

シベリウスは、交響曲第8番を作曲しかけていたそうですが、「この曲を超えることができない」として自ら焼却処分してしまいました。とてももったいないことです。

例えばショパンも遺言で、自ら作品番号をつけなかった未発表曲は死後焼却処分するように記していましたが、その遺言は守られず、姉のルドヴィカや親友のフォンタナによって出版されました。

その中には「幻想即興曲」などのショパンの代名詞的代表曲などのほかたくさんの名曲が含まれていましたので、そのことと照らし合わせてみても、とても残念だなと思います。

しかしそれだけこの交響曲第7番はシベリウス自身にも手応えがあったものだったのかもしれません。

演奏は、オーストリア出身の帝王「ヘルベルト・フォン・カラヤン」指揮、「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」です。

この曲に関しては、個人的にこの演奏が最高峰で、これを超えるものには出会っていません。

カラヤン=ベルリンフィルの音は、線が細く繊細で華麗、というイメージがありますが、シベリウスに関してはこれがピッタリとハマり、研ぎ澄まされ、無機質で、極限まで美しい超自然・宇宙的な響きが表現されていて最高です。

シベリウスの演奏は、静謐な宇宙的なものと、やや荒々しい野生的な自然的なものと、大雑把に2通りに分かれますが、カラヤンの演奏は前者で、これが自分の中でのシベリウスのイメージそのものになりました。

神聖で神々しい、1967年、イエス・キリスト教会での録音です。

3 交響曲第5番 変ホ長調(1915)

交響曲第2番と第7番の中間に位置するような作風で、シベリウス生誕50周年の祝典にあわせて作曲された節目の曲でもありました。

フィンランドの雄大な自然を感じるとともに、神聖で深みのある厳かな響きもたくさん見られます。

交響曲第7番と併せてシベリウスの最高峰の1つで、7番とセットで聴くことで、雄大なフィンランドの自然に時空を超えてトリップできます。

演奏は、交響曲第7番と全く同じ理由により、「ヘルベルト・フォン・カラヤン」指揮、「ベルリンフィルハーモニー管弦楽団」です。

4 悲しきワルツ(1904)

シベリウスにとっては義兄にあたる戯曲家「アルヴィド・ヤルネフェルト」の「クオレマ」という作品の付随音楽として作曲された組曲の中の1つです。

この「悲しきワルツ」は、当時から人気があり、シベリウスの代表作的な作品としてよく演奏されていたそうです。

シベリウスの作品は、荘厳で神聖な響きを持つ一方、とてもメロディアスで情緒溢れる一面も持っています。

シベリウスの小品には、この2つが絶妙なバランスで融合されているものが多いですが、この曲はその代表だと思います。

心の琴線に触れる美しく悲しく神聖的で幻想的なメロディーとハーモニーが最高です。

演奏は、こちらも「ヘルベルト・フォン・カラヤン」指揮、「ベルリンフィルハーモニー」です。

5 トゥオネラの白鳥(1900)

当初ワーグナーの影響を受けてオペラを構想して作曲に取りかかったものの、「オペラより交響詩のほうが自分に合っている」と思い、オペラの序曲として書き進めていたものを交響詩に切り替えたのがこの「トゥオネラの白鳥」です。

これは、フィンランドの国民的叙事詩「カレワラ」に基づいて作曲された「レンミンカンミン組曲(4つの伝説曲)」という、4つの交響詩からなる組曲の1つで、何度かの改訂を経て最終的には最晩年の1954年に出版されました。

ワーグナーの楽劇がドイツの心を表現していたものであったとすれば、シベリウスのこの交響詩はフィンランドの心を表現していたものであったと言えるでしょう。

フィンランドの雪に覆われた森林、氷に閉ざされた湖、キラキラと輝くダイアモンドダストやオーロラ、そんな情景が思う浮かびます。

演奏は、これも同じく「カラヤン」指揮、「ベルリンフィル」です。

今回は、フィンランドの「シベリウス」の前編と称して5選しました。

どれも荘厳で美しく自然や宇宙を感じる素晴らしい曲ばかりです。

次回は、「シベリウス」の後編と称して、小品を中心に5選します。