アントン・ブルックナー 5選

クラシック
クラシック

〈連想第92回〉

前回取り上げたワーグナーは、クラシック音楽を様々な面で大きく変え、同時代以降の作曲家たちにも多大な影響を与えました。

ワーグナーの影響を直接的に受けた作曲家として、「ブルックナー」「マーラー」「リヒャルト・シュトラウス」が挙げられると思いますが、その中の筆頭格が、オーストリアの「ブルックナー」です。

ブルックナーはワーグナーの影響を「モロ」に受けた作曲家で、ワーグナーに心酔し、研究し、実際ワーグナーに突撃して自身の作品を献呈したりしています。

突撃された時ワーグナーはあまり相手にせず話半分に追い返したのですが、その後渡された楽譜を見て驚き、すぐさまブルックナーを街中探し、自宅へ夕食に招いた、というエピソードがあります。

この時献呈した「交響曲第3番」には、副題として「ワーグナー」と名付けられています。

このことでブルックナーは、当時の「ワーグナー派VSブラームス派」の構図があった中で、完全に「ワーグナー派」となり、その後ブルックナー自身がブラームスと対立していくこととなりました。

しかし、実際ブラームスはブルックナーの後年の作品を評価しており、ブルックナーが亡くなった際、葬儀に参列したブラームスが物陰で泣いていたというエピソードもあります。その後間もなく同じ年にブラームスも亡くなりました。

ブルックナーは元々オルガニストであったため、通奏低音などのオルガン的な響きを持っている作品が多く、音響的な効果、重厚感がもたらされていることが特徴的です。

また、ブルックナーはワーグナーのほかベートーヴェンにも多大な影響を受けており、主に交響曲をメインとした作品群にはその影響が顕著です。

ちなみに、対立していたワーグナーとブラームスは二人ともベートーヴェンを尊敬し多大な影響を受けており、ワーグナーは「自分よりも偉大な作曲家はベートーヴェンだけ」と豪語し、ブラームスの交響曲1番は別名「ベートーヴェン交響曲第10番」と言われるほどベートーヴェンの後継者的位置づけの作曲家であり、その対立に巻き込まれたブルックナーもまたベートーヴェンの特に第九に衝撃を受けてそのスタイルを模倣するなど、皆一様にベートーヴェンが基盤になっているところが面白いです。

ブルックナーの音楽はよく「とっつきにくくて通向け」と言われますが、それはひとえに、代表曲のほとんどが交響曲で、その交響曲一曲一曲がものすごく長い、というところに原因があるように思います。

ワーグナーやマーラーなどのように、長い作品の中のインパクトのある一部分を抜粋して演奏される、ということもないので、「ブルックナーと言えばこれ!」というものがないのもその原因でしょう。

ショパンやモーツァルトのように「BGMとしてかかっていると心地良い」ものでも全くなく、「よし聴くぞ!」という心持ちで軒並み1時間超えの交響曲と向き合って聴かないといけないのでハードルが高いのだと思います。

しかし、長い作品の中の随所随所を切り取って聴いてみると、決してとっつきにくくはなく、時に美しくドラマチック、時に荘厳で大迫力、という感じで、感動ポイントがたくさんあります。

それは、映画やアニメなどのシーンとリンクした時に絶大な効果を発揮します。

ワーグナーの回でも紹介したBGMがほぼ全てクラシックのアニメ「銀河英雄伝説」でのブルックナーの使われ方は、マーラーと並んでとても素晴らしいです。

今回はそのような観点も交えてブルックナーの交響曲を5選します。

1 交響曲第5番 変ロ長調(1878)

ブルックナー54歳のときの作品で、対位法に重きを置いた、オルガン的な感覚が強い作品です。

この曲は、第1楽章の始まってすぐ、1:12~の箇所が、「銀河英雄伝説・第1期25話」のラストシーン、ブラウンシュバイクの腹心アンスバッハが、ラインハルトへの謁見の際にブラウンシュバイクの遺体から突如バズーカを取り出してラインハルトめがけて発砲する、という衝撃的なシーンに使用されています。

このド迫力で重厚な響きが、この衝撃的なシーンにハマり身震いします。

第1楽章で何度も出てくるこの雷が落ちたようなド迫力なフレーズは唐突に出てくるので聴いていてびっくりしますが、とてもオルガン的というか、パイプオルガンの演奏を思い起こさせるような構成とフレーズです。

銀河英雄伝説のくだりは、見ていない方にとっては意味不明だと思います(すみません)が、ブルックナーの魅力を効果的に伝える素晴らしい演出となっていますので、ぜひ見てみていただきたいです。

演奏は、ドイツの大御所「ギュンター・ヴァント」指揮、「NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団」です。

2 交響曲第7番 ホ長調(1883)

ブルックナーの交響曲の中で最も知名度が高く演奏機会も多い曲です。

第2楽章はワーグナーの危篤中に執筆を進め、その途中で死の報に接して、悲しみの中ワーグナーのための葬送音楽として完成させました。

そしてこの曲は、ワーグナーの回で何度も取り上げたバイエルン王「ルートヴィヒ2世」に献呈されたのです。

この曲の第1楽章の冒頭は、「銀河英雄伝説・第1期の最終話である26話」、長大なこの物語中、ある意味最も衝撃的でインパクトのある回、物語の主要人物「ジークフリート・キルヒアイス」が死去する超重要場面で使用されています。

アンスバッハがラインハルトめがけて放ったバズーカは、キルヒアイスが身を呈して弾道を逸らせましたが、アンスバッハの指輪に仕込まれたレーザービームにより胸と頸動脈を撃たれて血の海に沈みます。

そのままアンスバッハは毒を飲んで自死しますが、キルヒアイスはもう手遅れでした。

ラインハルトにとって少年時代からの親友で盟友、唯一心の底から信頼できた唯一無二の存在であった、強く賢く誠実で優しいキルヒアイス。

(ここから音楽スタート)唐突すぎる出来事に何が起こったのかわからず茫然自失となりフラフラと横たわるキルヒアイスに近づくラインハルト。

二人の想い出が走馬灯のように頭をよぎりながら二人は最後の言葉を交わします。

キ「ラインハルト様…宇宙を手にお入れください…」

ラ「ああ、もちろんだ!お前と一緒にな!」

キ「アンネローゼ様にお伝えください…ジークは約束を果たしたと…(ラインハルトを守ってあげてね→はい、という約束)」

ラ「嫌だ!お前が自分自身で伝えろ!お前自身の口で!俺は伝えない!」

キ「…」(笑みを浮かべて目を閉じる)

ミ「亡くなりました…」

ラ「嘘をつくなミッターマイヤー!キルヒアイスがこの俺を残して先に死ぬはずがないんだ!」

部下一同絶句「……」

ラ「目を覚ませキルヒアイス!キルヒアイス!」

「キルヒアイスーー!!!(キルヒアイスー、キルヒアイスー)」

胸に迫るこの場面でかかっているのが、第1楽章の冒頭です。

ラインハルトとキルヒアイスがこれからずっとこの物語の中心人物として進んでいくんだろうと思って見ていた視聴者(私)にとってとてつもなく衝撃的な展開でした。

やさしいメロディーが悲しみを増幅させます。

ちなみにこの第26話のラストシーンはマーラーで感動的に締めくくられるので、それはマーラーの回でまたあらためて取り上げようと思います。

訳がわからない方すみません…

演奏は、ドイツの「オイゲン・ヨッフム」指揮、「ウィーンフィルハーモニー管弦楽団」です。

3 交響曲第8番 ハ短調(1887)

対立していたブラームスに称賛された作品です。

1887年の「第1稿」の後、自身による「第2稿」、その後自身以外による「改訂版」「ハース版」「ノヴァーク版」など複数の版が存在します。

ブルックナーの交響曲は全9曲ですが、第9番は未完成であったため、この第8番が完成した最後の交響曲となりました。

この曲の第4楽章59:00~は、「銀河英雄伝説・第1期2話」のアスターテ会戦の回で使用されています。

演奏は、オーストリア出身の帝王「ヘルベルト・フォン・カラヤン」指揮、「ウィーンフィルハーモニー管弦楽団」です。

4 交響曲第9番 ニ短調(1896)

最終楽章が未完のままとなったブルックナー最後の交響曲。

ニ短調は、ブルックナーが崇拝してやまなかったベートーヴェンの第9と同じ調で、当然にこれを意識し、並々ならぬ覚悟を持って作曲に臨んだ作品でした。

亡くなる日の午前中まで執筆していたのですが、その日の午後に亡くなりました。

この曲もまた銀河英雄伝説の超重要な回で使用されています。

第3期82話、最重要人物で主人公の「ヤン・ウェンリー」がレーザー銃で動脈瘤を撃ち抜かれて暗殺される衝撃の場面で、第1楽章の2:13~が使用されています。

演奏は、指揮が「ブルーノ・ワルター」、「コロンビア管弦楽団」です。

5 交響曲第3番 ニ短調(1873)

この第3番は、冒頭でも述べたとおり、ワーグナーに献呈されたことから、副題として「ワーグナー」とつけられています。

献呈された楽譜を見て感動したワーグナーは自宅へ夕食に招き、「君は唯一ベートーヴェンに達する者だ」と称賛しました。

ブルックナーは曲の中に、ワーグナーへの敬意として、「ニーベルングの指環」や「トリスタンとイゾルデ」のフレーズをいくつか取り入れたりしました。

しかし、自らが指揮した初演は大失敗し、観客は次々と退席し、ほとんど誰もいない中で演奏会を終えるという悲しすぎる演奏会で、ブルックナーはショックのあまりこの後1年間作曲活動を行わなかったそうです。

ただ、この演奏会に最後まで残った数人の観客の一人に、若き日のマーラーがいた、という逸話が残されています。

ワーグナーやマーラーなど、一流の人にはちゃんと届いていたのですね。落ち込んだブルックナーに伝えてあげたくなります。

演奏は、オーストリア出身のレジェンド「カール・ベーム」指揮、「ウィーンフィルハーモニー管弦楽団」です。

今回はワーグナー直径の荘厳で長大な作風が特徴的なブルックナーを取り上げました。

通向けと言われながら、随所随所を切り取るととても聴きやすい音楽ではないかと思います。

さて次回は、ワーグナー→ブルックナーの系譜の次に連なる人物「マーラー」を取り上げようと思います。

マーラーもまた通向けと言われる部類の作曲家かと思いますが、ブルックナー同様、美しく儚かったり迫力があってかっこ良かったり、たくさんの抜粋ポイントがあります。

銀河英雄伝説やルキノ・ヴィンコンティなどの映画と共に取り上げていこうと思います。