クロード・ドビュッシー②〈管弦楽曲〉5選

クラシック
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〈連想第62回〉

「クロード・ドビュッシー」は、第2回でピアノソロ曲を取り上げましたが、今回はそれ以外の曲のうち、管弦楽曲から5選します。

ドビュッシーはフランス音楽史、ひいてはクラシック音楽史における超重要な作曲家です。

前回取り上げたサティに影響を受け、ラヴェルと共にフランスの音を築いたドビュッシーですが、その特徴と言えばやはり「印象派音楽」の代表、と言うか厳密に言うと唯一無二の存在であるということです。

キラキラして色彩的で映像的、内省的で神秘的、さらには日本絵画やインドネシアのガムランなどからもインスピレーションを得たと言われるような西洋の伝統とは異なるエキゾチックな雰囲気も感じられます。

クロード・モネを中心とした印象派の絵画の印象そのままに、「光」「色彩」といったものが音楽で表現されているようです。

しかし当のドビュッシーはそのような「印象派」というカテゴライズを嫌ったようで、モネなどの絵画を意識していたわけではなかったようです。

ワーグナーの前と後でクラシック音楽が変わったように、ドビュッシーの前と後でもまたクラシック音楽は変わりました。

そしてそれは、クラシック音楽史の最後の大きな流れ、うねりとなり、次の時代の音楽、ジャズへと継承されていきます。

第2回の時にも触れましたが、ドビュッシーの和音などを好んだジャズピアニストは多く、「バド・パウエル」や「ビル・エヴァンス」などはその影響を公言していました。

今回はそんなドビュッシーの、まずは管弦楽曲から5選します。

1 牧神の午後への前奏曲(1894)

ドビュッシーの管弦楽曲の中で最もよく知られている代表作。

神秘的な雰囲気が美しく、それまでのクラシック音楽とは全く違ったスタイルで書かれたドビュッシーの代表作の1つです。

現代音楽の作曲家・指揮者の「ブーレーズ」は、「この曲をもって現代音楽は始まった」として、この曲で用いられている様々な手法を、今までとは全く違ったもの、として感銘を受け深く研究したそうです。

演奏は、指揮「シャルル・デュトワ」、長年音楽監督として一流のオケに育てた「モントリオール交響楽団」です。

2 夜想曲(1899)

「雲」「祭」「シレーヌ」の3曲からなる組曲で、「ノクターン」またはフランス語で「ノクチュルヌ」と呼ばれることもあります。

初期の頃に作られたピアノ用の「夜想曲」とは、タイトルは同じですが別の曲です。

ノクターンと言えば、ジョン・フィールドが創始し、ショパンが確立したもので、19世紀後半に流行したジャンルでした。

ちなみに、ガーシュイン、ラヴェル、ドビュッシーはすぎやまこういち先生の音楽に通ずるものを感じますが、その中でもこの曲は特にそれを感じます。

実際すぎやまこういち先生はドビュッシーからの影響や、ドビュッシーを意識して作曲したことを公言しています。

頭の中で世界、映像が展開されてその世界に没入する感覚になります。

演奏は、指揮が「ウラジミール・アシュケナージ」、「クリーブランド管弦楽団」です。

3 交響詩「海」(1905)

3つの楽章からなる交響曲的な管弦楽曲。

第一楽章「海上の夜明けから正午まで」、第二楽章「波の戯れ」、第三楽章「風と海との対話」

出版された楽譜の表紙に葛飾北斎の有名な「神奈川沖波裏」が描かれていたことから、北斎の絵にインスピレーションを得て書かれたと言われることもありますが、実際のところははっきりしないようです。

いずれにしても、この時期のフランスの芸術界には「ジャポニズム」が旋風しており、特に北斎の存在はそれだけポピュラーなものだったことの証ではあるでしょう。

モネやドガのほか、なんと言ってもゴッホがその影響を受けた最たる存在で、そのような世情にドビュッシーも無縁ではなかったでしょう。

演奏は、これも指揮が「ウラジミール・アシュケナージ」、「クリーブランド管弦楽団」です。

4 ペレアスとメリザンド(1902)

ドビュッシー唯一のオペラ。

1893年に初演された、ベルギーの劇作家「モーリス・メーテルリンク」による戯曲で、ドビュッシーのほか、フォーレやシベリウス、シェーンベルクなどもこれを題材に作曲しています。

ドビュッシーの出世作で、この作品によってドビュッシーの名声は高まり、また作曲の内容もこれを契機に変わっていきます。

まず、当時のクラシック界は、ワーグナー以降の音楽はワーグナーの影響下にある音楽がほとんどでした。

前回取り上げたサティなど一部を除いて、マーラー、ブルックナー、チャイコフスキー、シベリウス、リヒャルト・シュトラウスなど、ワーグナーの後継的な趣が非常に強い作曲家たちでした。

しかもその中でも「オペラ」となると、ワーグナーが金字塔、頂点的な存在でした。

そんな中、意識的に脱ワーグナーを掲げて取り組み、成功したのがこの「ペレアスとメリザンド」だったのです。

そんな、音楽的にも知名度的にもドビュッシーの存在を確立させた契機となったこのオペラについて、組曲として編曲されたものと全編の2つをリンクします。

全編だと2時間半強あるので、字幕なしで見るのは流石にしんどい…かもしれないので、組曲版だとハイライト的に気軽に聴けるかと思います。

演奏は、組曲版がフランス人指揮者「アラン・アルティノグリュ」によるドイツの「ケルンWDR交響楽団」で、全編版が指揮「サー・アンドルー・デイヴィス」、「ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団」で、「グラハム・ヴィック」が監督した1999年の舞台です。

5 管弦楽のための映像(1911)

「映像」はピアノ曲で有名ですが、実は全4集あり、第1、2、4集がピアノ曲で、第3集が管弦楽曲です。

「ジーグ」「イベリア」「春のロンド」の3曲からなり、それぞれ単独で演奏されることもあります。

情景を音楽で表現している作品なので、印象派の絵画と連動してイメージさせることが最も多い作品ではないでしょうか。

演奏は、指揮「マイケル・ティルソン・トーマス」、「ボストン交響楽団」です。

今回は、フランス印象派の代名詞的存在であるドビュッシーの管弦楽曲から5選しました。

どれもそれまでのクラシックとは全く違った、しかし伝統そのものはしっかり継承されている、そんなクラシック史の新たな時代を切り開いた曲ばかりです。

次回は引き続きドビュッシーの、今度はピアノ曲・室内楽曲から5選します。