〈連想第50回〉
前回は「フランキー・ヴァリ」のスタンダードナンバー「my eyed adored you」のカバー曲を取り上げましたが、今回はこの曲をカバーした一人である「フレッド・アステア」を取り上げます。
フレッド・アステアは第二次世界大戦前のハリウッド黄金期から戦後1950年代までを中心に活躍した、ダンサー、シンガー、俳優です。
フレッド・アステアはアメリカでは誰もが知るスーパースターですが、日本では例えばフランク・シナトラなどと比べても一般的にあまり知られていないのではないでしょうか。
かのマイケル・ジャクソンもアステアへの憧れを公言し、自身のダンスやライブでは、アステアのダンスやモチーフを意図的に使用したりしているほか、「小さい頃は僕がアステア、妹のジャネットがジンジャー・ロジャースになってよく踊って遊んでいた」とも言っています。
アステアは戦前の作品では「ジンジャー・ロジャース」と組んでたくさんの作品を残したほか、「リタ・ヘイワース」など当時のトップシンガー、ダンサー達とも共演し、どれも名作ばかりです。
ダンスも歌もとてもエレガントでハートフルで、軽やかで気品のあるタップダンスは決して真似できないものでした。
ブロードウェイミュージカルをそのまま映画にしたような、ラブコメ系のコミカルな軽い作風の中に、高い技術に裏付けられた本物の歌と踊りがあり、真のエンターテイメントというものを感じます。
今回はそんなアメリカエンターテイメント史上に燦然と輝く大スター「フレッド・アステア」の歌編と称して、歌がメインのものから5選します。
1 Nite And Day(1934)
記念すべき「フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャース」の初主演映画「the gay divorcee」、邦題「コンチネンタル」。(初共演は前年の「空中レビュー時代」)
ここから伝説が始まりました。
日本は昭和9年です。
この曲は「コール・ポーター」の代表作にして大スタンダードナンバーの「ナイト・アンド・デイ」で、この映画(ミュージカル)が初出です。
伝説づくしのこの映画は、コミカルで楽しく、歌とダンスが満載のエンターテイメントの原点的な名画です。
2 Only When You’re In My Arm(1939)
アステア&ロジャースでヒット作を連発していましたが、この9作目をもってコンビ解消となりました。
後世に残る伝説も、わずか5年間のことだったんですね。
「The Story of Vernon and Irene Castle」、邦題「カッスル夫妻」は、実在した社交ダンスの祖と言われるダンサー夫妻の伝記的作品で、珍しくコミカル路線ではなく号泣必至の愛が溢れる感動的な作品です。
この曲は、この映画のテーマ曲的な曲で、二人の想い出の曲、という胸にジーンとくる曲です。
3 I’m Old Fushioned(1942)
リタ・ヘイワースとの共演2作目、「You Were Never Lovelier」、邦題「晴れて今宵は」からのスタンダードナンバーです。
リタ・ヘイワースと言う女優は、映画「ショーシャンクの空に」(スティーブン・キングの原作「刑務所のリタ・ヘイワース」)」で知りました。
リタ・ヘイワースもまた、日米で知名度のギャップがある1人かと思います。
ただ、このリタ・ヘイワース実はハリウッド女優である前にダンサー、シンガーでした。
なので劇中ダンスを踊るのは本職であり、とても生き生きしています。
この曲は「ジェローム・カーン」によるジャズのスタンダードナンバーですが、これもこのアステアの映画が初出です。
4 Look To The Rainbow(1968)
時代が一気に下り、アステア最後のミュージカル作品、「finian’s rainbow」邦題「フィニアンの虹」です。
そして、この映画は何とあの「ゴッドファーザー」や「地獄の黙示録」で有名な「フランシス・フォード・コッポラ」の初メジャー監督作品であり、ジョージ・ルーカスも制作を手伝ったという伝説づくしの映画なのです。
ミュージカル映画の歴史を創り、支え続けてきた大スター、アステア最後のミュージカル。
何とも味わい深く、感慨深いものがあります。
心温まるハートフルな歌。
涙が出てくる感動的な一曲です。
5 Santa Claus Is Comin’ To Town(1970)
さらに後年、声のみの出演ですが、子供向けの特別テレビ番組「santa claus is comin’ to town」のオープニングです。
ここでもやはりすごく温かみがにじみ出ていて、この番組のコンセプトにピッタリです。
おなじみの曲も味わい深く感動的に聴こえます。
今回はフレッド・アステアの歌編を5選しました。
とてもソフトで優しさを感じる歌声で、心の深いところにグッときます。
ただ、やはりアステアと言えばダンスに触れずに語るわけにはいかないでしょう。
次回はフレッド・アステア〈ダンス編〉を6選します。