〈連想第22回〉
「マルコス・ヴァーリ」や「エリス・レジーナ」、「ジョイス」などはボサノヴァ第2世代と言われたりしますが、第1世代の代表格は間違いなく「ジョアン・ジウベウト」でしょう。
代表格と言うより創始者です。
一般的に「ジョアン・ジルベルト」と英語表記されることが多いですが、ブラジルはポルトガル語なので、サッカーの「ロナウド」を「ロナルド」、「ジウベウト・シウバ」を「ジルベルト・シルバ」と呼ぶような感じでなんか違和感があるので「ジョアン・ジウベウト」と表記させていただきます。
「ボサノヴァ」とは「新しいムーブメント」みたいな意味ですが、この頃のブラジルは、ペレ率いるブラジル代表のワールドカップ優勝や映画「黒いオルフェ」のヒットなど、世界的に見ても大盛り上がり、大注目の時代でした。
まさに新たなうねりの中にある、そんな1950年代後半にボサノヴァは生まれました。
ジョアン・ジウベウトが何日もバスルームに閉じこもって、ボサノヴァのギター奏法「バチーダ」を編み出したのは有名な話です。
全く新しい歌い方とギター奏法のジョアン・ジウベウトと、もう一人のレジェンド、ピアノと作曲のアントニオ・カルロス・ジョビンがボサノヴァを生み出し、数々の名曲を量産しました。
この二人がボサノヴァの代名詞と言っても過言ではないでしょう。
今回はそんなジョアン・ジウベウトから5選します。
1 Chega De Saudade(1958)
伝説のボサノヴァ第1号、アルバム「chega de saudade」に収録されているタイトル曲「シガ・ヂ・サウダージ」邦題「想いあふれて」。
ボサノヴァのもう一人の立役者、作詞家のヴィシニウス・ヂ・モライスと共に、ボサノヴァの時代の幕開けです。
2 A felicidade(1959)
映画「黒いオルフェ」のオープニングで流れる曲。
リオデジャネイロの小高い丘の上のファベーラ(貧困街)をカメラがどんどん登っていき、子どもたちが凧揚げをしているオープニングシーンにこの曲が流れます。
リオデジャネイロ独特の、絶景にある貧困街で流れるこの洗練された曲、何とも不思議な光景、異世界感、貧困街に降り注ぐ真っ青な空からの太陽の陽射しと青い海と高層ビル群のコントラスト、この映画の冒頭のこのシーンで流れるこの寂しげな曲はインパクトが強く引き込まれます。
また、このボサノヴァ独特のコード進行が、理想型というか極致というか、転調の連続で、胸に迫る、ぐっとくる感動的な曲です。
3 lobo bobo(1959)
これもアルバム「chega de saudade」に収録されているとても短い曲。
副題が「the big bad wolf」、赤ずきんちゃんの狼ですね。
洗練されたメロディーとコード進行が素晴らしすぎます。
4 desafinado(1959)
ブラジル国内のみならず、ジャズ系のアーティストなどにも何度も演奏されているスタンダードナンバー。
これもファーストアルバム「chega de saudade」に収録されています。
この曲のコード進行もまた洗練の極致です。
5 samba de minha terra(1961)
アルバム「joao gilberto」の1曲目。
このアルバムも全曲名曲なのですが、今なお受け継がれるサンバの定番曲であるこの1曲目を選びます。
サンバが好きじゃない人のことを罵倒する歌詞が面白い笑、サンバ讃歌です。
抑揚を抑えた感じが、おしゃれながらかっこいい、おしゃれかっこいい曲です。
今回はボサノヴァのパイオニア、レジェンド、ジョアン・ジウベウトを取り上げました。
とにかく全てがオリジナリティに満ちあふれているのですが、やはりあの歌い方はボサノヴァという音楽の印象を決定づけるものでしょう。
脱力した鼻にかかったような歌い方は、「ボサノヴァといえば」と多くの人が感じる素晴らしい発明とも言えるものだと思いますが、あの歌い方はとあるジャズミュージシャンを参考にして真似たものだと言われています。
それは、アメリカウェストコーストジャズのスター、チェット・ベイカーです。
トランペッター兼シンガーである彼の歌が、ジョアンのインスピレーションの元になっていたというのは、色々な面でうなずけるところがありますが、感慨深くもあります。
と言う訳で次回はチェット・ベイカーを取り上げます。