〈連想第23回〉
ボサノヴァの印象を決定づける脱力系の歌い方を始めたのは前回取り上げた「ジョアン・ジウベウト」ですが、そのジョアンがインスピレーションを受け、歌い方の参考にしたのが「チェット・ベイカー」です。
チェット・ベイカーはウェストコーストジャズの代表的な存在で、トランペッター兼シンガーでした。
ウェストコーストジャズは、チェット・ベイカーのほか、ジェリー・マリガン、デイヴ・ブルーベック、ポール・デズモンドなどが筆頭で、皆白人です。
ウェストコーストジャズは、チェット・ベイカーに代表される、落ち着いていてメロディアスで爽やかな印象のものから、ジェリー・マリガンに代表される大編成の華やかでキラキラした印象のものまで様々ですが、総体的にクールで整然としていつつポップ、という特徴があります。
チェット・ベイカーはその甘いマスクと歌声で1950年代に人気爆発します。
ジョアン・ジウベウトへの影響のほか、トランペッターとしても、マイルス・デイヴィスに憧れたというだけあって、とてもクール、しかし甘くメロディアスな演奏は唯一無二のものです。
今回はそんなチェット・ベイカーから4選します。
1 let’s get lost(1954)
アルバム「sings and plays」に収録されている、チェット・ベイカーの個性が詰まった1曲。
壮絶すぎる人生を送ったチェット・ベイカーの若かりし絶頂期、という観点から思いを馳せると、とてもノスタルジックで深い哀愁を感じます。
フリーソウルのコンピレーションアルバム「travel」にも選曲されていて、聴くたびに旅行に行きたい気分になる曲です。
2 line for lions(1952)
アルバム「gerry mulligan with chet baker」に収録されている、ジェリー・マリガンとの曲。
ウェストコーストジャズの2大巨頭による、これぞウェストコーストジャズ!とも言うべきクールで整然としつつもメロディアスでかっこいい名曲。
ジェリー・マリガンとのトランペット・バリトンサックスバージョンの他に、ヴォーカルバージョンもとても良いので2つともリンクします。
3 autumn leaves(1974)
大定番曲「枯葉」をポール・デズモンドと共演した曲。
メンバーが凄すぎるアルバム「she was too good to me」に収録されています。
ポール・デズモンドのほか、ボブ・ジェイムス、ヒューバート・ローズ、ロン・カーター、スティーブ・ガッド…新旧入り乱れて、サウンドもウェストコーストジャズとフュージョンが合わさったような不思議な感じになっています。
貴重なライブ映像があったのですが、よく見ると映像と音が全然合ってません。アテレコです…それでも貴重です!
4 polka dots and moonbeam(1958)
アルバム「polka dots and moonbeam」に収録されているタイトル曲。
アル・ヘイグ、ポール・チェンバース、フィリー・リー・ジョーンズという東海岸のメンバーとカルテットを組んだアルバム。
とても美しい曲で、胸に染みます。
チェット・ベイカーはトランペッターとしてもヴォーカリストととしてもレジェンドでしたが、この時代多くのミュージシャンがそうであったようにドラッグで身を滅ぼし、波乱万丈すぎる人生を送りましたが、ウェストコーストジャズとともに一時代を築いた不世出のアーティストだったと思います。
次回はウェストコーストジャズの一翼を担った、デイヴ・ブルーベックとポール・デズモンドのコンビを取り上げます。