定番リディム⑤〈Full Up〉12選

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リディムレゲエ

〈連想第129回〉

ダンスホールレゲエの定番リディムを連続して取り上げています。

今まで取り上げた「リアル・ロック」「ファー・イースト」「パーティ・タイム」に続き、今回もレゲエのファウンデーションレーベル「スタジオ・ワン」通称「スタワン」からリリースされたものがオリジナルである大定番リディム「フル・アップ」を取り上げます。

「フル・アップ」のオリジナルは、1969年にスタワンお抱えのバンド「サウンド・ディメンション」が、スタワン設立者「コクソン・ドット」のプロデュースによりシングルリリースした曲です。

まったりゆったりしたほのぼのソングで、カリプソっぽい雰囲気もある、そんな、暑い夏のゆるーい空気感を感じる「フル・アップ」リディムから12選します。

1 Freddie McGregor – Africa Here I Come(1980)

「シュガー・マイノット」「デニス・ブラウン」「グレゴリー・アイザック」と並んで「レゲエヴォーカリスト四天王」と称される重鎮「フレディ・マクレガー」です。

ピュアな瞳と温かみが溢れる歌声が特徴で、初録音がスタワンだったという正統派大御所シンガーです。

オリジナルのオケをそのまま使用した「コクソン・ドット」プロデュースのスタワンからリリースされたシングル曲です。

大御所感たっぷりの貫禄のあるフルアップです。

2 Barrington Carol – Sister Carol(1979)

定番リディムシリーズの常連「カナリアボイス」こと「バーリントン・リーヴィ」です。

ほっこりした「フル・アップ」リディムの中でも一段とまったりゆるーい空気感全開のオケに、カナリアボイスがパーフェクトマッチしていて、このリディムが持つ性格が最も伝わってくる一曲と言えます。

こういう曲を聴くと「レゲエっていいな~」と心に染みます。

プロデュースは80年前後に1時代を築いたレジェンド「ヘンリー・ジュンジョ・ロウズ」で、アルバム「Englishman」に収録されているシングル曲です。

3 The Mighty Diamonds – Pass The Koutchie(1981)

「フル・アップ」リディムの代表曲にして、「ザ・マイティ・ダイアモンズ」の代表曲でもあるレゲエクラシック「パス・ザ・コーチー」です。

様々なアーティストがこの曲をカバーしたりフレーズを使ったりしている定番曲です。

アルバム「change」に収録されています。

4 Musical Youth – Pass The Dutchie(1982)

世界的に大ヒットしたUKのキッズバンド「ミュージカル・ユース」の「パス・ザ・ダッチー」です。

↑3の替え歌的な曲で、この時代のレゲエには珍しくPVもあり、後年ヒップホップにサンプリングされることも多々あるなど、グローバルな知名度のある曲です。

とてもゴキゲンで楽しいフル・アップです。

デビューアルバム「the youth of today」に収録されています。

5 Early B – Visit Of The Selassie(1982)

80年代前期から中期にかけて大活躍したレジェンド「アーリー・ビー」です。

サウンド「キラマンジャロ」通称「ジャロ」で、弟子的存在「スーパー・キャット」と共に中心的存在となり、1時代を築きました。

この曲は、ラスタのみならず多くのジャマイカンが崇拝するエチオピア最後の皇帝「セラシアイ」が1966年にジャマイカを訪れたときのことを歌っている曲です。

ジャマイカでは、今でも「セラシアイ来歴○周年」として、節目節目を祝っています。

この曲はアーリー・ビーの代表曲とも言える曲で、持ち味が存分に発揮されためちゃめちゃかっこいい曲となっています。

プロデュースは、「ミッドナイト・ロック」レーベルの主催者で、シンガー「ダヴィル」の父親でもある大御所「ジャー・トーマス」です。

6 Yellowman – Herbman Smuggling(1982),Couchie(1984)

80年代前半に一斉を風靡したレジェンド「キング・イエローマン」です。

アルビノであるがゆえ、黒人ながら肌は白く髪は黄色だったイエローマンは、ダンディーなイケボ系の声と微笑みながら繰り出す下ネタリリックが持ち味で、一時期はスター的な人気がありました。

そんなイエローマンのフル・アップを2曲。

まずは合いの手役の「ファットヘッド」とコンビを組んだ名アルバム「one」に収録されている「ハーブマン・スマグリング」です。

チャンネル・ワン系のレーベル「ヒット・バウンド」からリリースされていて、プロデュースは「ジョセフ・フーキム」です。

もう一曲は、「ロイド・アンド・ミシェル・キャンベル」のプロデュースによる「コーチー」です。

7 Charlie Chaplin – Jah Mi Fear(1987)

幼い頃チャップリンが好きで良くモノマネをしていたことからいつしかみんなから「チャップリン」と呼ばれるようになったという逸話の持ち主「チャーリー・チャップリン」です。

もちろん芸名です。

この時代のディージェーは「クリント・イーストウッド」「リー・バン・クリーフ」「ジョン・ウェイン」「グレゴリー・ペック」など、往年のハリウッドスターの名前をそのままアーティスト名にすることが少なくありませんでした。

リディムの文化にしてもそうですが、現代における権利意識のもとでは生まれなかったものでしょう。

そういうところもレゲエのたまらない魅力の一つです。

チャップリンは、イエローマンの下ネタリリックとは対象的にコンシャス系のラスタディージェーで、80年代を中心に数多くの名曲を残しました。

一聴してそれとわかる「パワーハウス」レーベルからのリリースで、プロデュースはパワーハウスの主催者「ジョージ・ファング」です。

アルバム「free africa!!」に収録されています。

8 Josey Wales – It A Fi Burn(1983)

続いても映画から名前をつけたレジェンドディージェー「ジョジー・ウェールズ」です。

「クリント・イーストウッド(ハリウッド)」が監督・主演した西部劇「ジ・アウトロー」の主人公の名前です。

野太い風だけどハスキーな歌声は、数多くいるディージェーの中でも中毒性が随一です。

その何ともハマるトースティングが最高にくせになる曲で、随所で↑3の「マイティ・ダイアモンズ」のフレーズを使っています。

「VPレコーズ」傘下のUKレーベル「グリーン・スリーブス」からリリースされていて、プロデュースは↑2と同様「ヘンリー・ジュンジョ・ローズ」です。

名アルバム「ジ・アウトロー」に収録されています。

9 Mother Liza – Bore Nose Possie(1983)

80年前後に活動したフィーメールディージェー「マザー・リザ」です。

かなりマイナーなディージェーですが、プロデュースが「バニー・リー」、ミックスが「キング・ジャミー」と黄金コンビによるアルバム「chant down babylon」という隠れ名盤を遺しています。

この曲もそのアルバムに収録されています。

ダビーなオケとトースティングの気だるい雰囲気がめちゃめちゃかっこいいです。

10 Little John – All Who Gone(1982)

少年時代からラバダブの現場で活躍していたダンスホールシンガー「リトル・ジョン」のシングル曲です。

いつもニコニコ和やかな表情で80年代のダンスホールシーンを牽引したリトル・ジョンの最高にまったりしたフル・アップで、おなじみのこぶしの効いた節回しにぐっときます。

プロデュースは↑5と同様「ジャー・トーマス」です。

名アルバム「reggae dance」にも収録されています。

11 Cocoa Tea – Miss Good Looking(1993)

80年代から90年代を代表するレジェンドシンガー「ココ・ティー」のシングル曲です。

優しく伸びやかな歌声が最高に素晴らしく、心が開放されるかのようです。

プロデュースは、初仕事が「シュガー・マイノット」で、その後「ピンチャーズ」「サンチェス」「スリラー・ユー」らを見出した超重鎮「エークスターミネーター」レーベルの主催者「フィリップ・ファティス・バレル」です。

アルバム「good life」に収録されています。

12 Super Cat – Chalice A Lick,Sandokan(1988)

ダンスホールレゲエディージェーのスーパースター「スーパー・キャット」です。

名付け親は「アーリー・ビー」で、ともにサウンド「キラマンジャロ」で名を馳せました。

安定感と風格抜群で、スターの名に違わぬ実力が発揮されています。

2曲ともごきげんなデジタルサウンドによるオケですが、「チャリス・ア・リック」はスーパー・キャット自身のプロデュースによるアルバム「sweet for my sweet」に収録されている曲で、「サンドカン」は↑11と同様エクスターミネターレーベルの「ファティス・バレル」のプロデュースです。

今回はスタワンの大定番リディム「フル・アップ」を取り上げました。

ここまでスタワンのリディムを3回連続で取り上げていますが、次回も引き続きスタワンのリディムである、勢いがありテンションが上がる系のリディム「ゲット・イン・ザ・グルーヴ」を取り上げます。