〈連想第134回〉
レゲエの定番リディムを連続して取り上げています。
今回は定番リディムの頂点と言っても過言ではないほどの大定番、これまで何度も取り上げてきているレジェンドレーベル「スタジオ・ワン(通称スタワン)」より1967年にシングルリリースされた「スリム・スミス」の「ネバー・レット・ゴー」がオリジナルのリディム「アンサー」を取り上げます。
オールディーズR&Bの雰囲気色濃いレゲエ黎明期の作品で、プロデュースはもちろんレーベル創始者の「コクソン・ドット」です。
ボーカルグループ「テクニクス」のリードボーカルだった「スリム・スミス」の代表曲でもあるこの曲は、後にレゲエ史上最大と言っても過言ではないスーパー定番リディムとして現在に至るまで脈々と受け継がれ、このリディムで曲を収録していないダンスホールアーティストはいない、と断言できるほどのダンスホールレゲエを代表する象徴的なリディムです。
そんな大定番リディム「アンサー」を使用した曲から12選します。
- 1 Lone Ranger – The Answer(1977)
- 2 Yellowman – Body Move(1980),Kumina
- 3 Echo Minott – Farmer Man(1982),Cool & Deadly(1983)
- 4 Super Cat – History(1984),Vineyard Style(1985)
- 5 Burro Banton – Non Stop(1983),Settle Yourself(2001)
- 6 Jah Screechy – Walk & Skank(1984)
- 7 Ricky Tuffy – Stamina(1990)
- 8 Marcia Griffiths Ft. Lt Stichie – Special Gift(1993)
- 9 Mirciless – Button Press(1998)
- 10 Pinchers & Capleton – Lift It Up(2020)
- 11 Mad Lion – Glock(1993)
- 12 ブギーマン – パチンコマン(1994)
1 Lone Ranger – The Answer(1977)
アンサーリディムの名の元になった「ローン・レンジャー」の「ジ・アンサー」です。
俗に言うディージェー第2世代を代表するディージェーの一人で、80年前後に名曲を量産しましたが、この曲はそんなローン・レンジャーの出世曲となりました。
この曲が発端となりレゲエ史上最大とも呼べる超定番リディムになろうとはローン・レンジャーも予想していなかったでしょう。
オケはスタワンのオリジナルをそのまま使用しています。
2 Yellowman – Body Move(1980),Kumina
アンサーリディムの代表曲と言えばこの曲、ディージェー第3世代の筆頭キング「イエローマン」の「バディ・ムーブ」です。
あらゆるアーティストが引用するサビのフレーズはダンスホールレゲエの代名詞と言って良いでしょう。
アンサーリディムの代表曲にしてイエローマンの代表曲でもあるダンスホールレゲエを象徴する楽しくごきげんなクラシックファウンデーションチューンです。
自身でも何度も録音していて色々なバージョンがありますが、オリジナルは「ボルケーノ」レーベルから1980年に1時代を築いたレジェンド「ヘンリー・ジュンジョ・ローズ」プロデュースによりシングルリリースされたバージョンです。
このオリジナルバージョンはなぜかタイトルが「belly move」となっているのですが、恐らく誤記なのではないかと思われます。
1984年に改めて「body move」として12インチリリースもされています。
もう一曲はバディ・ムーブの替歌的な曲「クミナ」です。
ラスタやレゲエのルーツともなったジャマイカの土着宗教であるクミナを題材にしています。
3 Echo Minott – Farmer Man(1982),Cool & Deadly(1983)
80年代に活躍したシンガー「エコー・マイノット」のヒットソング「ファーマー・マン」です。
エコー・マイノットの出世作ともなったこの曲は、キーをわざと外してプリミティブな浮遊感を醸し出すスタイル「アウト・オブ・キー」を随所に取り入れた曲で、プロデュースは時代を代表するレジェンド「ヘンリー・ジュンジョ・ローズ」です。
もう一曲は、こちらもレゲエの歴史を築いたレジェンド「プリンス・ジャミー(キング・ジャミー)」プロデュースによるヒット曲「クール・アンド・デッドリー」です。
ラバダブ感満点で、ラバダブ全盛の当時の雰囲気が伝わってきます。
4 Super Cat – History(1984),Vineyard Style(1985)
ダンスホールレジェンド「スーパー・キャット」です。
ダンスホールレゲエが興隆し、世界的に知名度を上げていく時期に、完全にその時代とリンクしてスターダムを駆け上がり、ダンスホールレゲエを象徴するアーティストによるダンスホールレゲエを象徴するリディムを使用した、まさにダンスホール・オブ・ダンスホールな存在です。
1曲目「History」はキャリア初期の名アルバム「Si Boops Deh!」に収録されている曲で、師匠で名付け親である「アーリー・ビー」の影響が色濃いトースティングがかっこいいです。
プロデュースはレジェンド「プリンス・ジャミー」です。
2曲目「Vineyard Style」は「Vineyard Party」という別タイトルでもリリースされていますが全く同じ曲で、初期スーパーキャットの代表曲とも言えるダンスホールレゲエの定番曲です。
スーパーキャットのスタイルが確立された王道のラガマフィンスタイルです。
5 Burro Banton – Non Stop(1983),Settle Yourself(2001)
80年代半ばから活躍するダンスホールディージェーの大御所「ブロ・バンタン」です。
1曲目は、キャリア初期に当時の時のレーベル「ボルケーノ(=「ヘンリー・ジュンジョ・ローズ」プロデュース)」よりリリースされた「ノン・ストップ」です。
超ガナリ声が特徴のブロ・バンタンですが、初期の頃は「ちょっとしゃがれてる」感じのスタイルで、若干ですが「ジョジー・ウェールズ」に似ています。
この頃の抑揚のない訥々としたスタイルも怪しくてかっこいいです。
2曲目はお馴染みのガナリスタイルとなってからの定番曲「セクル・ユアセルフ」です。
疾走感溢れるブロ・バンタンの代表曲の一つです。
6 Jah Screechy – Walk & Skank(1984)
80年代のUKを中心に活躍した実力派ディージェー「ジャー・スクリーチー」です。
80年代半ばを象徴するひたすら抑揚のないお経のようなトースティングが、これまた抑揚のないダビーなアンサーオケと相まってとてつもない疾走感を生み出していてめちゃめちゃかっこいいです。
プロデュースは、「シュガー・マイノット」を師と仰いでいたジャマイカからUKへ渡った実力派「ブラッカー・ドレッド」です。
7 Ricky Tuffy – Stamina(1990)
80年代半ばから90年代初頭にかけて活躍したインド系実力派ラガマフィンディージェー「リッキー・タフィ」です。
デジタルでチープなオケがたまらなくクセになる、ベースラインが若干変則なアンサーです。
インド系特有の妖しさと楽しさが混じり合ったトースティングが中毒性高いです。
8 Marcia Griffiths Ft. Lt Stichie – Special Gift(1993)
大御所フィーメールシンガー「マーシャ・グリフィス」と90年代前後を中心にダンスホールディージェーとして活躍した後ゴスペルレゲエに転向し活躍したディージェー「ルーテナント・スティッチー」です。
この頃のディージェーは、「アドミラル(提督)」「ジェネラル(将軍)」「キャプテン(大佐・大尉)」など階級を用いたアーティスト名が流行っていましたが、「ルーテナント(大尉・中尉)」もその一つです。
時代を象徴するようなタフでマッチョなラガマフィンスタイルと、マーシャ・グリフィスの伸びやかで貫禄ある歌声がマッチして「これぞレゲエ」といった趣の曲となっています。
プロデュースは90年代前後に1時代を築いた「ペントハウス」レーベルのオーナー「ドノバン・ジャーメイン」です。
9 Mirciless – Button Press(1998)
2000年前後に活躍した「マーシレス」です。
残酷・無慈悲、などの意味があるマーシレスというアーティスト名のとおりそのスタイルはタフでハードコアなバッドマンスタイルで、仲間でもあった「バウンティ・キラー」とトースティングスタイルも似ています。
ごきげんなアンサーリディムの中で、ひときわハードな男剥き出しの熱くなる一曲です。
10 Pinchers & Capleton – Lift It Up(2020)
2022年にリリースされたアンサーリディムのコンピレーションで、「ジョージ・ヌークス」「アドミラル・チベット」「リッチー・スパイス」など往年のレゲエシンガーなどが名を連ねる中、レジェンド「ピンチャーズ」と「ケイプルトン」という激アツな組み合わせによる曲の存在が目を引きます。
レゲエシンガーあるあるで「年を経ても歌声が全然変わらない」というのがありますが、ピンチャーズも例に漏れず、活躍していた90年前後の往年の頃とビックリするほど全く変わっていません。
一方のケイプルトンも相変わらずのスタイルで覇気たっぷりで現役バリバリです。
時を経ても変わらぬゴキゲンで楽しいアンサーです。
11 Mad Lion – Glock(1993)
ジャマイカ生まれロンドン育ちでNYはブルックリンに移住したラガヒップホップアーティストの第一人者「マッド・ライオン」です。
こう聴くとマッド・ライオンはやはり「ラガ・ヒップホップ」なんだなとあらためて感じさせられます。
いそうでいない唯一無二のスタイルを持つマッド・ライオンが典型的なダンスホールリディムに乗せてトースティングする珍しい一曲です。
「フランキー・ポール」の「Two Time」という12インチシングルの両A面としてリリースされているかなりレアな曲でもあります。
12 ブギーマン – パチンコマン(1994)
ジャパレゲ界の重鎮「ブギーマン」の大ヒットソングです。
8センチCDでシングルリリースもされたこの曲は、当時そのタイトルや歌詞のインパクトもありレゲエシーン以外でも話題になりましたが、その実アンサーリディムに乗せた王道の本格ダンスホールレゲエでした。
世界的にダンスホールレゲエ熱が高まっていた時期にあって、日本でも盛り上がりを見せていた時期の代表的な一曲です。
今回はダンスホールレゲエで最も使用されていると言っておそらく間違いない定番中の定番リディム「アンサー」を取り上げました。
ゴキゲンで耳馴染みが良く、渋いのにポップで、かつ汎用性の高い万能なリディムだと思います。
次回は定番中の定番と言えばレゲエ史上外すことができない革命リディム「スレン・テン」を取り上げます。