〈連想第44回〉
ラバーズロック、通称「ラバーズ」は、70年代後半にUKで誕生したと言われていて、UKがその一大拠点となっていましたが、厳密にどういう曲をラバーズと言うかという定義があるものではありません。
甘くスムースで、メロディーがしっかりあり、R&B系のソウルフルな歌唱と、ゴリゴリしたハードなものではなく洗練された印象の曲全般を指します。
80年代に隆盛し、その後も途切れることなく今に至るまで脈々とその系譜は続いています。
なぜジャマイカではなくUKだったのか?
元々ジャマイカはイギリスの植民地だったのでイギリスとの繋がりがとても深い土地柄でした。
1962年にイギリスから独立したと共に多くの移民がロンドンなどに向かいました(その他はニューヨークやカナダなど)。ジャマイカでの暮らしが厳しいものだったことが背景にはあったと思われます。
ちなみにイギリスにもジャマイカにも、これまたイギリスの植民地だったインド系の住人が実は多く、「スーパーキャット」「ジュニアキャット」「リッキー・タフィー」など様々なインド系のアーティストがいます。(ジャマイカでは、キャット=インド系の意味)
deejayのお経みたいなトースティングもインド音楽の影響が色濃く、お経を聴いていると「レゲエっぽいな」って感じることがよくあります。
そんな背景からUK・ロンドンにはジャマイカ人が多く住んでいて、レゲエも盛んだったというわけです。
レゲエの前身である「ロックステディ」は、アメリカのソウルやR&Bの影響が色濃い音楽で1960年代に隆盛しましたが、ジャマイカではそれが「ダンス」文化(第36回:ラガヒップホップ〈ハードコア編〉の回で取り上げています)と相まって、独自のダンスホールレゲエ路線に発展していきました。
それに対してUKでは、ソウル・R&B路線で発展していき、ジャマイカのダンスホールとは少しテイストの異なるソフトな印象のレゲエが盛んになっていった、それがラバーズロックだったと言えると思います。
今回はそんなラバーズからまずは80年代のものを5選します。
1 Sugar Minott – Lovers Rock(1980)
ジャマイカン・ラバーズの第一人者は「シュガー・マイノット」です。
ダンスホールシンガーの第一人者でありながら、ラバーズの第一人者でもある訳ですが、その2つは完全に同居しています。
つまりダンスホールでありながらラバーズでもあるという感じです。
「シュガー・マイノット」は80年代初頭にUKで活動していた時期がありました。
そういうこともあって、ラバーズには特別造詣が深かったのかもしれません。
やはりUKラバーズと比べると、ボトムが効いているというか、異国情緒感が強い感じがします。
この曲は、タイトルそのまま「lovers rock」。
アルバム「roots lovers」に収録されている、ラバーズの代表曲の1つです。
2 Peter Hunnigale – In This Time(1987)
ラバーズと言えばこの方、「ピーター・ハンニゲイル」は絶対に外せません。
王道のUKラバーズ。80年代後半から90年代を中心に名曲を量産し、その後も永きに渡り活躍しています。
この曲はデビューアルバム「in this time」に収録されているタイトル曲です。
「hypocrite」リディム風のトラックに乗せてピーター・ハンニゲイルの優しくソフトな歌声でメロディアスに歌い、体が自然に動きます。
3 Janet Kay – Rock The Rythm(1980)
UKラバーズの女王「ジャネット・ケイ」です。
ミニー・リパートン「i love you」のカバーで日本でも知名度が高いと思います。
ジャネット・ケイはラバーズの先駆的存在の一人で、この曲は高名な「デニス・ボヴェル」プロデュースによる1982年のデビューアルバム「capricorn woman」からのシングル曲の1つです。
後半はダブバージョンです。
ルーツ系のダブは煙たく男気あふれるかっこいい感じなのに対して、ラバーズ系のダブはすごくドリーミーで夢の中にいるような心地よさで最高です。
4 Sandra Cross – I Adore You
UKダブで高名なマッド・プロフェッサーのレーベル「アリワ」の看板シンガー「サンドラ・クロス」です。
UKラバーズの代名詞的存在としてたくさんの名曲を残しています。
この曲は、シングルのリリース年は不明ですがサウンド的には80年代中後半と思われます。
「あなたがとても愛おしい」というタイトルで、曲中「you are my everything〜」と歌い上げるところでグッと涙が出てきます。
1994年リリースの「100% lovers rock」という素晴らしいタイトルのアルバムに収録されています。
5 Winston Reedy – Baby Love(1985)
「ウィンストン・リーディ」はジャマイカのラバーズシンガーですが、UKでブレイクしました。
特徴的な声で「ジャッキー・ミットゥー」などのプロデュースにより80年代に多くの名曲を残しました。
この曲は、アルバム「crossover」からのシングル曲です。
今回は80年代に隆盛したラバーズ・ロックから5選しました。
90年代以降はダンスホールレゲエのサウンドがどんどん変わっていく中で、ラバーズは大きく変わることなく現在まで脈々と名曲が生み出されています。
変化の激しかった激動の音楽シーンにおいて、「変わることなく受け継がれている」というのがとても感慨深く感動的に感じます。
次回はそんなラバーズロックの、今度は90年代の作品から5選します。