定番リディム①〈Stalag〉5選+〈Stalagを使用したヒップホップ〉5選

レゲエ
リディムレゲエ

〈連想第125回〉

前回まではヒップホップの定番ブレイクビーツをシリーズで取り上げてきましたが、今回からはレゲエの定番リディムをシリーズで取り上げます。

ヒップホップにおけるブレイクビーツのルーツについては、「ラガヒップホップ〈ハードコア編〉」で詳しく触れていますが、1960年代にジャマイカからNYはサウスブロンクスに移民してきた「DJクール・ハーク」が、ジャマイカで隆盛していた「ダンス」の文化をサウスブロンクスに持ち込みました。

「ダンス」とは、屋外にスピーカーやアンプ、ターンテーブルなどを設置して、屋外即席ライブを行うものです。

そこで行われていたのが、「ラバダブ」と呼ばれる即興のマイクリレーで、元々あるレコードから歌やメロディーなどを抜いた「ダブ」「バージョン」と呼ばれる言わばカラオケに乗せて代わる代わるたくさんの歌い手が歌うというものでした(カラオケの起源の一つ)。

その時に使われた曲で人気のあったもの、かっこいいものなどは、何度も繰り返し使用され、やがて定番となっていきました。

それが1970年代に興隆するダンスホールレゲエの原点であり、それらことを「リディム」と呼ぶようになります。

一つの同じリディムに乗せてたくさんのシンガー、ディージェイが自分の曲としてリリースしていくスタイルが確立されていきました。

それはまるで大喜利のように決まったお題に対して「自分ならこうする」と表現しあうもので、その伝統は今でも受け継がれています。

ヒップホップの「ブレイクビーツ」とレゲエの「リディム」は似て非なるものではあるものの、根幹にある理念・精神は同じものと言えるのではないかと思います。

今回第1回目に取り上げるのは、星の数ほどあるリディムの中でも大定番中の大定番、レゲエのみならずヒップホップや他ジャンルにまで幅広く浸透しているグローバルなリディム「スタラグ」を取り上げます。

オリジナルは「アンセル・コリンズ」が1973年にテクニクスレーベルからリリースした「stalag 17」です。

「スタラグ」とは捕虜収容所のことを意味しますが、元は「ビリー・ワイルダー」監督、「ウィリアム・ホールデン」主演のハリウッド映画「第17捕虜収容所(stalag 17)」からとったものです。

レゲエに限りませんが、曲名やアーティスト名に映画のタイトルや俳優の名前をそのまま使うことがレゲエでは特に多いです。

プロデュースは元「テクニクス」のメンバーにしてレゲエ黄金時代の70年代〜80年代を代表するレーベル「テクニクス」の主催者でもあるレジェンド「ウィンストン・ライリー」です。

このリディムはレゲエ界でも大定番ですが、ヒップホップ界においても大定番で、「レゲエと言えばこのリディム」と言ってよいほどの存在です。

今回は前半でスタラグリディムを使用した曲から5選し、後半ではスタラグリディムを使用したヒップホップを5選します。

1 Tenor Saw – Ring The Alerm(1985)

1988年に21歳の若さで謎の死を遂げた不世出のアーティスト「テナー・ソウ」の代表曲です。

レゲエの歴史そのものと言っても過言ではないレジェンド「シュガー・マイノット」の弟子筋で、キーを意図的に外して歌う「アウト・オブ・キー」のパイオニアとしても有名な、80年代を代表するダンスホールシンガーです。

この曲はテナー・ソウの代表曲であるだけでなく、元々ジャマイカで定番だった「スタラグ」リディムが世界的な知名度を得ることになった、「スタラグ」リディムの代表曲でもあります。

レゲエの音楽史上におけるクラシック中のクラシックと言えるでしょう。

サビの「ring the alerm〜♪」はヒップホップにおけるド定番フレーズとして無数のアーティストが取り入れています。

プロデュースは、オリジナルと同様「ウィンストン・ライリー」で、レーベルも同じく「テクニクス」です。

2 Sister Nancy – Bam Bam(1982)

「テナー・ソウ」に次ぐスタラグの代表曲。

フィメールディージェイの草分け的存在「シスター・ナンシー」の代表曲でもあります。

↑1のテナー・ソウと同じくヒップホップでサンプリングされることも非常に多いです。

以前「定番ブレイクビーツ⑥〈Sing A Simple Song〉」では、この曲のヒップホップリミックスも取り上げました。

プロデュースは同じく「ウィンストン・ライリー」で、レーベルも同じく「テクニクス」です。

3 Buju Banton – Quick(1991)

90年代のダンスホールレゲエを代表するスター「ブジュ・バンタン」がのりにのってイケイケだったデビュー当初にリリースされた1stアルバム「stamina daddy」に収録されている曲です。

90年代前半にはダンスホールレゲエの一つの目の流れのピークを迎えた時期ですが、それを象徴するような曲です。

↑1の「ring the alerm」と合体した故「テナー・ソウ」との共作「ring the alerm quick」として7インチリリースされているものが広く知られています。

プロデュースは同じく「ウィンストン・ライリー」で、レーベルも同じく「テクニクス」です。

4 Big Youth – Jim Screechie(1976)

俗に言うディージェーの第一世代にしてパイオニアの筆頭であるレジェンド「ビッグ・ユース」です。

ダブに乗せてトースティングする怪しさ満点のめちゃめちゃかっこいい一曲です。

70年代の創世記のダンスホールやダブは総じて怪しく男臭く煙たい世界観で、かっこよくてしびれます。

5 Duckman – Real Gun(2011)

時は移ろい2011年。変わらずリリースされ続けるスタラグリディム。

知名度が高いとは言えない「ダックマン」による往年のレゲエの流れを組むかっこいい節回し。

変化し続けるレゲエミュージックの中にあって脈々と受け継がれているものがあることを感じ、感慨深いものがあります。

〈Stalagを使用したヒップホップ〉5選

6 Boogie Down Production – The Eye Opener(1991)

ここからはスタラグを使用したヒップホップを5選します。

個人的にスタラグとの出会いはこの曲でした。

ヒップホップを聴き始めた頃にタワーレコードの視聴コーナーで聴き脳天に稲妻が走りました。

BDP(ブギ・ダウン・プロダクション)≒KRSワンのライブアルバム「live hardcore worldwide」に収録されていて、この曲はイントロに続く2曲目です。

一聴してテンションが最高潮にあがり、アドレナリン出まくりの最高に盛り上がる一曲で、「ヒップホップってやっぱり最高だ!!!」と心の中で叫んだのですが、後になってこれがヒップホップではなくダンスホールレゲエの曲だということを知りました。

ジャマイカ・キングストンから、ニューヨーク・サウスブロンクスに移住した「DJクール・ハーク」らを祖とするヒップホップ。

そのヒップホップが生誕した地サウスブロンクス出身の「KRSワン」のスタイルは、デビューから現在に至るまで一貫してヒップホップとレゲエのハイブリッドでした。

自身のスタイルはナチュラルにヒップホップとダンスホールが融合していて、一曲の中でもヒップホップのフロウとラガフロウを行ったり来たりします。

更にジャマイカのダンスホールアーティスト(シャバ・ランクス、スーパー・キャット・バウンティ・キラーなど)のアメリカでの活動の橋渡し的存在であったほか、NY在住のジャマイカ系アーティスト(マッド・ライオン、プア・ライチャス・ティーチャーズほか多数)の活動もあらゆる形でサポートしてきました。

そんな「ダンスホールレゲエから生まれたヒップホップ」の正統な血統の持ち主の代表格「KRSワン」をまさに象徴するようなライヴ音源がこの曲と言えるでしょう。

7 Main Source – Just Hangin’ Out(1991)

レジェンドプロデューサー「ラージ・プロフェッサー」擁する「メイン・ソース」のクラシックアルバム「Breaking Atoms」に収録されている曲で12インチリリースもされています。

因みに12インチのB面「Live At The Barbeque」にはデビュー前のレジェンド「ナズ」がフューチャーされていることでも有名です。

この曲「Just Hangin’ Out」では、シスター・ナンシーのバンバンがサンプリングされていて、スタラグの冒頭の象徴的なホーンがループされているほか、サビ前には「bam bam 〜♪」の箇所の歌も使われていて、これがまたバッチリハマっていてめちゃめちゃかっこいいです。

8 Fat Joe Ft. Grand Puba,Diamond D – Watch The Sound(1993)

プロデューサー・DJ・ラッパー集団「D.I.T.C.(ディギン・イン・ザ・クレイツ)」の「ファット・ジョー」の名盤1stアルバム「Represent」に収録されている曲で12インチリリースもされています。

アルバムバージョンとシングルバージョンはラップやベースなどが異なり、ベースがほぼないストイックな印象のアルバムバージョンも最高にかっこいいのですが、シングルバージョンは最初から最後までスタラグのベースを使っています。

サビではテナー・ソウのリング・ジ・アラームから「watch the sound 〜♪」のフレーズもサンプリングしています。

これにより、アルバムバージョンよりも格段に怪しくむさ苦しい曲になっています。

さらに「ブランド・ヌビアン」の「グランド・プーバ」と「D.I.T.C.」の「ダイアモンド・ディー」をラッパーに迎えることにより、男気むき出しのめちゃくちゃテンションの上がるかっこよすぎる曲となっています。

プロデュースは「ダイアモンド・ディー」です。

9 Fu-Schnickens – Ring The Alerm(1991)

ラガスタイルを融合した超早口ラッパー「チップ・フー」擁するグループ「フー・シュニッケンズ」のデビューシングルで、タイトルはズバリ「ring the alerm」。

1stアルバム「F.U. Don’t Take It Personal」に収録されています。

サビで「ring the alerm〜♪」の箇所をサンプリングしています。

10 Pete Rock &C.L.Smooth Ft.Heavy D,Deda,Rob-O – The Basement(1992)

最後は「ピート・ロック・アンド・シーエル・スムース」の大名盤1stアルバム「mecca and the soul brother」に収録されている曲です。

師匠である「ラージ・プロフェッサー」直系のスタイルで、↑7と似たような使われ方がされています。

ちなみにピート・ロックの家族もジャマイカ移民です。

今回は定番リディムシリーズ第1段として「スタラグ」を取り上げました。

次回はスタラグに次いでヒップホップ界でお馴染みの大定番リディム「リアル・ロック」を取り上げます。