〈連想第78回〉
前回は、「ピアノの詩人」と呼ばれるショパンの代表作の1つである「練習曲」のうち、20歳前後に頃に作られた12曲からなる「作品10」の1~6を取り上げました。
何のための練習かということを明確にしながらも、芸術性も非常に高い素晴らしい曲ばかりで、前回取り上げた「別れの曲」や「黒鍵」のほか、今回取り上げる「革命」や次回以降取り上げる「木枯らし」など、知名度の高い曲もたくさんあります。
今回は引き続き、「作品10」のうち7~12を取り上げます。
1 エチュード10番7 ハ長調
右手の和音の練習曲です。
右手の使い方が難しく、手の大きさなどによっては非常に難しい曲となります。
演奏は、第5回:1955年ショパンコンクール2位だった旧ソ連の巨匠「ウラジミール・アシュケナージ」です。
2 エチュード10番8 ヘ長調
高速のアルペジオの練習ほか、左右の手を対象に動かす必要があるなど、左手の練習なども含まれている曲です。
華麗で軽快な曲調ですが難易度はそこまで高くないと言われています。
演奏は、第15回:2005年ショパンコンクール1位だったポーランドの「ラファウ・ブレハッチ」です。
3 エチュード10番9 ヘ短調
左手の伴奏のための練習曲。
練習曲の中では易しい部類に入りますが、左手の伴奏には手首の柔軟性を求められるなど難しい要素もあります。
演奏は、リストの弟子だったダルベールの弟子であり、コンサート中に心臓発作で倒れて他界した、ドイツの大御所「ヴィルヘルム・バックハウス」です。
4 エチュード10番10 変イ長調
分散6度の練習曲です。
最初から最後までずっと、右手で、3音の分散和音を弾き続けるという難易度の高い曲です。
ショパンが好んだと言われる変イ長調の曲です。
変イ長調の曲は、とても優雅で軽やかで明るい響きながら憂いを帯びていて、心の深いところにグッとくる曲調のものが多く、この曲もそう感じます。
演奏は、第17回:2015年ショパンコンクール1位だった韓国の「チョ・ソンジン」です。
5 エチュード10番11 変ホ長調
左右両手とも、最初から最後までひたすら分散和音のアルペジオを弾き続ける練習曲。
ハープの音色を聴くような優雅な響きです。
演奏は、体と表情を交えて豊かに表現する、第16回:2010年ショパンコンクール4位だったブルガリアの「エフゲニー・ボジャノフ」です。
6 エチュード10番12 ハ短調「革命」
ショパンの曲の中でもとりわけ有名な曲で、どこかで耳にしたことがあるであろうドラマティックな曲です。
「革命」というタイトルはリストがつけたと言われていますが、ショパンの真意は定かではないとも言われています。
一般的には、ショパンが祖国ポーランドを離れて間もない頃、ロシアから独立するために起こした革命が鎮圧され、その報を聴いた旅中のショパンが、革命失敗の絶望と、家族や友人たちがロシア軍に酷いことをされているのではないかという不安とで錯乱状態になり、その時の激情をこの曲で表現したと言われています。
真意は定かでないとしても、作曲した時期とその曲調からは、そんなエピソードにも信憑性を感じるような、ショパンの曲の中でも珍しい激情的な曲となっています。
しかし、曲の内容はいつものショパンと変わらずプロフェッショナルかつ緻密に構成されていて、冷静です。
主に左手のアルペジオなどのための練習曲で、ショパンが大いにインスピレーションを受けた「ベートーベンのピアノソナタ第32番ハ短調(この曲と同じ調)」を意識したものだとも言われています。
演奏は、第11回:1985年ショパンコンクール1位だった旧ソ連の「ブーニン」です。
前回から2回に渡って、「練習曲:エチュード」の「作品10」を12曲全曲を取り上げました。
明確な技術練習のための指南と、緻密に構成された調整(ハ長調が2度出てきますが)、そして何より聴くものの心に素直に響く芸術性の高さ。
20歳そこそこのショパンが、とても意欲的に取り組んだであろうことが伺える、クラシック音楽史におけるとても個性的な金字塔的作品と言えるのではないでしょうか。
この作品集は、パリに来て間もない頃に出会った「リスト」に献呈されています。
献呈されたリストは、その練習曲を見事に完璧に弾いてみせたといいます。
同じピアノのヴィルトゥオーゾとして、初めはとても親しく尊敬しあい、途中からはスタイルの違いから複雑な関係になっていったショパンとリスト。
この二人にまつわるエピソードも、また別の回で取り上げたいと思っています。
さて次回は、引き続き「練習曲」の今度は「作品25」を取り上げます。
こちらも「作品10」と同様に高い難易度と素晴らしい芸術性を併せ持った、至高の作品集となっています。