フレデリック・ショパン⑨〈バラード〉4選

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クラシックショパン

〈連想第84回〉

これまでショパンについて、「ワルツ」、「エチュード」、「プレリュード」と取り上げてきましたが、今回はついに「バラード」です。

「バラード4選」としましたがショパンのバラードは4作品しかないので、ここではバラード全てを取り上げます。

一般的にショパンのバラードは、人気・知名度的には、1→4→3→2、という感じかなと思います。

特に1番、通称バラ1は、フィギュアスケートの羽生結弦選手が金メダルを獲った際の演技で使用したことで、更に人気・知名度を上げました。

バラードは、4曲ともに共通する曲調として、静かで美しいパートと激しく激情的なパートがある、というのが挙げられます。

また、構成も重厚で芸術性が高く、19世紀欧州の貴族文化が香り立つような格調高い雰囲気が漂い、聴くものをうっとりさせる恍惚的な響きがあります。

そんな、ショパンの作品の中でも重要かつひときわ存在感のある4つのバラードをご紹介します。

演奏は全て、ショパンのバラードで右に出るものはいないと個人的に感じている「サンソン・フランソワ」です。

フランスの天才ピアニストであったフランソワは、軽やかさや19世紀欧州の貴族・ブルジョワの気品を感じる最もショパンらしいショパン弾きだと感じます。

1 バラード1番 ト短調 作品23(1835)

前述した羽生結弦選手がショートプログラムで使用したことで知名度が高まった通称「バラ1」ですが、それ以前にも映画「戦場のピアニスト」で使用されたり、さらにそれ以前から、「ショパンのバラードと言えば1番」というほど人気・知名度が高い作品でした。

パリに来て間もない頃から数年かけて作曲されたこの曲は、ショパンがパリで花開き、まさに名曲が量産された時期に書かれたもので、内容もとても充実したものになっています。

ショパンお気に入りの変イ長調の憂いを帯びた主題から始まり、激情的に曲調が高まったあと、雲間から光が差すような希望に満ちた幸福感、恍惚感のある第2主題へと続きます。

間奏部分では、ワルツを思わせるような軽やかなパッセージが表れるなどバリエーションにも富んだ内容となっています。

とても美しく気品高い作風ながらスッと素直に心に入ってくる、ショパンの真骨頂とも言える作品です。

2 バラード2番 ヘ長調 作品38(1839)

ショパンと同い年だったシューマンに献呈されたこの2番は、そんな意識があったわけではないかもしれませんが、冒頭の第1主題はどことなくシューマンの「子供の情景」などを連想させる、穏やかで軽やかな曲調です。

その後、激情的な第2主題が表れ、穏やかな主題と激情的な主題が交互に繰り返されます。

プレリュードの回で取り上げた、有名なジョルジュ・サンドとのマヨルカ島への療養旅行中に書かれた作品です。

3 バラード3番 変イ長調 作品47(1841)

ショパンお気に入りの変イ長調です。

変イ長調の曲に外れなしです。

もっとも、ショパンの作品に外れなどそもそもありませんが。

バラードの中でも最も優雅な雰囲気のあるこの曲は、ポーランドの詩人「アダム・ミツチェヴィチ」の詩を元にして書いたものとして知られています。

とは言ってもそれは、ストーリーや情景を描写するものではなく、詩の持つ世界観や雰囲気から着想を得て表現した、というものでした。

ショパンは意識的に「標題音楽」というものを好まず、古典派的な、後年で言うところの「絶対音楽」を標榜していました。

純粋に音そのものを表現する、という考え方です。

この話題は長くなるので別の機会にあらためようと思いますが、とにかく後年のラヴェルを連想させる「フランスの音」の原型のような雰囲気を感じるとても洗練されたきれいな曲です。

4 バラード4番 ヘ短調 作品52(1843)

ショパンの真髄が凝縮された、とても密度の濃い、深く心に響く曲です。

ショパンの作品中、全編に漂う緊張感の凄さは、この曲がナンバーワンだと思います。

薄氷を渡り歩くような張り詰めた緊張感と激情が交互にやってきます。

この壊れそうな美しさの中にある恍惚感は他に類を見ません。

評論筋では、この曲がショパンの最高傑作と見る向きもあるようです。

ロスチャイルド夫人に献呈されたというこの曲は、ショパンにとっても気持ちのこもった大作で、満足のいく出来だったようです。

これまで全てフランソワの演奏をリンクしてきましたが、その中でもこの曲だけは特に「この演奏しかない!」と言わせていただきたいです。

とても柔らかで気品に満ち溢れ、神々しさを感じるこのフランソワの演奏は、バラード4の最高峰です。

特に6:04~7:12の間の張り詰めた緊張感と神々しい美しさは、全てのショパン演奏の中でもトップと言えるほどです。

今回は、ショパンの作品の中でも特に芸術性の高さが際立つ「バラード」を取り上げました。

どれもショパンの人生における円熟期とも言える時期に作られたもので、ショパンの真髄が詰まった名曲です。

さて、次回はショパンの曲の中でも最重要と言っても過言ではない「マズルカ」を取り上げたいと思います。

なぜ最重要なのかも、次回ご紹介したいと思います。